第4話『魔法学校の公認ギルド』
「リリスゥゥ!!」
という怒号とともに、研究室の扉が勢いよく開かれた。
「ん? ど〜したの?」
私がのんきに顔を上げると、顔を真っ赤にしたエレナが叫んだ。
「わ、私の魔導書は……!?」
エレナの魔導書。ああ、心当たりがある。
さっき廊下で拾った、分厚くて、見るも無惨なアレ。
「ちなみにそれって……」
「これのこと?」
私は、手元にあったボロボロの魔導書の残骸を差し出した。
その瞬間――エレナの周囲に魔法陣が展開される。
「リリスゥゥゥゥ!!」
「よくも……よくも私の魔導書をぉぉ!!」
……どうやら、私が実験で爆破したあの本は、エレナの大事な魔導書だったらしい。
その殺気、顔を見るだけでわかる。
「あっ、いや〜……違っ――」
言い訳を言う暇もなく、魔法陣から魔力が炸裂した。
ーーードガァン!!
爆発音が、学校中に響き渡る。
私の視界が、ゆっくりと暗くなっていった。
(……そういえば、爆破魔法しか集めてなかったし、防御魔法なんて一つもなかったや)
遠くで、廊下を駆ける足音と、騒がしい声が聞こえてくる――。
⸻
「リリス……リリス……」
誰かが呼ぶ声がする。
うっすらと目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。
「あれぇ〜? ここどこ〜?」
「目が覚めましたか!」
目の前には、学長、エレナ、クロエ、そして見知らぬ生徒たちまでが集まっていた。
「リリス……ごめん。ちょっとやり過ぎた……」
エレナがしおらしく謝ってくる。ああ、そうだ。
彼女の魔導書を実験に使って、爆破しちゃったんだった。
「まぁまぁ、無事だったんですしいいじゃないですか!」
「いや、もっと心配してくださいよ……」
クロエのツッコミが、妙に冷静で鋭い。
「ところでリリスさん。先日お伝えした件、覚えていますか?」
「ん〜、なんだっけ?」
「ギルドからの依頼です。爆破魔法の正当化のため、小規模で安全な爆破魔法の研究をしてほしいと」
ギルド――それはこの世界で、依頼人と冒険者を仲介する組織。
そのギルドから、爆破魔法の実用性を証明するため、私に白羽の矢が立ったらしい。
それで思い出した。
ギルドには「ギルドクエスト」という、魔物や竜との戦闘を伴う超難関依頼が数千もある。
しかも、それをすべて制覇した冒険者はいまだゼロ。
「私の爆破魔法があれば、ギルクエ制覇できるかも?」
ポツリとつぶやいたその瞬間。
……部屋の空気が一瞬止まった。
「……言いましたね、リリスさん」
クロエが静かに言った。目がうっすらと光っている。
「ギルクエ制覇なんて、歴代の英雄ですら成し得なかったのに……」
「いや〜、なんかイケそうな気がするんだよね。こう、ドカーンって!」
「そんな軽いノリで語らないでくれる……?」
エレナがこめかみに手を当てて、深いため息。
学長はというと、なぜか満足げにニコニコしていた。
「いいでしょう。リリスさん、あなたにはギルドへの登録を許可します」
「おぉ〜! ってことは、私もうギルドメンバー?」
「正確には、“研究者兼ギルド候補生”という形になります。これから実績を積んで、正式登録を目指してください」
「ふむふむ。じゃあ最初のお仕事は〜?」
「明日から、ギルドの依頼に同行してもらいます」
「えっ、同行って……誰と?」
その瞬間、エレナとクロエが同時に顔を背けた。
「ま、まさか……」
「同行者は、エレナさんとクロエさんのお二人です!」
「えええええええええええ!!?」
こうして私は――
爆破魔法を正当化するという名目で、ギルドの依頼に参加することになった。
爆破魔法を、もっと安全に。もっと便利に。
(でもたぶん、またドカーンってなると思う)