表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/36

第三十一話 「 決意 」



 ここは真っ白な空間に存在する " 死の門 " 。

かつて、泉月勇者(せんげつゆうしゃ)が訪れた場所。


空中に複数浮かぶ大小様々なスクリーン。

フワフワ雲のようなソファーに腰かけているのは

青みを帯びた銀色の巻き髪ツインテールに白いワンピース姿のアノンと、

真っ黒な顔に真っ黒な服をまとった白髪のバンダバ。

実に対照的な二人である。


「バンダバ様!ずるいですよ!一人だけ何を食べてるんですか!? そのハムハムしてる細長いもの、アノンにもください!」


アノンはプクッと頬を膨らませる。


「‥ ふむ。しゃあないな。‥ ほれ」


バンダバはポケットから袋を取り出すと、中から淡い飴色の一本を取り出しアノンへ手渡す。


「うわっ!なんでそんな嫌そうな顔をするんですかっ!?」


「わしゃ、生まれた時からこんな顔ちゃい!」


「そ‥ それは失礼いたしました。い、いただきます。

ハム‥ ムムム‥ か、硬いですね。これはなんという食べ物ですか?」


「これは人間界の " アタリメ " っちゅうてな、イカという生き物を乾燥させたものちゃい。これがまた、噛めば噛むほど味がでる。泉月勇者(せんづきゆうしゃ)のように、味わい深い旨みがあるちゃい」


 バンダバは、中央に浮かんだ一際大きなスクリーンをじっと見つめながらアタリメをかじる。

そこには、魔岩山(まがんざん)にいる勇者の姿が映し出されている。


 また、そのスクリーンを囲むように浮かんでいる複数のスクリーンには、黙々と働く人間や、魔人に連行される人間、不安そうな若者などが、数秒ごとにかわるがわる映し出されている。


 魔王が人間界を支配するようになってからの日常は、一見平和のようでいて " 何かが欠けてしまっている "


バンダバとアノンは、そんな人間界を元に戻す為、魔王討伐に向かった勇者をただただ見守る。



「な、なるほどです。最初は硬いけど、だんだん旨みが‥。これはクセになる美味しさですねぇ。 ‥ところでバンダバ様、勇者様はまだ " オンビンリョク " を使いこなせていないようですが」


「そうちゃいなー。少しずつ育ってはいるんちゃい。勇者は気がついておらんけど」


「 " オンビンリョク " っていうのは、育つものなのですか?」


「そうちゃいね。魔力っちゅうもんは鍛錬して伸ばす力だが " オンビンリョク " は勇者自身が育てておる、勇者だけの特別な力ちゃい。フホホホ」


「うわっ!バンダバ様だけがわかってるなんてずるいですよ!情報は共有しましょうよぉ」


「企業秘密ちゃい。フホホホホ」


バンダバは満面の笑みを浮かべる。

アノンは、背中の羽をパタつかせながら叫ぶ。


「バンダバ様の意地悪ぅ」


「フホホ!チャーチャッチャッチャ!」


「もぉ!スルメもう一本ください!」



        ♢ ♢ ♢


 


「ヘェーックショイッ!!」


「勇者殿、大丈夫ですかな? 雨に濡れて体が冷えたかもしれませぬな」


隣で焚き火にあたりながら、モジャが俺の顔を覗き込む。


「大丈‥ ブへックショイ! ところでモジャ。俺たちは仲間同士だ。堅苦しいから、殿はやめようぜ。勇者でいいよ」


「ふむ。勇者‥ ではどうもしっくりせぬので‥ " 勇者どん "というのはどうですかな?」


「ハハハ。モジャが呼びやすいなら、それでいいよ」


「では、勇者どん、そろそろ出発しませぬか?」


「そうだな‥ 。リン、具合はどうだ?」


俺は、テント内で休んでいるリンに声をかける。


「たくさん眠ったし、元気回復!もう大丈夫よ。心配かけてごめんね」


リンは身体を起こし、ニッコリ笑ってみせた。


 昨日、バラクの雷撃を受けて仮死状態だったリン。

リンはギリギリのところで防御したが、相当なダメージを受けたに違いない。

昨夕はリンの体力・魔力を回復させる為、早めにテントで休むことにした。

正直、俺とモジャもクタクタにくたびれていたのだ。

 

「一日も早く魔王城を見つけたいわ」


「よし。それじゃあ準備ができたら出発するとしよう」


 

 俺たちは再び山頂を目指して進むことにした。


 

 世間では " 魔物との共存 " に反発した者が捕えられたり、将来に絶望してしまう人が増えているらしい。


 俺にとって " 推し活 " は生きる希望。

それが奪われてしまったら、人生真っ暗闇。

 もしもこの先、魔王のせいでミーコが配信できなくなってしまったら‥ 絶望するだろう。

‥ そんなことがあってはならない。

ミーコの笑顔を守るのが俺の使命だ。

一日も早く、魔王が現れる前の日常を取り戻し、思う存分推し活に励みたい。


 ただ、バラクのことが胸に引っかかっている。

もしも魔王の言うとおり " 魔物と人間が共存 "し、そこに

" 平等 " があったなら。

バラクは悲しい思いをせずにすんだだろう。


 人間同士であっても " 差別 " や " 憎しみ " が生まれ、争いが絶えない現実‥ 。

「人間は愚か 」 ‥ 魔王の言葉は、否定できない事実。


" 人間だから " " 魔物だから " ‥‥そんなこと関係ない。


相手が誰であろうと、互いに尊重し合うべきで " 命を奪う "なんて、決して許されてはならないと思う。


かつての俺は、ただミーコを応援することしかできない、取るに足らない人間だった。

戦う力もなく、世界を変える勇気もなく、ただ傍観するだけのちっぽけな存在。


でも今は違う。

仲間がいる。

そして、何の理由もなく命を奪われていく人々がいることを、もう見過ごせなくなった自分がいる。


" 守りたい " そう思ってしまったんだ。


血を流すことなく穏便に解決できるならどんなにいいだろう。

" 地神宗玄(ちがみそうげん)‥ 魔王は狡猾で何を考えているのかわからない。

魔人達の手にかかれば、俺なんて虫ケラみたいに捻り潰されてしまうだろう。


それでも進む。進むしかない。

たとえ無力だとしても、俺は逃げない。


 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