第45話『変な男と重い魔法 2 』
無言で見つめてくるグレーがゆっくりと口を開いた。
「リリスちゃん、ワタシは本気で行くわ。戦闘では手を抜かないタイプなの、覚悟しなさい」
その声はさっきまでの甲高い声の面影は全くなく、戦士の眼差しで見つめてくる。
「……へへ、私だって容赦しないからね〜!」
口では強がっているが、内心ではそれが強がりだとわかっていた。次第に杖を握る力が強くなっていた。
(今まで出会ってきた魔法使いの中で一番オーラがあるかも……。
少なくとも、記憶の中にグレー以上の相手はいない)
すると突然グレーが飛びかかってくる。視界の端には審判が飛び去る姿があった。
(ヤバッ……もう始まってるッ!)
咄嗟に地面を蹴り上げて、後方に飛び上がる。
「爆破魔法《ブラスト弱連》……!」
魔法陣をグレーと私の間に展開して魔力を溜める。
「ワタシを舐めてもらっちゃ困るわ、重力魔法ッ」
するとグレーの周りに魔力が漂い始める。その魔力はさらに強まり、コロシアム全体を埋め尽くす。
(な、なにこの魔力……!体が……重い?)
空中にある体が、まるで下から引っ張られるかのような感覚に陥る。
「な、なにこれ!」
「さあ、落ちなさいッ!リリスちゃんッ!」
グレーの掛け声と共に、体が勢いよく地面に叩きつけられる。
(ぐッ……何かわからなかった……!)
体を起こそうとするが、まるで何かに押しつぶされているかのように起こすことができない。
「ッ……起き上がれない……!」
「さあ、もう終わりかしら?もっとワタシを楽しませてもらいたいものねッ!」
グレーが勢いよく飛びかかってくる。
「……爆破魔法!!」
咄嗟の判断で背後を爆破し、爆風で一気に飛び上がる。
「空中は隙だらけ、これは常識だよ!」
反撃を想定してなかったであろうグレーの腹部を飛び上がると同時に蹴り上げて、反撃を喰らわせる。
「なにッ……!グハッ……」
グレーを後方に吹き飛ばす。グレーは腹部を蹴られながらも、空中で体勢を立て直し、綺麗に着地する。
「なかなかやるわね、リリスちゃん。ワタシ、そういう子好きよ」
血反吐を軽く吐き出すと、グレーは両手を上げ、魔力を集中させる。
(今の蹴り、一般人なら即気絶レベルの強さなのに……!私の反動ダメージの方が大きい……)
グレーを蹴り上げた足を軽く抑え、杖を構えて臨戦体制に入る。
「いつでもかかって来ていいよ……!」
するとグレーの両手の魔力がコロシアム上空に放たれる。
「重力魔法ッ!」
(やっぱり、すごい魔力量だ……。
見るだけでも吸い込まれそうになる……!)
ゼログラヴィティに見惚れていると、自分の体が浮いていることに気づく。
「え、えっ!?なんで浮いてるの〜!?」
「これが重力魔法、リリスちゃんはあそこに吸い込まれているのよ」
グレーが放った魔力に指を刺す。
(なんか、直感が言ってる……
ヤバい!!)
「う〜……爆破魔法《ブラスト弱連》!!」
まるでブラックホールのような魔力に爆破魔法を撃ち込むが、まるで最初からなかったかのように魔力が消える。
(マ、マジでヤバい……!アレ喰らったら普通に死ぬッ!)
すると、仁王立ちで私を見上げるグレーが口を開く。
「心配はいらないわ。リリスちゃんが少しでも重力魔法に触れたら魔力は消す」
(消すって……これ少しでも触れただけでヤバいんですけど〜!!)
「くッ……どうしよう……」
ふと、予備戦での出来事を思い出した。
(アレしかない……!)
