第三十一話 「 決意 」
ここは真っ白な空間に存在する " 死の門 " 。
かつて、泉月勇者が訪れた場所。
空中に複数浮かぶ大小様々なスクリーン。
フワフワ雲のようなソファーに腰かけているのは
青みを帯びた銀色の巻き髪ツインテールに白いワンピース姿のアノンと、
真っ黒な顔に真っ黒な服をまとった白髪のバンダバ。
実に対照的な二人である。
「バンダバ様!ずるいですよ!一人だけ何を食べてるんですか!? そのハムハムしてる細長いもの、アノンにもください!」
アノンはプクッと頬を膨らませる。
「‥ ふむ。しゃあないな。‥ ほれ」
バンダバはポケットから袋を取り出すと、中から淡い飴色の一本を取り出しアノンへ手渡す。
「うわっ!なんでそんな嫌そうな顔をするんですかっ!?」
「わしゃ、生まれた時からこんな顔ちゃい!」
「そ‥ それは失礼いたしました。い、いただきます。
ハム‥ ムムム‥ か、硬いですね。これはなんという食べ物ですか?」
「これは人間界の " アタリメ " っちゅうてな、イカという生き物を乾燥させたものちゃい。これがまた、噛めば噛むほど味がでる。泉月勇者のように、味わい深い旨みがあるちゃい」
バンダバは、中央に浮かんだ一際大きなスクリーンをじっと見つめながらアタリメをかじる。
そこには、魔岩山にいる勇者の姿が映し出されている。
また、そのスクリーンを囲むように浮かんでいる複数のスクリーンには、黙々と働く人間や、魔人に連行される人間、不安そうな若者などが、数秒ごとにかわるがわる映し出されている。
魔王が人間界を支配するようになってからの日常は、一見平和のようでいて " 何かが欠けてしまっている "
バンダバとアノンは、そんな人間界を元に戻す為、魔王討伐に向かった勇者をただただ見守る。
「な、なるほどです。最初は硬いけど、だんだん旨みが‥。これはクセになる美味しさですねぇ。 ‥ところでバンダバ様、勇者様はまだ " オンビンリョク " を使いこなせていないようですが」
「そうちゃいなー。少しずつ育ってはいるんちゃい。勇者は気がついておらんけど」
「 " オンビンリョク " っていうのは、育つものなのですか?」
「そうちゃいね。魔力っちゅうもんは鍛錬して伸ばす力だが " オンビンリョク " は勇者自身が育てておる、勇者だけの特別な力ちゃい。フホホホ」
「うわっ!バンダバ様だけがわかってるなんてずるいですよ!情報は共有しましょうよぉ」
「企業秘密ちゃい。フホホホホ」
バンダバは満面の笑みを浮かべる。
アノンは、背中の羽をパタつかせながら叫ぶ。
「バンダバ様の意地悪ぅ」
「フホホ!チャーチャッチャッチャ!」
「もぉ!スルメもう一本ください!」
♢ ♢ ♢
「ヘェーックショイッ!!」
「勇者殿、大丈夫ですかな? 雨に濡れて体が冷えたかもしれませぬな」
隣で焚き火にあたりながら、モジャが俺の顔を覗き込む。
「大丈‥ ブへックショイ! ところでモジャ。俺たちは仲間同士だ。堅苦しいから、殿はやめようぜ。勇者でいいよ」
「ふむ。勇者‥ ではどうもしっくりせぬので‥ " 勇者どん "というのはどうですかな?」
「ハハハ。モジャが呼びやすいなら、それでいいよ」
「では、勇者どん、そろそろ出発しませぬか?」
「そうだな‥ 。リン、具合はどうだ?」
俺は、テント内で休んでいるリンに声をかける。
「たくさん眠ったし、元気回復!もう大丈夫よ。心配かけてごめんね」
リンは身体を起こし、ニッコリ笑ってみせた。
昨日、バラクの雷撃を受けて仮死状態だったリン。
リンはギリギリのところで防御したが、相当なダメージを受けたに違いない。
昨夕はリンの体力・魔力を回復させる為、早めにテントで休むことにした。
正直、俺とモジャもクタクタにくたびれていたのだ。
「一日も早く魔王城を見つけたいわ」
「よし。それじゃあ準備ができたら出発するとしよう」
俺たちは再び山頂を目指して進むことにした。
世間では " 魔物との共存 " に反発した者が捕えられたり、将来に絶望してしまう人が増えているらしい。
俺にとって " 推し活 " は生きる希望。
それが奪われてしまったら、人生真っ暗闇。
もしもこの先、魔王のせいでミーコが配信できなくなってしまったら‥ 絶望するだろう。
‥ そんなことがあってはならない。
ミーコの笑顔を守るのが俺の使命だ。
一日も早く、魔王が現れる前の日常を取り戻し、思う存分推し活に励みたい。
ただ、バラクのことが胸に引っかかっている。
もしも魔王の言うとおり " 魔物と人間が共存 "し、そこに
" 平等 " があったなら。
バラクは悲しい思いをせずにすんだだろう。
人間同士であっても " 差別 " や " 憎しみ " が生まれ、争いが絶えない現実‥ 。
「人間は愚か 」 ‥ 魔王の言葉は、否定できない事実。
" 人間だから " " 魔物だから " ‥‥そんなこと関係ない。
相手が誰であろうと、互いに尊重し合うべきで " 命を奪う "なんて、決して許されてはならないと思う。
かつての俺は、ただミーコを応援することしかできない、取るに足らない人間だった。
戦う力もなく、世界を変える勇気もなく、ただ傍観するだけのちっぽけな存在。
でも今は違う。
仲間がいる。
そして、何の理由もなく命を奪われていく人々がいることを、もう見過ごせなくなった自分がいる。
" 守りたい " そう思ってしまったんだ。
血を流すことなく穏便に解決できるならどんなにいいだろう。
" 地神宗玄‥ 魔王は狡猾で何を考えているのかわからない。
魔人達の手にかかれば、俺なんて虫ケラみたいに捻り潰されてしまうだろう。
それでも進む。進むしかない。
たとえ無力だとしても、俺は逃げない。




