第33話『道は選び、壁は無視する』
「予備戦第3組目!
ルイン・シーザー 対 シュリンク・リボルト!
これより試合を開始する!!」
審判が勢いよく右手を振り下ろすと花火が打ち上がり、同時にルインが魔導書を振り上げてシュリンクに飛び出す。
「うおォォォォ!!喰らえッ」
ルインが勢いよく魔導書を振りかざすと、シュリンクが魔導書を広げて魔法を唱える。
「物理防御魔法……!」
するとシュリンクとルインの間に大きな物理防御魔法の壁が現れる。
ルインの魔導書が物理防御魔法の壁を捉える。しかし、魔導書が弾き飛ばされルインも後退する。
「ッち……壊れねぇ」
「なるほど、魔導書で殴って攻撃するのか。ならば物理防御魔法のみで完封可能だ」
一瞬の膠着と静寂が訪れる。
「守ってばっかじゃ、いつまで経っても試合は終わらないぞ!」
ルインが魔導書を腰にかけて、シュリンクを睨みつける。
「……ああ、そうだな。でも守ってるだけの僕と攻めなければいけない君。どちらの方が有利かは一目瞭然だろ?」
シュリンクは見下すような視線でルインを見つめる。
「……ああわかった!お前の顔面ボコボコにしてやるッ!!」
ルインは見事にシュリンクの挑発に乗り、魔導書を構えて飛び出した。
「うおぉぉぉぉ!!」
「無駄だよ、単純脳みその君は僕に勝てないのは間違いないだろう?」
「黙れ!お前の魔力切れの方が先だぁッ!」
シュリンクは不敵な笑みを浮かべると、ルインが魔導書を引いた瞬間に一度物理防御魔法を解除する。
「魔力の消費を抑えるのは得意だよ?」
「ッち!舐めるなぁ!」
ルインが再び魔導書を振りかざす。それに合わせてシュリンクは物理防御魔法を魔導書の軌道に合わせて召喚する。
「うおぉぉぉぉ!」
ルインが高速で魔導書を叩き込む。しかし、その全てはロックに阻まれ、シュリンクには届かない。
「……はぁ、堅すぎるだろ……」
ルインの額から微かに汗の滴がこぼれ落ちる。
「おやおや、もう限界ですか?」
「……そんなわけないだろうがぁッ!」
ルインは再び地面を蹴り上げ、シュリンクに飛び掛かる。
「元戦士のアタシを舐めるなぁ!!」
魔導書を掲げて、シュリンクの頭部を狙う。シュリンクは魔導書の軌道に物理防御魔法を召喚する。
「無駄だと言っている……」
魔導書は物理防御魔法に防がれる。しかし、ルインは左足でシュリンクの足を蹴り飛ばし、シュリンクは勢いよく壁に吹き飛ばされる。
ドカァァァァン――
「無駄だぁ?今の状況見て同じこと言えるのかゴラァ!!」
煙がゆっくりと晴れて、中からコロシアムの壁に軽くめり込んでいるシュリンクが顔を出す。
「まさか、あの女にこんな芸当ができるとは……油断した。だが、まだ終わりではない……」
シュリンクがゆっくりと壁から体を出して、ルインを睨みつける。
「魔力消費を考えなくてよくなった。あまり使いたくない方法だが……勝つためには仕方ない」
シュリンクが一歩、また一歩とルインに近づく。
「ッち、一撃KO狙った蹴りだったんだが……」
軽くジャンプして構える。
「物理防御魔法!」
シュリンクが地面に手をかざすと、物理防御魔法がルインの周りを囲うようにそびえ立つ。
「ッてうおぉ!?」
ルインとシュリンクが物理防御魔法の壁で完全に分断される。
「降参しろ、お前は完全に"詰み"だ」
「誰が降参するかよバァカ!!」
ルインは強がっているが、明らかに焦って、額から汗がこぼれ落ちている。
「そうか、ならば諦めさせてやる」
シュリンクが物理防御魔法の壁に触れると、ゆっくりと物理防御魔法の壁がルインに向かって動き始める。
「嘘だろッ!こんなデケェ壁……破壊できないから押し潰されるじゃねえか!!」
ルインが壁を全力で叩くがびくともしない。
「……マズイ、だけどまだ道があるはずだ……!」
