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第二十六話 「 宝物 」

第二十六話 「 宝物 」



「い、痛っ‥ 痛い‥ 」


ペチペチ頬を叩かれている感触で目を覚ました。

前にもこんなことあったよなぁ。


「勇者、やっと目覚めたのね。大丈夫?」


リンが俺の顔を覗き込む。


「う、うへ? ここはどこだ?」


全身びしょ濡れだ。頭から足先まで冷たい。

地面に横たわっていた俺は、ゆっくりと体を起こす。 


 その瞬間、思わず息を呑んだ。

目に映った光景があまりにも美しかったからだ。


天井から、つららのように何本も伸びた白色の鍾乳石と、床から伸びる石筍。その中央で淡く光るコバルトブルーの泉。


まるで、地底に眠る古い神殿のように美しい場所だ。


鍾乳石ってやつは、百年の間にたった1センチ位しか伸びないらしい(って、以前ミーコが話していたのだ)。

俺の一生よりも長い歴史を紡いでいるのだから、まさに自然が作り上げた神秘だ。

 

「サルジュとリンのおかげで助かったよ。人魚のように見えたのは ‥ リンだったのか。こんな場所があるなんて、驚きだよ 」


「えぇーーーっ? 人魚姫のように美しいだなんて、照れるじゃなぁい」


「いや、そうは言ってないけど‥ 」


リンは俺の言葉を無視して言葉を続ける。


「精霊たちの力を借りて、皆をここまで空間移動したの。

咄嗟の呪文でどうなるかと思ったけど。

こんな美しい場所があるなんて、私も驚いたわ」


「ありがとう。とにかく皆無事で良かった」


俺は、泉のほとりで焚き火にあたっているモジャとサルジュの方へ目を向けながら続けた。


「ところで、この鍾乳洞は " 魔岩山(まがんざん) " の中なのか?」


「うーん。おそらくね‥ 。そう遠くへは移動していないはず」


リンが首を少し傾げながら答えた。

と、そこへ


「ねー、勇者ー、お腹すいたよぉ」


頭にワームを乗せたサルジュが、俺の方へ駆け寄って来る。


「サルジュ、走ったら転ぶぞ。危ないからゆっくりな」


サルジュは俺の言葉も聞かず、満面の笑顔で両手を広げて走ってくると


「どぉーーーんっ!!」


 思いっきり俺の体に抱きついてきた。


 (ぶへーーっ!か、か、か、可愛いいいぃぃーーっ!

 俺の中の母性(父性)本能が爆発しそうだ!)


「サルジュ、無事で良かったよ。何か美味しいものを食べさせてあげたいけど、ここじゃあ料理ができないなぁ‥ 。ごめん‥ 」


「そうね。まずはここを出ないとね。空気の流れからすると、この先に出口があると思う」


そう言いながら、リンはサルジュの頭を優しく撫でた。


「そうか。じゃあ少し休んだら行ってみるとするか」


「うん!」

 


        ♢ ♢ ♢


 

こうして、俺たちはリンが示した方向へ進むことにした。


「足元に気をつけてくだされ」


ひんやりとした静寂の中。

モジャを先頭に、サルジュとワーム、リン、俺が続く。

皆、相当疲れているのだろう。無言で進む足取りは明らかに重い。


そんな皆を元気づけようと、ふと、口ずさむ。

 

