第十三話 「 三人 」
第十三話 「 三人 」
「弱った胃腸に優しい味だわー」
寝起きのジャージ姿のまま、長い髪を無造作に束ね、雑炊を頬張るリン。
モジャのおかげで、体調がすっかり回復したようだ。
「美味しいですなぁ。初めて食べますぞ」
モジャは、勢い良くバクバク食べている。
昨晩、ほとんど寝ずに看病をしてくれたモジャには、感謝をこめて特盛りだ。
「こんな物しか作れないけど、食べてもらえて嬉しいよ」
朝食は鮭フレークと乾燥野菜を入れ、粉末の雑炊の素で作ったシンプルな鮭雑炊。
卵があれば、もっと美味しく作れたんだけどなぁ。
質素な食事ではあるが、空腹に加え、山の美味しい空気と食事を囲む仲間がいると、格段に美味しく感じるものだ。
「ところで、勇者殿は何か武器や装具はお持ちか?」
食事中、モジャが尋ねてきた。
「いや、特に何も‥ 」
「 "勇気" こそが最大の武器ということですな」
「手ぶらで魔王と戦おうなんて、バカなだけよぉ」
すかさずリンが口を挟む。
「お、リン、言ってくれるな。朝食は没収だな」
「やだ!ウソ、ウソ。ごめんごめん!」
「勇者殿には、" 料理 の腕 " という武器があるようですな。少なくとも、リンには効果的のようですぞ」
「お!それはいいな!」
昨夜まで初対面同士だったとは思えないほど、俺達三人はすっかり打ち解けていた。
まるで、もう長いこと一緒に旅をしてきた仲間のように。
山について右も左もわからない俺とリンにとって、山に詳しい仲間ができたのは幸先がいい。
食事を終え、リンがローブに着替え身支度を整えるのを待って、出発。
モジャの案内で山道を進んでいると、ふと思いついたようにリンが呟く。
「 ‥ 確かに、勇者にも何か武器があった方が良いわよねぇ」
「武器なんて使った事ないぞ。子供の頃に、チャンバラごっこしたくらいしか。それも、新聞紙丸めた棒だったしな」
「新聞紙で作った棒でチャンバラ‥ 刀かぁ‥。
そうだ! 餓鬼からもらった爪はある?」
「これか?」
リュックから爪の束を取り出し、リンへ手渡す。
するとリンは、束の中から一番長くて頑丈そうな爪を選び、その一本を引き抜いた。
そして、その爪を入念にチェックするように、太陽の光にかざしながら言った。
「これには、魔の力が染み付いてる。これを使えば、魔物達に有効な剣が作れるわ。
剣の扱いは、私が教える。こう見えても、とある国で王様の護衛をしていた事もあるの」
「リンて、いったい何歳なんだよ」
「女性に年齢を尋ねるなんてナンセンスよ!
私は自称十七歳!セブンティーン!」
「いやいや、いくらなんでもそれはサバ読みすぎーっっ!」
俺とモジャが声を合わせて言うと、リンもフフッと笑い、こう続けた。
「年齢なんてたかが数字。記号みたいなものよ。
大切なのは気持ち。心がピュアだと、永遠に年をとらないのよ」
「じゃあ、俺も永遠の少年だ」
「わしも少年ですぞ」
「髭面のおっさんが少年‥ って、だいぶ無理があるけどなぁ」
「そうねー。モジャはどう見ても中年ね」
「なんですとーっ!?」
アハハハハッーー
三人でひとしきり笑った後。
リンは呼吸を整え、真剣な面持ちで言った。
「この爪を、勇者の剣にかえるわ」
右手でローブの内ポケットから杖を取り出す。
左手に持った餓鬼の爪を頭の高さほどに掲げ、杖先を向ける。
「そんな錬金術みたいなこと、できるのか‥?」
俺とモジャは固唾を呑んで見守った。
「レ・ナーレナ・ギルックヨーツ!」
呪文とともに、杖の先端から金と銀の糸状の光が放出された。細い光は互いに絡み合い、餓鬼の爪を包みこむように、爪先から根元までをクルクルと旋回した。
まばゆい光の糸に覆われた爪は、みるみる姿を変えていく。
わずか二十センチ足らずだった黒褐色の汚れた爪は、白銀の立派な剣へと姿を変えた。
太陽の光を受け、眩しいほど輝きを放つ。
その光景に、俺もモジャも目を見張った。
「これは驚いた」
「持ってみて」
リンから、恐る恐る剣を受け取る俺。
「お、重そうだな
ッッ!??
か、軽い!!」
想像していた重さより、はるかに軽い。
剣など扱ったことのない俺でも、ブンブン振りまわせるくらい軽いのだ。
「素材が爪だから軽いのよ。でも、その分脆いかと言えば、心配ないわよ。
餓鬼は、歯も爪も鋭くすこぶる強い。この爪の主は、爪噛み癖があったみたい。噛まれ続けてきたことで、他の餓鬼の爪よりも、とにかく厚くて硬いわ。
それに、勇者への感謝の念がこの剣に宿っているから、きっと守ってくれるはず」
「リンて、すごいな」
俺は、剣を眺めながら言った。
「リン殿は、わしが今まで出会った魔法使いの中で、一番凄腕の魔法使いじゃ」
「やっだ〜。モジャったらぁ〜照れちゃうわよぉ〜」
リンは、モジャの頭をペチペチ叩いた。
「モジャは俺達と会って間もないのに、なぜリンが凄腕の魔法使いだってわかるんだ?」
「リンの周りに金色のオーラが見えておる。
それに、ローブについている六芒星の紋章は、最高位の証‥ですな?」
モジャがリンに確かめるように言うと、照れくさそうな表情をしたリンが、肩をすくめて頷いた。
「そうなのか。単なるコスプレじゃなかったんだな‥。リン、ありがとう」
「その剣を使いこなせるように、特訓するから覚悟しておいてね」
今思えば、何の武器も知識も持たず旅に出た俺はかなり無謀だ。ミーコへの愛だけで突っ走ってしまった‥。
昔から「なんとかなるさ」って変な自信があって、実際なんとかできてきたんだよなぁ‥。
リンは魔女だから、見た目よりも長く生きている。様々な時代を生き抜き、その経験から得た知識、魔術、武術は相当なものらしい。
モジャも、ドワーフ族というのは、人間の三倍程寿命が長く、遠い昔には戦を経験したことがあると話していた。
この二人と出会えて、本当に幸運だった!
「俺、ひとりで魔王と戦うつもりだったけど、こうしてリンとモジャに会えて心強いよ」
「娘を助け出す為に、私は命をかけているから。魔王なんて、ケチョンケチョンに倒してやりましょう!」
「お二人のお役に立てるなら、わしも嬉しい限り。わしは、ドワーフ族の為にも頑張りますぞー!」