ルインは物理防御魔法から少し離れてその場に座り込む。
「壁はアタシの力では破壊できない逃げようにも上しかない。それに壁は高い。観客席に入るのはルール違反……」
「あーやっぱりダメだァァァァ!!」
そのまま地面に寝転がる。
「まだ何か策が……」
一瞬の沈黙の後、ルインが突然飛び起きる。
「そうだ!忘れてた、魔法祭典に出るために魔法を開発したんだ!」
ルインがゆっくり物理防御魔法の壁に耳を当てると、そのまま移動して何かを探っている。
「よし、居た!」
ルインが耳を壁から離し、その場所に手をかざす。
(居た……?壁の先……)
ルインが手をかざした壁の反対側にはシュリンクが居る。
「喰らえ!貫通魔法!」
ルインが手のひらに魔力を貯めると、勢いよく魔力を放ち、その魔力は壁を破壊せずに反対側にいるシュリンクに当たる。
「何ッ!?」
そのままシュリンクは軽く吹き飛ばされる。
「バ、バカなッ……壁は破壊されてない。なのになぜッ……」
観客席がどよめく。
「今の……貫通したぞ?」
「壁、壊れてないのに……?」
その様子を隣で見ていたエレナが静かに口を開く。
「あれは恐らく貫通魔法ね、物体や魔力を貫通して先にいる敵を攻撃できるって言う魔法よ」
「なるへそ〜」
「よくよく考えたら、ルインと相性が良すぎる魔法よ……」
ルインを囲っていた物理防御魔法の壁がゆっくりと崩れていく。
崩れた物理防御魔法の壁からゆっくりとルインがシュリンクに向かって足を運ぶ。
「さて、魔導書と貫通魔法。どっちを喰らいたい?」
ルインはシュリンクに向かって蔑むように静かに口を開く。
「貫通魔法を、喰らわせてみろ……」
ルインがシュリンクに向けて手をかざし、魔力を貯める。
「貫通魔法!」
ルインの手のひらから魔力が放たれ、シュリンクを捉える。
「軽減魔法ッ!」
シュリンクが貫通魔法に手のひらをかざすと、魔力が溢れ出し貫通魔法を覆い込むと、貫通魔法が消滅する。
「なに!?」
「僕はまだ終わらない……!」
シュリンクが体を起こして、再び物理防御魔法の壁を召喚しようとする。
「ッ……そうはさせない!」
ルインが物理防御魔法の壁を召喚しようとしているシュリンクに向かって魔導書を掲げて飛び掛かる。
「喰らえッ!」
「無駄だッ……!」
再び物理防御魔法の壁がルインとシュリンクの間に立ちはだかる。
「ッ……貫通魔法!」
しかし、ルインの魔導書から魔力が溢れ出し魔力が壁越しのシュリンクに喰らわせる。
「しまっ……」
ドカァァァァン――
物理防御魔法が崩れ落ち、煙の中からルインと倒れたシュリンクが現れる。
審判が飛び出し、シュリンクの状態を確認すると、右手を勢いよく振り上げ――
『予備戦第3組目!
ルイン・シーザー 対 シュリンク・リボルト!
シュリンク・リボルトの戦闘続行不可により、ルイン・シーザーの勝利ッ!!』
審判によるルインの勝利宣告を聞いた観客が、沈黙を吹き飛ばして歓声だけがコロシアムを埋め尽くす。
『うぉぉぉぉ!!』『あのシュリンクを!?』『シュリンク様ァァァァ!!』
「ルインないす〜!!」
「お疲れルイン!」
コロシアムの中央で立ちつくすルインが息を深く吸い込むと――
『うおっしゃぁぁぁぁ!!』
勝利の雄叫びがコロシアム中に響き渡った。
――
【ルインの試合開始前、クロエ視点】
「さあ、お前たちのアジトを教えろ」
フードを被った男2人に刃を向ける。
「言うものかッ、そんなことよりこの拘束を解除しろ!」
「どうなっても知らないぞッ!」
男たちの命乞いを無視して刃をゆっくりと近づける。
「今から意識に付け入る魔法を考えるからあと1日くらい待ってもらう」
ゆっくりと刃をしまって、男たちを背中に、人気の少ない廃工場を立ち去る。
――第34話に続く。




