第36話『波瀾万丈』
「予備戦3組目決勝!
エレナ・ルーシー 対 ルイン・シーザー!
これより試合を開始する!!」
審判勢いよく手を振り下ろした瞬間、コロシアム内に火花が散り始め、歓声と二人の足音が響き渡る。
「エレナ、アタシは容赦なしで叩くぜ」
「望むところよ、ルイン!」
ルインは間合い管理をしながら、エレナの対の位置を位置取る。
(ルインが攻めないなんて珍し〜)
エレナがゆっくりとルインに近づき、少し近づいた瞬間に魔法陣を展開する。
「ルインから来ないなんてらしくないわね。炎魔法!」
エレナの魔法陣に焔が燃え盛る。
焔はルインを探るように角度を変え、捉えたかのように勢いよく放出される。
「ッ……!?」
ルインは咄嗟に魔導書を構えて、向かってくる焔を防御する。
「ッ、アチぃ……」
防御した魔導書は焔により燃え盛る。
「ほら、どうしたの?来ないとジリ貧で負けちゃうよ!」
「う、うっせー!喰らえッ!」
ルインは額から汗を垂らしながらも、表情はあまり変えずにエレナに飛び掛かる。
「戦士として育てられた身体能力を舐めるなッ!」
「飛んでたら、身体中隙まみれよ!」
エレナは再び魔法陣を展開して魔力を溜める。
「今回ばかりは多めに見てあげるわ、水魔法!」
展開された魔法陣が微かに潤い、ルイン目掛けて水が噴き出す。
ルインは水圧に押されて、勢いよくコロシアムの柱に飛ばされる。
(なるほど、距離を取ると同時に魔導書を濡らしてルインの弱体化を図ったのか)
ルインはゆっくりとコロシアムの柱に沿って地に足をつける。
「体が濡れてぎこちないッ!」
すると、ルインが勢いよく地面を蹴り上げ、エレナの足元を目掛けて飛び出す。
「ふふ、ルインの攻撃は既に抑えて……」
エレナはルインの手元を確認して驚愕する。ルインの手元にはさっきまであったはずの魔導書がなくなっている。
「まさかッ……!?」
エレナが上を向く。エレナの視界の先にはルインが投げた魔導書がエレナ目掛けて落下していた。
(ルイン、水魔法喰らう直前に魔導書を……いや違う、そもそもルインは水魔法を防御していない)
「……私も甘く見られたものね!」
エレナは額に汗を浮かべながらも、魔法陣を自身の腹部あたりに展開して、魔力を溜める。
「風魔法!」
魔法陣の中心が竜巻のように魔力が渦巻く。風魔法は急速に発達して、勢いよくルインと魔導書、さらにエレナ自身を対になるように吹き飛ばす。
両者が風魔法により上空に打ち上げられる。
「空中戦だったら私が有利ね!」
エレナがルインを見つめながら微笑みを浮かべる。
「ず、ずるいぞエレナァ!それでも生徒会長かァ!?」
ルインが大声を上げながら、怒りに任せて腕を振り、対空を試みる。
「生徒会長だからこそ、相手を平等に不利にするのよ!」
「クソォォォォッ!」
エレナの煽りをルインはなす術なく落下しながら聞いていた。
「アタシはまだ負けてないからなァァァァ!」
そう言いながらルインは勢いよく地面に衝突する。砂煙が舞い上がり、轟音を響かせる。
「ちょ、ルイン大丈夫〜?」
砂煙がゆっくり晴れていく。エレナは空中からゆっくりと舞い降りてきた。
「ちょっとやりすぎちゃったかしら……?」
砂煙が完全に晴れる。しかし、そこにルインの姿はなかった。
「……ッてルインは!?」
コロシアムのど真ん中の地面が微かに色が違うことに気づく。
(あれ、地面の色が違う……他の場所も濡れて色が変わってるところもあるけど、アレは……)
エレナが困惑しながらコロシアムの中央を歩き回る。
「あれ……本当にどこ行った?」
すると微かに空気が揺れて、地が揺れながら音を響かせ始めた。
「ま、まさか……!?」
エレナは咄嗟に飛び上がる。色が変わっていた地面からルインが拳を突き出してエレナを狙っていた。
「ッち……外したか」
「ルインならやりかねないと思ってたけど……まさか本当にやってくるとは!」
ルインの拳は空を切った。にも関わらず、ルインは不敵な笑みを浮かべる。
「"拳は"な」
すると、上空から再び魔導書が落下してくる。
「な、なんで上にも!?」
エレナはジャンプで回避したため、落下してくる魔導書を回避する猶予がなくなった。
「しまっ……」
ルインの魔導書は見事、エレナの頭部に衝突し、エレナは落下した。
ドサッ
コロシアムはエレナの落下音と観客のどよめきが漂う。
(風魔法で吹っ飛ばされた時に上に投げることで、時間を稼いで、タイミングを合わせたのか……ルインの癖に考えおる)
審判がエレナの下に駆け寄る。
「エレナ・ルーシー様、試合は」
審判の言葉にエレナは朦朧とした意識の中で口を開く。
「完……敗ね……」
そのままエレナは完全に地面に倒れ込む。一瞬の沈黙がコロシアムを巻き込むと――
『……予備戦3組目決勝!
