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第三話 「 予感 」


   第三話 「 予感 」

 


 七度の解雇で、心はズタボロだ。

ミーコを励みにしながらも、ネガティブな思考が頭から離れない。

 このままじゃいけない、と自分に言い聞かせ、何度か面接を受けたが、一向に仕事が決まらない。 

不安と焦りが募っていく。

 

‥ さすがにこれだけ転職を繰り返していたら

「この男にはなにか問題があるのでは」

と警戒されてもいたしかたない。

 

 今日の面接も手応えはなかった。

転職理由を聞かれても

「わかりません」

としか答えようがなく、一瞬の沈黙。 

 面接担当の男性は、怪訝な表情を浮かべた後、とってつけたような冷ややかな笑顔で

「後日面接結果を連絡します」

とだけ言った。

 ‥おそらく不採用だろう。

エレベーターを降り、ビルを出る。

一気に疲労感。


 例えば、ボクシングのリングに上がって

これでもか!これでもか!これでもか!

 と、ただ一方的にパンチを喰らっているような。

そんな感じ。無防備なまま、抵抗もできず。


 ふう‥‥‥

深くため息をつき、歩き出す。

 

 大通りを抜けて繁華街の方へ向かう。

目指すは『楽園アニメショップ』

アニメグッズやカードゲーム関連の物が置いてある店だ。最近はミーコ関連グッズも置いてある。寄り道して帰ろう。

 今の俺には癒しが必要だ。


 何度も訪れている店内は、落ち着く。

フィギュアやカードを一通り見た後、ミーコのTシャツとタオルを購入。

桜色の生地にミーコのイラストが描かれている。Tシャツは俺、タオルは母ちゃんへのお土産。いつも心配ばっかりかけてるからな。

 

 店を出て歩き出すと、ふいに携帯が鳴った。

 

 最初の勤め先の元同僚、貝念 庄司(かいねん しょうじ)の妻、雪乃(ゆきの)さんからの着信だった。

 

泉月(せんげつ)です」

「ああ良かった。泉月さん、雪乃です。

 実は‥ 」

雪乃さんは、狼狽えた様子で話し始めた。

 

「夫が置き手紙を置いて、家を出てしまったんです。どこへ行ったのか、何かご存知ではないでしょうか‥ ?」


「えっ‥?庄司が? いったい何故‥ ?」

 

 庄司とは、俺が退職してから会っていない。二、三度メールのやり取りをしたが、その後いつのまにか途絶えていた。

 俺の気持ちの落ち込みのせいだった。

仕事が落ち着いたら連絡しようと思い、ついタイミングを逃していた。


 雪乃さんの話によると、俺が解雇された後、『 T-God 』が経営するようになった会社では、ひどいパワハラが横行したらしい。『 T-God 』の奴らが権力をふるい、

社長と彼を含む数人が解雇された。

 その仕打ちには、ひどく自尊心を傷つけられたそうだ。

 

 その後就職先が決まらず、精神的な病を発症し、自宅療養していたと言う。

真面目で責任感の強い男だ。

一昨年結婚し、まだ一歳の子供がいる。

愛妻家の彼が、家庭に不満があったとは思えない。


 俺より一つ年下で、たまに飲みに行く間柄だった。

好みがよく似ていて、好きな音楽や漫画、アニメ、ゲームの話で盛り上がっていたっけ。

「勇ちゃん」「庄司」と呼び合う仲。

同僚であり、友人であり、時には兄弟のような関係。

今でも時折、一緒に働いていた頃を思い出す。

 

     ♢ ♢ ♢


「勇ちゃん、昼ごはんラーメン行かない?」

「久しぶり!いいね!」

会社のすぐ向かいにある『ラーメン店たつや』。

カウンターに並んで座り、ラーメンをすする。

 チャーシューを頬張りながら、庄司が思いついたように話し出した。


「この前、とうとう買ったよ。例のあれ!」

「例のあれ?」

「セーラー戦隊のフィギュア五点セット!」

興奮しながら言うと、箸を置いて携帯を取り出す。

そして、ニヤつきながら、携帯におさめたセーラー戦隊の写真を得意げに見せてくれた。


「おおーーー。麗しい。なかなかですな」

「もう大大大満足。この絶妙なスカート丈!この表情にこのポージング。たまらんですわ」

 伸び切ったラーメンのように鼻の下を伸ばす庄司。


「雪乃さん、値段知ったら怒るだろうな」

‥何千円という単位ではないのだ。

精巧な美しいフィギュアは芸術品。一万円札が数枚飛ぶ。

母ちゃんなら、大激怒だ。

 

「知られないようにするのが、夫婦円満の秘訣さ」

そう言って笑っていた庄司。

愛妻家で、温厚でいい奴だ。


     ♢ ♢ ♢


 奥さんに黙って家を出るなんて‥ よっぽどの事情があるに違いない。まさか借金‥ か?