「いざ進め!いざ進め!いざ進め!レッツムボーン!」


「なあに?その歌?」


リンが振り向く。


「よくぞ聞いてくれました!この曲は、我が推し

" ミーコ " の記念すべきデビュー曲でありますっ!隊長!」


「隊長じゃないしっ」


リンが呆れた表情で笑った。


「この曲はな、元気が出るんだよ。さあ、皆様ご一緒に!」


俺が歌いながら歩くと、サルジュが面白がって一緒に歌い始めた。

俺は、サルジュを喜ばせようと、ちょっとふざけてみる。


「いざ進め!いざ進め!いざ進め!レッツムボーン!ボーン!ボボボボボーン!」


「あはははっ!面白いねー」 


サルジュがケラケラ笑う。子供っていうのは、こういうおふざけが好きだよな。

面白がるサルジュを見たくて、モジャも参加した。


「ボボボンボボボンボボボンビョーン」


 さらに俺も張り合う。


「ボントゥクボボトゥクボボボボボン」


「ボンズクボンズクボボンチョー」


「あはははっ!勇者もモジャも面白い!」


「ちょっとー、おじさん達、いい加減にしなさいよー」


「おっと、リンおばちゃんがヤキモチやいてるぞぉ」


「なーんですってぇ!誰がおばちゃんなのよ!お姉さんでしょうが!」


「ハハハ、冗談だよ。ごめんごめん」


そうこう言いながら歩いているうちに、歌と笑いで元気を取り戻した俺たち。 気がつけば、ずいぶん進んだようだ。



「見てくだされ!光が見えて来ましたぞっ!」


モジャが、岩壁の隙間から微かに差し込む光を指差した。


「この壁を崩せば外へ出られるかな」


俺は硬い岩壁に触れてみる。


「崩すのは危険ですぞ。下手をすれば、生き埋めになってしまうかもしれませぬ」


「そうね、危険だわ。魔法で一瞬だけこのスペースを大きくするから、その隙に出るのよ。いい?」


「わかった!」


俺たちが頷くと、リンが前へ進み出た。

そして、ゆっくりと岩壁に手を置き、呪文を唱える。


「レナーク・キーオ!」


リンの呪文で、コイン程の大きさだった穴が一瞬で拡大した。

俺たちは、身を屈めて急いで通り抜ける。


最後にリンが通ると、山肌は何事もなかったかのように元通りに閉じられた。


沈みかけた太陽に照らされた森。

木々の香りを、思いっきり吸い込む。


「やっと外へ出られましたな」


「ここは、どの辺なのかしら」


 リンが左右を見渡す。俺は、視界に入ったくの字に曲がった木の枝に目が止まった。 


「この木、この糸、見覚えがある。前にリンを探しに行く時、迷わないように目印でつけた糸だ」


「それでは、あの時の森ですな」


「ああ、間違いない」


「そろそろ日も暮れるし、今日はここで休みましょうか。

もうヘトヘトよぉ」


リンがヘナヘナとしゃがみ込む。


「お腹も空いたよぉ」


サルジュも隣にしゃがみ込む。


「そうだな。リン、もう一仕事、いや、もう一魔法お願いできるか?」


「美味しいご飯の為ならお安い御用!

 トンテ・セヨービヨ!」


リンがしゃがんだまま呪文を唱え、杖先をヒョイと回して引き上げる。

 すると、まるで魚釣りのようにテントとリュックが現れた。


「おおおーっ!すごいな。ありがとう。

それじゃ、カレーでも作るか。と言っても、お湯で温めるだけの " ミーコのレトルトミコ煮込みカレー " だけどな」



俺はウキウキしながら、リュックから箱を取り出す。

早口言葉で言いたくなるようなネーミング。

「ミーコのレトルトミコニコミカレー」

俺は五回呟いてから箱を開けるのだ。

パッケージにはエプロン姿のミーコが鍋を持って微笑んでいる。ウホーッ!

確か、これにはカードが入っているはず。


あったーーーーーっ!!

開封は後からのお楽しみ。空き箱とカードは大事にリュックにしまう。レトルトご飯も取り出し、鍋に沸かしたお湯で温める。


簡単な夕食ではあったが、ミーコのレトルトミコ煮込みカレーは、皆に大好評だった。


食べ終わると皆、すぐ眠りについた。寝息をたててぐっすり眠っているようだ。

くたびれた一日だったなぁ。

 

魔岩山(まがんざん)に入ってから、現実世界を忘れてしまいそうになる。

ミーコの存在が、時折俺に現実世界を思い出させてくれる。

‥ 母ちゃん、元気にしてるかなぁ。


すぐには眠れず、リュックに忍ばせていたカードの袋をゴソゴソと取り出す。


深呼吸。静かに、丁寧に、祈りをこめて開封する。

ミーコの関連グッズは、俺にとって大切な宝物なのだ。


どうかキラカードが当たりますように!


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