第二十二話 「 |禍後《かご》 」
第二十二話 「 禍後 」
リンが目を伏せながら話を続ける。
「ズィルザールはおそらく死んでいないと思う。
シャラーラが逃げ去る時、黒い影が現れて、ズィルザールの頭部を持ち去ったのよ‥ 」
「なんだって‥?」
この目で確かめなければ。
そう思い立ちあがろうとしたものの、足に力が入らない。
仕方なく四つん這いで草をかき分け、ズィルザールの方へと進む。
硫黄のような腐った臭いが鼻をつく。
確かに、そこにあったのは、首から下の大きな肉塊。
ところどころ、シャラーラの火の粉を受けて赤黒く焼けただれている。青紫がかった灰色の皮膚は、首と腹の部分が無造作に破れ、深緑色の体液が滲んでいる。
その腹の中で、サルジュが無事でいることを切望しつつ声をかける。
「サルジュ! サルジュ、返事をしてくれ‥ 」
‥‥ 肉塊はピクリとも動かない。
全神経を耳に集中させても、その肉塊からは何の反応も感じられなかった。
一瞬にして飲み込まれた小さな体。
出会ってわずかニ日足らずの仲間だった。
だが、時間だけでは言い表せない。
あの子と過ごしたその一コマ一コマが、鮮明に浮かぶ。
笑った顔が可愛かった。
魔人?いや、天使だろう?って思うくらいに。
自分達とは違う種族と、心が通い合うことを照明してくれた。ワームもそうだ。ワームは、サルジュを家族のように慕っていた。
魔人も、魔獣も、他の動物達や昆虫も、生きている者すべてに " 愛情 " は存在する。
ズィルザールの残骸を前に、俺は跪き、目を閉じて祈った。
「サルジュ、助けてあげられなくてごめん‥ 。魔人に天国があるのかわからないけど、どうか安らかに眠ってくれ‥ 」
その思いを乗せるかのように、ザワワと風が通り抜けた。
ムギュ‥
背後から、そっと抱きしめられる感触。
リンの胸‥ 腕‥
‥ いや、そんな事考えるのは不謹慎だ。
‥ いや、でも、想像とちょっと違うな。
リンの豊かな胸というよりは、小さくて温かな感触‥
「これは‥ 」
俺は、その感触が誰のものなのかを察した。
途端に涙が溢れ出し、頬を生温かく伝っていく。
俺の首に巻きついた細い腕‥
俺はゆっくりと振り向いた。
すると
そこには、苦笑いするリンと、手を繋いで立っているサルジュの姿があった。
「えっ?? サルジュ!? じゃあ、俺の背中にいるのって??」
驚いて後ろを見る俺。
「ギョワッ!! ワ、ワームだったのかっっ!!」
‥ 俺の首に巻きついていたのは、サルジュの細い腕ではなく、ワームの触覚だった。
背中にいたワームは、ゆっくり俺の体から離れ、のそりのそりとサルジュの方へ歩いて行った。
♢ ♢ ♢
その晩の俺達は、軽く夕食を済ませた後、すぐに眠りに落ちた。
ズィルザールとシャラーラの襲撃で、かなりの体力気力を消耗し疲弊していた。
翌朝、他の皆はまだ深い眠りの中。
俺は、皆を起こさないよう静かにテントの外へ出た。
朝陽が柔らかく照らす森林は、静寂で、昨日のことが嘘のように思える。
だが、数十メートル先に焦げ落ちた枝木が目に止まると、昨日のことがまざまざと思い出された。
二人の魔人を逃してしまった。またいつ襲われるかわからない。仲間を裏切ってしまったサルジュが、魔王の怒りを買い、命を狙われる危険性もある‥ 。
俺は、深く息を吐くと、コーヒーを淹れる準備をした。
「考えたところで、その時はその時だ。
そういえば、ここのところ、ミーコを観る暇がなかったなぁ」
マグカップに淹れたてのコーヒーを注ぐ。コーヒーの良い香りを吸い込む。
次に、スマホを取り出し、ズボンで三回手を拭いた後、ミーコのチャンネルを開く。
ふぅ‥‥ 癒しの時間だ。
ミーコがいるから頑張れる。
ミーコを応援するのが喜び。
俺にとって、パワーを与えてくれる光のような、唯一無二の存在なのだ!
「おはミコミー。ミコミコパワーで今日もハッピーが届きますように!
今日はね、" チクワ忍者対戦ゲーム " に挑戦!
じゃ、まずはキャラクター選びをします。
‥ んーと、ミーコが大好きなキャラを使うね。
ヒカゲちゃんていう女の子キャラ。主人公のチクワと比べたらパワー的には弱いけど覚醒すると強い!
『吐気毒小便』っていう必殺技がさ、かっこいいんだぁ。 対戦ゲームだから、今日はCPと闘います」
おおー!! ちょうど始まったところとはラッキー!!
しかも、一時期俺がハマっていたゲームじゃないか!
テンション上がるなぁ。ミーコと対戦できたら楽しいだろうなぁ‥ 。
六畳半の部屋で、ゲームと動画鑑賞に明け暮れてた日が懐かしい。
(ガンバレー
(ミーコ 応援してるぞー
他のミコロン達もミーコを応援している。よし、俺も。‥うーむ。ありきたりの応援では埋もれてしまうからな。ひとひねりしたいな。
‥ よし!
(( いざ進め! 汝ならば成せようぞ!))
「‥うーん、CPのチクワ強すぎぃ!
けど、ミコロンのみんなが見ているからね、頑張るよ!
アハッ!ミーコの曲のタイトルで応援してくれた " 勇者 "さん、ありがとーっ! ‥時代を感じるねっ!アハ!」
!!!!!!!
ギョッピーーーーーーンッ!!!!!!!
ミ、ミ、ミ、ミーコが、俺のコメントに反応してくれたあぁぁぁ!
喜びのあまり、たまらず両足をバタつかせる俺。
雄叫びをあげたい衝動を必死に堪える(仲間が眠ってるから)。
ああ‥ 禍い後のご褒美!! ミーコありがとうっ!
この身、浮き世にあらずとも思うほどの悦びーーーー




