第59話『雷雲を抜けた先に』
巨大な積乱雲の下には、大きな大陸が姿を現した。
「あそこだ!」
しかし、大陸に近づくにつれて、海は荒れ、ところどころで雷鳴が鳴り響く。
「突っ走るぞ、野郎ども!」
ドリスが大声で鼓舞をあげると、船の勢いがさらに増して、荒波に逆らうように、雷の大陸に近づいていく。
「ねえリリス、大丈夫?」
「……うん、少し気分が悪いけど」
「船酔いでもした?」
体の隅々が、雷の魔力に触れると、ピリついて集中が分散する。
「違う、けど……」
荒れる海面と目を合わせて、海底を覗き込むように目を凝らす。
『……リス』
(今、私を呼ぶ声が)
エレナを見つめる。
エレナは不思議そうな顔で私を見つめる。
「どうしたの?」
「今、私の名前読んだ?」
「え、読んでないけど」
『リリス!』
脳内に直接響き渡るような声が、どこからともなく聞こえてくる。
(なんでいきなり声が……)
すると、ドリスの声が私を呼ぶ声を上書きする。
「突破!後少しだ」
ふと顔を上げて、大陸の方を見つめると、小さく見えた山々がさっきよりも大きく見えた。
「リリス、あと少しだから荷物忘れないようにね!」
「うん!」
船がゆっくりと速度を落として、完全に止まる。
「よいしょっと!ボルテカ上陸〜」
「結構かかった感じがしたわね」
すると、クロエがルインにおんぶされながら船から出てくる。
「クロエは相変わらず船には弱いね〜」
「船……無理」
「本なんて読むから、ほら行くよ!」
ルインと交代してエレナがクロエを抱える。
「ところで、先の行動は決めているのか」
アルベドが船から降りると、エレナに問う。
「そうね、街とかに行きたいわね」
エレナの回答に、アルベドは頭を掻きながら口を開く。
「質問だが、ボルテカ出身の者はいるか」
しかし、沈黙だけがその場に残る。
「仕方ない……手分けして探すか」
「探すって、見る限り森なんだけど!?」
アルベドは無言で草を掻き分けて、森の奥深くへと進んでいった。
「ちょ、アルベド待ちなさーい!」
アルベドの後を追うようにルナが走って行った。
「はぁ、私たちも行くよ!」
エレナはクロエを抱えたまま、草を掻き分けて森の中を進んでいく。
「まってー!エレナちゃーん」
カルデラが走ってエレナの元に駆け寄る。
「アンタは来んな!」
エレナの冷たい視線がカルデラを凍らせる。
「ほら、元気出せよ」
「そうだよカルデラ〜」
「うぅ、二人共ぉ」
カルデラは木を取り直すと、アルベドとルナが向かった方向に走って行った。
「あっちに行くんだな」
「エレナにフラれてたしね」
ふと乗ってきた船に視線をやると、ドリスが再び船に乗ってある事に気づく。
「ドリアはついてこないの〜?」
「ああ、俺はあくまで運搬係だからな!あと俺はドリスだ」
言い終わると、船が動き出して、来た道を辿って行くかのように大海原へと去って行った。
「気をつけろよ、嬢ちゃん!」
ドリスの声が微かに聞こえたが、風に乗って消えた。
「じゃあ私たちも行こっか」
「そうだな!それじゃあ競争だァ!」
ルインはエレナが進んだ方向に体を向けると、地面を蹴り上げて勢いよく姿を消してしまった。
「ちょ、待ってよ〜!」
ルインの後を追って、草を掻き分けて森の奥へと進んで行く。
ある程度進んだが、一切ルインの姿が見当たらない。
「あれ〜?こっちに行ってたはずなんだけど……」
気づけば人の気配どころか、生き物の気配すら感じられなくなっていた。
「もしかして、迷子?」
その辺に落ちていた木の棒を手に取り、空高く投げる。
「私の運勢は〜」
木の棒が勢いよく地面に落ちると、私が掻き分けてきた草むらの反対方向を差した。
「よし、こっちだね!」
木の棒の方向に進んで行くと、突然魔力の気配を感じる。
(なにかいる!)
素早く杖を構えて、全方位を警戒する。
すると、茂みの奥から
ほんの一瞬、赤い光が灯った。
――第60話へ続く。
3章『ボルテカ編』開幕!




