第31話『水の妖精と爆破の魔女』
『試合開始ッ!』
(――来る。この初戦、絶対に負けられない!)
視界の中央でルナがゆっくりと魔法陣を展開している。
「早速、水の妖精の力を見せてあげる」
複数の魔法陣が現れて、そこから魔力が勢いよく飛び出してくる。
「爆破魔法《ブラスト・弱連》!」
私も対抗して、魔法陣を複数個召喚して、そこから爆破魔法を飛ばし、ルナの魔法と衝突させる。
「ッ……やっぱり衝撃が吸収されてる……」
「ふふ、その程度じゃ押し切られちゃうわよ?」
爆風が静かに水の中に飲み込まれて行く。
「水魔法!」
再びルナの周りで魔法陣が複数個召喚されて、水魔法が噴き出してくる。
「爆破魔法《ブラスト・弱連》……」
爆破魔法で水魔法を迎え撃つが魔力があまり出せないため、どんどんと押されている。
「ッ……これじゃキリがない……」
水の弾幕が、波のように途切れることなく押し寄せる。
地面を蹴って距離を取るが、すぐに別方向から水の刃が飛んでくる。
「ちょっ……速いって!」
「逃げるだけ? 爆破魔女さん」
ルナはほとんど動かない。
その場に立ったまま、指先の魔力操作だけで水を操っている。
(魔力量も操作精度も、完全に向こうが上……)
爆破魔法を強めれば、一気に押し返せる。
でも――それは出来ない。
(ここで威力を上げたら……観客席まで吹き飛ぶ)
一瞬の躊躇を、水は逃してくれない。
「水魔法!」
正面からは水の弾幕が、逃さまいと左右から水の刃が退路を塞ぐ。
「爆破魔法!」
咄嗟の判断だったが、地面に爆破魔法を打ち込むことによって、爆風と反動で空中に飛び立つ。
「危なッ……」
安堵も束の間、ルナの足元に魔法陣が召喚される。
「空中に逃げ場はないわよ?」
「水魔法!」
魔法陣から水の柱が立ち、勢い良く私目掛けて飛んでくる。鎖のように絡み合った水流が目前まで迫っている。
「まだ、逃げ場はある!」
自分の正面に再び爆破魔法を撃ち込み、爆風でさらに上空に舞う。
「ッ……なかなかやるわね」
「今度は、私のターンだ!」
空中で体を捻り、視界を太陽に向ける。
「アドリブでもここまで行けるんだぞ〜!」
自分の正面、衝撃が届かない絶妙な距離で爆破魔法を即爆させる。
計算された爆風だけが体を押す。
「爆破魔法!」
爆風で勢い良く地面に向かって吹き飛んでいく。
「そして、爆破魔法《ブラスト・弱連》!」
もう一度体を捻り、ルナを視界の中央に捉える。
「なにッ……水魔法!」
ルナが地面に手をかざすと、ルナを守るように水が球状にルナの周りを囲う。
爆破魔法が水のドームに触れ、爆発するが、水が爆風で飛び散るだけで、穴すら空かない。
「効かない……けど!」
そのままルナの居る水のドームに焦点を合わせて体を落として行く。
「突撃ィィィィ!」
水のドームに体が触れる、顔と右手だけがドームを貫通してルナと目が合う。
「しまッ……!?」
落下の衝撃を抑えつつ、そのまま地面に爆破魔法を撃ち込み、爆風でルナを地面から隔離させる。
「飛んでいきな〜!!」
「ッ……マズい!」
焦点をルナに合わせて、魔法陣を展開する。
「くッ……こうなったら……!」
ルナの瞳の色が微かに濃い深海のような色に変わる。
「奥義!水球展開」
ルナが右手を空に掲げると、ルナの上に巨大な水のドームが現れる。
「ッえぇ!?デカすぎるッてぇ!!」
「ふふ、これで私の勝ちね……」
『詰みと言ったところかしら』
ルナが右手を振りかざすと、巨大な水のドームはゆっくりと私に向かって落下してくる。
(まずい……あんなのをまともに食らったら最悪死ぬ……!)
