第三十九話 「 音色 」
「明日魔王城へ出発します」
昨晩、ピーカ王女にそう伝えた俺。
‥‥ 緊張からか予定よりずいぶん早く目覚めてしまった。
二度寝する気分でもなく、おもむろにリュックサックをまさぐる。
「一晩お世話になったお礼に、残った餅で " 揚げ餅 " を作ってみるか」
前にミーコが作っていた動画を見て、いつか作ってみようと思っていたのだ。
1センチ角くらいに小さくカットした餅を油で揚げ焼きする。花が咲くようにプックリ膨らみ、外側がカリカリッと焼けてきたら塩と醤油で味付け。シンプルだけど美味しいこと間違いなし!
気に入ってくれるといいな。
ーー 出来上がった揚げ餅を、館のホールへ運ぶ。
すでに朝食を終えたゴブリンたちが思い思い休憩をしていた。ホール内を見回すと、ごろりと床に寝そべる者や平たい木版と白黒の石を使い囲碁のような遊びに興じている連中、壁にもたれて腕組みをしている者もいる。
俺はお盆をホール中央にある長テーブルへ置き、大きな声で呼びかける。
「皆さん、昨晩お世話になったお礼です。餅で作った " 揚げ餅 " 良かったら召し上がってください」
そう言うが早いか、ゴブリンたちはテーブルの周りに集まってきて、こぞって手を伸ばす。
「コレガアノ餅ナノカ?」
プックリきつね色に焼き上げられた小さな餅を不思議そうに眺めてから口へ放りこむ。
ーー サクッ。
口に入れた瞬間、雑煮とは違う食感に目をまん丸くするゴブリンたち。外側サックリ、中身はもっちり。香ばしい醤油の風味が口いっぱいに広がる。
「ホッホー」
「ウマイ!」
「モットタベタイ」
ゴブリンたちの顔がみるみるほころんでいく。
そこへ、ピーカ王女とゴリゴが現れた。
「いったい何の騒ぎだ?」
どうやら、ホールの騒がしさを不審に思い様子を見に来たようだ。
「勇者様が、昨晩お世話になったお礼にと " 揚げ餅 " を作ってくれました。王女様もゴリゴ様もどうぞお召し上がりください」
ゴブリンの一人がお盆を二人の前へ差し出した。
「美味しそうですね。いただきましょう。さ、ゴリゴも」
王女はお盆から揚げ餅をつまみ上げゴリゴへ微笑みかける。
ゴリゴも揚げ餅をつまみ、口へ含んだ。
サクッ、サクッ‥ もっちり‥ と。
「美味しいですね、ゴリゴ」
ゴリゴは餅を頬張りながら黙って何度も頷く。
「さぁ、皆も一緒に食べましょう」
ピーカ王女の促しで、再びゴブリンたちがお盆に手を伸ばす。
すると、美味しくて嬉しい気持ちになったのか、一人のゴブリンが大きな声で歌いだした。
軽快なメロディーに誘われるように、他のゴブリンたちも次々声を合わせていく。肩を組み合ったり、踊りながら。
〈空が 大地が くれる恵を
我らの友よ 共に分け合おう
笑い 喜び 溢れる今日を
明日へつなげ 心をつなげ ーーー 〉
聴き入っていると、ピーカ王女がそっと隣へやって来た。
「あれはフーミャ王国の国歌なのです。久しぶりに聴きました」
「いい歌ですね」
心をひとつにして歌う彼らの姿が眩しく映った。
" 食べ物 " や " 音楽 " は 国や言葉の壁を飛び越えて人々の心を動かす。
争い、憎しみ合うより
食べ物や音楽で仲良くなれたらどんなにいいだろう‥ 。
魔王が言う人間の愚かさは否定できない。
" 欲 " があるから、発展や幸福が生まれる。
だが " 欲 " は時として人の命を奪う脅威にもなる。
" 欲 "を持つのはいいが、飲み込まれないことだ。
笑いながら揚げ餅を頬張るゴブリンたちを見ていると
世界中にこんな " 平和 " が訪れますように‥ と願わずにはいられない。
「皆がこんなに笑っているのを見たのは何年ぶりでしょう。勇者様のおかげです。ありがとうございます」
「とんでもない。俺こそ、王女様や皆さんのおかげで
" 勇気 " をもらいました。一日でも早く呪いを解けるように頑張ってきます」
「‥ 勇者様、これを持って行ってください」
ピーカ王女は手に握っていた物を俺の左手に置いた。
それは、手の中にすっぽり収まる程の大きさで早春を思わせる若草色。オカリナによく似た形をしている。
「これは " 勇者の祈り " と言う笛です。遠い昔、戦の時に使われていたそうです。フーミャ王国では長い間戦争は起こっていません。その為、これは御守りとして私が持っていた物です。もし、助けが必要になったら祈りをこめて吹いてみてください」
「試しに、ちょっとだけ吹いてみていいですか?」
「ええ。もちろん」
ーーー プヒッ
情けない音が飛び出し、俺と王女は顔を見合わせて苦笑い。
「もう一度やってみます」
ーー 俺は " 勇者 " であって勇者ではない。
泉月勇者‥ 名前だけの勇者だ。
本当の " 勇者 " になれたら、この笛が奇跡を起こしてくれるのだろうか‥ ?
ーーー ブビーッ
音が少し形を持ち始めたものの、旋律には程遠い‥ 。
ふと、バンダバ様の言葉が思い出された。
♢ ♢ ♢
『案ずるな。その使い方を説明してやるちゃい。
題して " 穏便勇者の 音便力"。
音は心を震わせる無限の力を持っておる。心を鳴らすことができる者こそが真の勇者。それができればお主は無敵ちゃい〜 という力だ。
これは、泉月勇者だからこそ相応しい、勇者にしかない才能を活かした能力ちゃい』
〈第七話「魔王」参照〉
(それってただのダジャレなんじゃ‥‥ ?)
と、正直思っていた。半信半疑で、いつの間にかすっかり忘れていたっけ。
俺に与えられたスキルは『音』に関係するのか。
この笛とめぐり会ったのには何か意味があるのだろうか‥。
ぼんやり思いを巡らせながら再び息を吹き込もうとした瞬間
バタンッ!!
ホール入り口の扉が乱暴に開かれ、甲高い声が響いた。
「王女様っ! 怪しい者を捕らえましたっ!」
息急き切って駆け込んできた一人のゴブリン。
その後ろには、二人のゴブリンに両脇を抱えられ、ズルズルと引きずられる何者かの姿があった。




