第二十話 「 魔人 ( 前編 )」
第二十話 「 魔人 ( 前編 ) 」
ーーー ここは 『 死の門 』
真っ白い空間に浮かぶスクリーンを前に、綿菓子のようなソファーに座る二人。その前に置いたテーブルにはグラスに入った飲み物と色とりどりの果物。
赤いハチマキを額に巻いた少女が、ふと隣の老婆を見て異変に気がつく。
「もぉー。パンダバ様っ!
半目でヨダレが出てますよっ!
眠たいならベッドで寝て下さいっ!」
「 ‥ ふんにゃ? ‥な、なにごとちゃいっ!?」
「パンダバ様が居眠りしてるからぁ。白目になってましたよっ!」
「わしは 寝ておらんちゃい!まばたきの途中だったんちゃい」
「苦しい言い訳ですが、まぁ、いいでしょう‥ 。
勇者様に仲間ができて良かったですね。
勇者様お一人では、魔王相手に太刀打ちできる程の攻撃力と防御力はありませんからねぇ ‥ 」
「 " オンビンリョク " はまだ使えておらんようだな」
「魔人を仲間にしてしまいましたけど、大丈夫かしら?
パンダバ様、どう思います?」
「それが " 吉 " とでるか " 凶 " とでるかはわからんが、勇者らしいちゃい。
まぁ、勇者の力を信じよう」
「そうですねっ! アノン、応援しますっ!
フレーッ!フレーッ!ゆ・う・しゃっ!」
♢ ♢ ♢
「ハーーーーーックションッ!!」
「勇者殿、水浴びで風邪をひきましたかな?」
「いや、そんなことはないよ。母ちゃんが俺の噂話でもしてるのかもな」
そう言いながら、何気なく森の方を見た時だった。
視線の先にある木々が揺れている。
「ん? ‥ 獣か?」
いや、イノシシや熊よりも大きい‥ 。
何かが近付いて来る。
そいつは、大きな体を左右に揺らしながら近付いて来る。 見覚えがある巨体。頭のてっぺんに集中した、緑色の髪の毛。
「あ、あいつは‥ 」
俺が言いかけた時には、すぐ目の前に現れていた。
「うまそうなにおいがする。ズィルザール腹、減った」
ズィルザール、 " あの日 " 南アナを丸呑みした奴だ。
大きな顔には似合わない小さな目で、俺達の姿を捉えた。
ゆっくり一人ずつを凝視し四人目を捉えた瞬間、不可解な現実に首を傾げた。
「これは、サルジュのごちそう、か?」
「違う。トモダチ」
「トモダチ? そいつら、魔人じゃない。
ズィルザールのごちそう」
「ダメ! ズィルザール、あっち行け」
「魔王様、この山に来た者は食べていいって言ってたゾ。
全部ごちそうだ。お前食べないなら、ズィルザールが食べる」
「ダメだってば!」
サルジュが両腕を広げて俺達の前に進み出た。
「おいおい、仲間割れしている場合じゃないずーらよ」
木の上から、逆さにぶら下がっている魔人がズィルザールに声をかけた。
この魔人も、魔王の側近の一人。赤い髪の魔人だ。
「シャラーラ!ズィルザール、悪くない。サルジュがおかしい! ズィルザールのごちそう、奪う」
「そうだねぇ。ズィルザールは悪くないずらね。これはサルジュにお仕置きが必要だねぇ。 ルンルンルルル」
パチンと指を鳴らす音がして、火花がサルジュを取り囲む。
「シエガーキゲーウーコ!!」
リンがすかさず攻撃を跳ね返し、サルジュの身を庇う。
「これはこれは、人間かと思ったら、魔女がいたとは。
面白いねぇ、ズィルザール。暴れちゃおうか?」
「ズィルザール、怒ってもいいか」
「やっちゃえ!やっちゃえ!」
「ズィルザール、久しぶりに怒った。ドシンドシンだーよ」
ふざけたような言い草だったが、それに反して、衝撃的なことが起こった。
ゴゴゴゴゴゴ‥
「な、なんだっ!?」
地鳴りだ! 地面が小刻みに振動している。
「ドシンドシーンだーよっ!」
「地震だ!逃げる‥ って言っても‥ 。
リン! サルジュを連れて箒で逃げろ!」
「勇者とモジャはどうするの?」
「それはあとから考える‥ 早く行け!」
「‥ OK!セヨービヨッ!」
リンはサルジュを連れて箒に飛び乗った。
「リン!サルジュ、勇者とモジャと一緒にいるよ!」
「あの二人は大丈夫!行くわよっ!」
リンは暴れるサルジュをきつく抱きしめて飛びたった。
「行ってしもうた‥ 勇者殿、どういたしますかの」
「そうだな」
地面が震えている。
真っ直ぐに立ってはいられず、木の幹につかまる。
ズィルザールは動じることなく、シャラーラはそんなズィルザールの体にしがみついている。
「ズィルザール、魔女はいなくなったずら。あの二人だけなら、シャラーラとズィルザールで簡単にやっつけられるずら」
「そうだな。ズィルザールは、でかい方を食べたい。毛もじゃは美味しくなさそうだ」
「おいっ!聞こえたぞ!モジャに失礼だぞ」
「そうですぞ!勇者殿より、わしの方がお肉がプニプニで美味しい‥ って、食べられるのはごめんですぞ!」
「シャラーラが丸焼きにしてあげる。ルンルルルー」
パチン!
シャラーラの指先から複数の赤い火花が現れ、それらは集まって大きな炎になった。
「勇者殿、これはまずい状況ですぞ。山ごと燃やされて、丸焼きにされてしまいますぞ」
「そりゃごめんだ。モジャ!こっちだ!」
モジャの体をグイッと引き寄せ、左にジャンプした時だった。
グシャァッッ!
「グワワッッ!!」
「何だずらっ??!」
シャラーラとズィルザールの上に、大きな氷塊が落下した。
サルジュが作り出す氷塊を、リンがさらに巨大化させて上空から落下させたのだ!
「ズィルザール、シャラーラを助け‥て」
体の小さなシャラーラが氷塊の下敷きになった。
ズィルザールは、そんなシャラーラを見下ろしながら答える。
「シャラーラはいつもいじめる。ズィルザール、馬鹿にしてる。もうお仕置きしないなら助けてやる」
「しない‥よ。早く助けて‥ずらよ」
「仕方ないなー。 ‥ ふぬうっ!」
ズィルザールはヒョイと氷塊を持ち上げると、リンとサルジュの箒目がけて、勢いよく投げつけた。
ドゥーーーンッッ!
「あっっっ!!」
飛んできた氷塊を避けようと、リンが氷塊へ魔法弾を放ちながら箒を急旋回させた。
その弾みに、サルジュがバランスを崩して落下してしまった!
「サルジューーーー