体を反転させて、グレーを見下ろす。
「爆破魔法……!」
背後に爆風を発生させ、体を勢いよく吹き飛ばす。
「無駄よ、いくら爆風が強くとも重力魔法の吸引力の前では無力ッ!」
「言ってくれるじゃん……!」
グレーに向かって体は吹き飛ばせたが、再び体が後方に押し戻されていく。
「でもね、魔力量だったら誰にも負ける気しないよ!」
再び背後に爆風を発生させて、グレーに向かって体を吹き飛ばす。
「ほう、だけどリリスちゃん。さっき言ってたわよね……"空中は隙だらけ"ってねッ!」
すると、グレーが地面を蹴り上げて私に向かって飛び上がってくる。
「可愛い子を傷つけたくないが、勝負は勝負。あとで治療してあげるから安心してちょうだい」
「それは、こっちのセリフ!」
自分の右腕の肘あたりに爆風を起こす。
グレーの拳が私を捉えると同時に、爆風により右腕がグレーの拳へと向かう。
グレーの拳と私の拳が衝突する。
(ッ……い、痛い……)
グレーの拳は魔法なしで私の腕を折るくらいのパワーはある。
「なかなかやるわね……だけど力比べなら負けないわよ」
「……これは"力比べ"じゃなくて、"知恵比べ"……!」
グレーが力を込めたと同時に体を捻り、グレーの拳を逸せる。
グレーの拳はあるはずの私の体を捉えられずに勢いを殺せず、ゼログラヴィティに向かって飛んでいく。
「なッ……ク、考えたわね……!」
「重力魔法、解除ッ」
グレーの体がゼログラヴィティに触れる寸前で、魔力は塵となって消えた。
私とグレーの体はゆっくりと地面に落下していき、互いに着地する。
「はぁ……はぁ……」
「おやおや、魔力が切れそうだね。"グレーちゃん"?」
グレーは体中に汗を浮かべながらも、戦闘の構えを取っている。
「まだ、2割は残ってるわ……」
すると、突然グレーが地面を蹴り上げて空に舞う。
「最後の攻撃よッ、重力魔法!」
グレーの足元から、私をコロシアムごと覆うように魔力の結界が現れる。
「このまま押しつぶされなさいッ」
(あんな魔力出したのに……まだこんな魔力出せるの……!?)
「爆破魔法《ブラスト弱連》!」
杖を構えて上空に爆破魔法を撃ち込むが、衝撃は全て横へと流されていく。
(相当な防御性能……爆破魔法じゃビクともしない……)
地面を軽く蹴り上げて、ビッグクランチの結界に触れる。
「ッ!?」
触れた瞬間、体全身に重力が流れたかの如く勢いよく地面に叩き落とされる。
(ヤバ……めっちゃ魔力の質量が高い……!)
最悪な展開を一瞬想像するが、再び杖を構えて魔力を溜める。
(でもさっきのでわかった。あの結界は衝撃を外側に分散させて破壊を防いでいる。前に戦った氷鳳の防御壁と同じだ……!)
「なら……」
地面が急激に揺れ、魔力が微かにビッグクランチの結界の隙間から溢れ出している。
(圧倒的質量で攻撃すれば、分散し切れずに崩壊する!……けど観客にダメージ行かないようにしないとだから……)
「久しぶりに使っちゃうよ!」
深く深呼吸すると、魔力が空気を震わせる。
「制限しない爆破魔法!」
杖の先端に魔法陣が展開され、そこに溢れた全魔力が集中する。
「お祈りタ〜イム!」
一瞬の静寂が流れる。しかし、その静寂も一瞬にして爆音が埋め尽くした。
――ドガガガガガァァァァ
砂煙がコロシアム全体を覆い、至る所から観客の騒めきが聞こえてくる。
(よかった、お祈り成功!)
ゆっくり煙が晴れると、コロシアムのど真ん中には大きなクレーターができており、中央にはグレーが倒れていた。
「魔力切れだ……」
審判が飛び出し、グレーの言葉を聞くと右手を振り上げて――
『魔法祭典本戦、準々決勝第一試合!
グレー・ハザマ 対 リリス・ハルカ!
グレー・ハザマの戦闘続行不可により、リリス・ハルカの勝利ッ!!』
私の勝利宣言が静寂のコロシアムを埋め尽くすと同時に、観客の歓声がさらにコロシアムを埋め尽くした。
「……ふぅ、ちゅかれた」
実況席の音声が聞こえるが、どうやら爆破の振動で色々と惨事になっているようだ。
(まあ観客に危害が及んでないから大丈夫でしょ!)
――第46話へ続く。