 雪乃さんは、捜索願いを出してみると言い

「もし、夫から連絡が入ったら教えて下さい」

 そう言って電話を切った。


 俺の知らない間に、庄司も悩みを抱えていたのなら。

俺で力になれるなら、助けたい。

 

 ぼんやり庄司のことを考えながら、また歩き出す。

 すると、それから三分も経たず、再び電話が鳴った。

  庄司からだった。


「勇ちゃん,久しぶり。ずっと連絡できなくてごめん」


 心なしか、少し元気がないように感じられた。


「俺こそ連絡しなくてごめん。庄司、今、どこにいるんだ? 俺は今、宝小路にいるんだけど、この後、会って話せないかな? 一緒に飯でも食ってさ。

 ほら、もうすぐ庄司の誕生日だろ? 前に欲しがってた セルカのフィギュア、見つけたんだが」


「 ‥ふふ。勇ちゃん,変わらないね。

 ありがとう」


 庄司が笑ったのを感じて安堵した。


「今、どこにいる?」

 平静を装いながら話しかける。

 

「 ‥ 勇ちゃん、約束守れなくて、ごめん」

「え?何を突然。約束って?」


 申し訳なさそうに言う庄司に聞き返す。

 

「ほら、前に言ってたでしょ。二人でセーラー戦隊の聖地巡りしようって約束」


「あ、ああ」


 ‥ 嫌な胸騒ぎがした。


「庄司、会って少し話せないかな」


「 ‥ 勇ちゃん、楽しかったなぁ。ホントありがとう」


 いつもの彼とは明らかに様子が違う。

 

「おい!庄司? 今どこだよ?」

 

 トゥルンーーーー


 無情にも、庄司との通話は、そこで切れてしまった。



その直後、数メートル先の視界に急速な落下物を捉えた。


 ドスンッッ!!!!!


「キャーーーッッッ!!!」


通りの向こう側で起こった人々のどよめき。

車のクラクションが鳴り響く。


「救急車を呼べ!」

 誰かが叫ぶ。

 

 俺は携帯を握りしめたまま立ち尽くす。

 見てはいけない。

 直観的にそう思った。

 そんなはずはない。

 ザワザワと胸が騒ぐ。

 嫌な予感、悪い予感、認めたくない予感。

 足は凍りついたように動かない。

 でも、確かめなくてはいけないという気持ちもある。 

彼ではないことを。

 

 人だかりの方へよろよろと歩み寄る。

信号を渡り、通りの向こう側に着いた時、駆けつけた警察官と救急隊によって、人だかりは遠ざけられた。

 

 布をかけ運ばれて行った人の姿は,よく見えなかった。

通りの地面に、大量の血液や体内の何かであったようなシミがあるのを見て、ドクンと心臓が脈打った。

 

 俺の体内に詰め込まれている内臓のすべてがギュッと締め付けられて痛む感覚が襲う。


 そんなはずはない。

 そんなはずはない。

 そんなことがあってはいけない。

 脳裏に浮かぶ悪い予感を打ち消すように思考を巡らす。

 俺の予感が思い過ごしだと決定づける徹底的な手がかりがないかと、周りの人々の話し声に耳をそばだてる。


「男性だったみたい」

「まだ若かったのかな」

「あれは‥ 即死だよな。ビルから飛び降りたんだろ‥ 」


 つい数分前まで俺がいたビル。

あの店には、庄司とも会社帰りによく寄っていたっけ。


 カチャッ!



 何かを踏んだ。

右足を浮かせて見ると、血液のついたキーホルダーが落ちていた。


それは、見覚えのあるセーラー戦隊のキーホルダーだった。



 



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