エレナ・ルーシー 対 ルイン・シーザー!
エレナ・ルーシーの戦闘続行不可により、ルイン・シーザーの勝利ッ!!』
審判のルインの勝利宣言が沈黙を裂いて、コロシアム中に響き渡ると、観客の歓声が上書きするように響き渡る。
『うおぉぉぉぉ!!』『なんだ今のぁぉぉぉ!』『本を上に投げて!?』『あのエレナさんを……』『クソォォォォ、俺の5万がァァァァ』
(ルイン、まさかエレナに勝つとは……私もルインのこと少しみくびってたからなぁ……)
エレナは救護スタッフに運ばれていく。その姿をルインは立ち尽くして見つめていた。
「か、勝った……のか?」
「ルイン〜!!」
ルインに身を乗り出して手を振ると、ルインは一瞬戸惑いながらも、いつものアホらしい笑顔でてを振り返す。
「よっしゃァァァァ!エレナに勝ったぞリリスゥゥゥゥ!!」
――
「づがれだァァァァ!!」
ルインが振り絞るように低い声を出しながら、宿のベッドに身体を埋める。
「お疲れ、ルインが勝ったんだね」
「そうそう、アタシがエレナの頭に一発……ってクロエ!?」
しれっとクロエが帰って来ていて、先にベッドで本を読んでいた。
「クロエは用事終わったの〜?」
「うん、まずは1タスク終えて休息中」
ふと、クロエのベッドの隣にあるサイドテーブルに乗っている本に視線が向かった。
「クロエ〜その本は?」
「ん、それ拾った奴。落ちてたから、後で届けようと思って」
「え〜っと……『ネオ・リヴァイヴ調査内容&結果』なにこれ?」
本を開くが何も書いていなかった。けれど、微かに魔力で文字が書かれているのを感じた。
「知らない。軽く読んだけど、訳がわからないことばっかで何やら」
すると、部屋の扉がゆっくりと開き頭に包帯を巻いたエレナが入ってくる。
「ただいま……ってクロエ帰って来てたんだ」
「どうしたの、その頭」
「ん、あーコレはルインに一発喰らっちゃった……まさかルインに負けるなんて……」
エレナは拳を握りしめて、歯を噛み締める。ルインは変わらずにエレナの頭を軽く叩く。
「油断してるからそーなるんだぞ!」
「イダッ……!?」
エレナは自分の頭を軽く撫でると、ルインの背後に回って、両頬を強く引っ張る。
「少しは怪我人を労いなさいよォォォォ!!」
「イダいイダいッ……エレナさんストップゥゥゥゥ!」
「まったく」
クロエが本を置き、ゆっくりと立ち上がる。
「今日は私が奢ってあげる、高いところは行けないからそこは勘弁」
「おぉ!本当ですかクロエさん!」
ルインはクロエにがっつき媚を売るが、エレナは相変わらず真っ直ぐじゃない。
「いやいや、そんな。私が奢るよ」
「さっき「怪我人を労え」言ってた奴が何言ってんだ」
「ッ……後輩に奢らせるのは違うでしょ!」
その日は結局クロエがみんなに奢った。
――第37話に続く。




