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第三十話  「 夕焼 」


 ドドドーーーーンッッ!!


凄まじい轟音が山全体を揺るがすように鳴り響いた。


 リンが一時的に預けてくれた魔力の効果はもう無い。

それでも、すがる思いで強く願いながら全力で剣を投げ放った。


 はずみで俺は草に足を取られ、あっという間に後方へ倒れ込んだ。

 その瞬間、目の前の光景がスローモーションのように流れ込む。


 剣は、狙い通りバラクの頭上めがけて飛んだ。

轟音を飲み込むかのように、剣の刃が青白い閃光を受け止める。

 だが、雷撃の勢いはそれだけに留まらず、真下にいたバラクの体をも貫いた。


「ウアーッ!!」


 オレンジ色のポンチョが、一瞬にして花火のように眩しく散る。

バラクの体は、糸が切れたあやつり人形のようにユラユラと力なく落下していく。


 俺は、反射的にバラクの元へ走り寄った。

雷を止めたい一心だった。バラクを殺めようと思っていたわけではない‥ 。


バラクはダラリと仰向けに横たわっていた。

ポンチョはところどころ焼け落ちて、剥き出しの皮膚が赤く焼けただれている。


「おい!大丈夫か?」


「バラクの‥ 雷は‥ すごいじょなぁ‥ 」


 バラクはうっすら笑みを浮かべながら弱々しく呟いた。

鬼の面は割れ落ち、褐色の少年の顔がそこにあった。

 その額には、茶褐色の小さな角が二本。両頬には、焦茶色のシミのような紋様がいくつかあった。

夕焼けのようなオレンジ色の髪が、雨でしっとり濡れている。


「おい!しっかりしろ!」



いつのまにか雨はあがり、空には夕焼けが広がっていた。


静かにバラクの体を抱き起こし、その髪をそっと撫でた時、胸が ドクン と震えた。

バラクの " 痛み " が俺の胸に突き刺さる。

それは、怪我の痛みだけではない。深い深い心の痛み‥ 。


バラクは(くう)を見つめながら消え入りそうな声で語り始めた。

 

「昔‥ 山で雷の練習をしていたら、山菜を採りに来たばあちゃんと会ったじょな‥

ばあちゃんは、バラクを見てニコニコして近付いてきてさ‥バラクが驚かそうと思って出した小さな雷見て‥ すごいすごい、きれいだね‥ って言ってくれたじょ‥ 」


 俺は黙って頷く。


「ばあちゃんがくれたおにぎり‥ おいしかったじょ‥ 。

バラクがひとりぼっちだったから、ばあちゃんが家に連れて行ってくれて‥ 一緒に暮らした‥ 。楽しかった‥ 。 

それなのに‥ それなのに‥ 人間が、" バラクは鬼だ " って、バラクとばあちゃんを家ごと焼いたんだじょ‥ 」


 バラクの表情が歪み、涙が頬を濡らした。


「ばあちゃんが、バラクを逃してくれたんだじょ。ばあちゃんは、バラクは良い子だって。わしの大事な子供だって、皆に言ってくれたんだ。だけど村の人間達は、信じてくれなかったじょ‥ 。ばあちゃんも鬼の仲間だ、物怪だって 、家に火をつけた。バラクは‥ バラクは、ばあちゃんを守れなかったんだじょ‥ 。バラクは悪い鬼だじょ‥ 」


「そんなことないさ。ばあちゃんは、バラクが大好きだからバラクのことを守ってくれたんだと思うぞ」


「ばあちゃん、怒ってないかな‥ 。ばあちゃんに 会えるかな‥ バラクのこと‥ 待っていてくれるかな‥ 」


「ああ、待っているさ。とびきり美味しいおにぎりを作ってさ。真ん中には、愛情ってやつがこめられてるんだ」


「愛情‥‥ ?」


「ばあちゃんが、バラクのことを、とっても大切に思っていた、ってことだよ」


「‥ ふうん ‥ よくわからないけど‥ なんだろう‥ 体が熱くなる‥ 気がするじょな 。

ばあちゃんに‥ 会いに‥ 行くじょな‥ お前、人間だけど、 いい奴だじょな‥ 」


 バラクの身体が、足先からポロポロと崩れ始めた。

 

「バラク!」


俺は、バラクの手を強く握って声をかける。


「あったかいなぁ‥ ばあちゃんの手みたいだじょ‥‥ 」


 最後にそう言うと、口元に笑みを浮かべたまま、バラクは逝ってしまった。

細かい塵となって、風に消えた。

 ボロボロになったポンチョの切れ端と、割れた仮面だけを残して。

 


こんな出会いじゃなかったら、サルジュのように、仲間になれたかもしれない。

 バラク‥ かわいそうな鬼の子‥ 。


 悲しみにつけ込んで、人間を襲うように仕向けるとは。

魔王は 『 人間と魔物との共存 』と言い、自分が支配することで世の中を平和にすると言っていたが、何を考えているかわからない。

やはり、魔王の思い通りにさせるわけにはいかない。




「そうだ!こうしてはいられない。モジャ、リンは?」


リンの元へ駆け寄る。

モジャは俺の代わりに心臓マッサージを続けてくれていた。


「これ以上続けても‥ ダメかもしれませぬ‥ 」


「嘘だろ。そんなわけない。最強魔女がこれくらいで死ぬわけない。おいっ!リン!目を覚ませ!」


 蘇生時間を当に過ぎていることはわかっている。

もはや‥ いや、諦めない。


 俺はモジャに代わって再び心臓マッサージを行ない、人工呼吸を施す。


" リン、助かってくれ!”

ひたすら強く願いを込めて。

 

「‥‥ぷっぷはっ‥ 」


「‥‥ !!!」


 リンの体が反応した。ピクピクと微かに瞼が痙攣した後、ゆっくりと目を開いた。


「リン!やっと戻ってきてくれたか!」


俺は喜びのあまり、隣にいたモジャと抱き合った。



「私、瞬間的に雷を受け止めて‥ そのまま気を失ってしまったのね‥ 」


「呼吸も心臓も止まって仮死状態でしたぞ」


「死んでしまうのかと思って心配したぞ。助かって良かった」


「意識を失っている時にね、二人の声が聞こえてきた。最強の美魔女ーって呼ぶ声」


「‥いや、最強とは言ったけど、美魔女とは言わなかった気が‥ 」


 言い終わらぬうちに、リンが続ける。


「その後、なんか魚臭いにおいがしてね、目が覚めたの」


 ‥ 今朝、焼き魚を食ったっけ。そういえば、歯磨きしていなかったな‥ 。

人工呼吸した事は秘密にしておこう‥ 。


   

         ♢ ♢ ♢

 

 それから俺達は、割れた面とポンチョの切れ端を集め、バルクの墓を作ることにした。

土を掘っていると、オレンジ色に輝く拳大の石が出てきた。


「魔石よ、それ。きっと役にたつわ」


「そうか。綺麗だな。バラクからの贈り物かな‥ 」



 バラクの墓に、おにぎりを供え手を合わせる。


「ばあちゃんに、よろしくな」


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