『観客のみなさま、屋根のある後方に避難をッ!』
観客席では、ルナの水球展開を危惧して後方席への避難をしている。
「リリスッ……逃げて!」
エレナが必死になって私を呼ぶ。
「あんなの喰らったら死んじゃうよッ……!?」
「エレナ落ち着け……リリスなら逃げれる……」
ルインがエレナを落ち着かせようとしているが、ルインも明らかに焦っている。
「大丈夫、勝つから!」
汗が地面の砂を潤す。太陽の光を水球が遮る。
「リリスゥゥゥゥ……!」
水球がもう体に触れそうなくらい接近した。
「アドリブは私得意だから!」
瞬時に魔法陣を足下に展開する。
(ルナのおかげでいい防御方法を思いついちゃった!)
「爆破魔法!」
魔法陣の端から球状に爆破を連鎖させて、水球をいなしていく。
水球が私を完全に飲み込む。しかし、爆風によって私に水は干渉できない。
「リリス……リリスッ……!!」
ゆっくりと水球が地面に吸われて完全に消え、砂埃が舞う。
「ふふ、私の勝ち……」
「残念だったね!」
ゆっくりと砂埃が晴れて、ルナの背中を視界に捉える。
「ッ……な、なぜ……」
ルナが振り返り、私と目が合う。
私の体は無傷、服も濡れてすらいない。
「……無傷、で……?」
ルナは膝から崩れ落ち、体を震わせている。
「もう魔力不足〜?へへ、私って野生で生きてたから何かを真似するのは得意なんだよね〜!」
審判がルナの体の様子を確認する。そして右手を挙げて――
『予備戦第1組目!
リリス・ハルカ 対 ルナ・シャル!
ルナ・シャルの戦闘続行不可により、リリス・ハルカの勝利ッ!!』
審判による私の勝利宣告を聞いた観客が、沈黙を吹き飛ばして歓声だけがコロシアムを埋め尽くす。
『うぉぉぉぉ!』『なんで無傷なんだよ凄すぎるぜぇぇぇぇ!』
「へへへ!」
「リリスゥゥゥゥ……よがっだァァァァ!!」
エレナが歓声に紛れて、観客席を飛び越え、泣きながら抱きついてくる。
「も〜なんで泣いてるんだよ〜!」
「だって……防御魔法使えないじゃん……」
「もう、エレナは心配性なんだから〜!」
――
試合が終わり、コロシアムは次の試合で盛り上がっていたが、私たちには観る時間はなかった。
「疲れたぁ……」
「よく頑張ったわね、もう一時はどうなるかと思ってヒヤヒヤしたもん!」
「リリスってアホっぽいけど、頭はまあまあいいからな!」
「誰がアホじゃ!」
試合に勝った安堵からか違和感が急に私を襲う。
「……ところでクロエは?」
「あーそのことなんだけど……」
――
【試合開始前、クロエ視点】
薄暗いコロシアム付近の路地裏でフードを被った二人組の男が会話をしている。
「いいか、試合が終わった奴を襲ってここにアジトに運んでこい」
「了解ですボス!」
反射的に話を盗み聞きしてるけどバレたらマズい。
(だけど……)
すると、大きな歓声と爆発音が近くで響き渡る。
(試合が始まっちゃった……観たかったな……ごめんねリリス。応援はしてるから……)
「なんの音だ……?」
「おそらく試合が始まったんだな。なかなかの強者っぽいが、試合後は疲労でまともに反撃できないだろう」
(ここでコイツらを仕留めないとリリスが危ないかもしれない……やるしかない)
体をゆっくりと話している二人組の男の前に立つ。
「それはできないよ」
「あぁん……誰だお前?」
「話を聞いてしまったようだな……!」
フードの下から目線を感じるが、特に何も感じない。男たちのポケットから微かに拳銃が顔を出している。
「……痛めつけてから警備員に送ってあげる」
私の正面に巨大な盾が現れ、私と男たちを遮る。
「相性は私の圧倒的有利……だね」
――第32話へ続く。




