第 十一話 「 仲間 」
第 十一話 「 仲間 」
空の端が、薄紅と薄紫のベールを纏う。
色が深まるにつれ、白い月が輝きを増していく。
ようやく、テントを張るのにちょうど良い場所に差しかかった。
「この辺でいいかな?」
「賛成! もう歩き疲れたし、お腹もペコペコリンよぅ」
そう言うと、リンはヘナヘナとその場にしゃがみ込んだ。
俺は、持って来たテントを広げたが、あいにく一人用で簡易的なテントだ。
二人になるとは想定外だからなぁ。
‥ そういえば、リンは荷物らしきものを持っていないな。
「リン‥ 日帰りのつもりだったのか?
このテント小さいけど、良かったら使ってくれ。俺は外で寝るから」
「ありがとう。でも、安心して。このテントを二人用にするわ」
そう言うと、ローブの内ポケットから杖を取り出した。
「レ・ナーク・キーオ!」
呪文とともに、テントが五〜六倍の大きさへ拡大した。
「おおー!すごいなぁ」
「これっくらいは、簡単よ」
二人がゆうに入れる広さだ。
「そうか。リンには魔法があるから、手ぶらだったのか」
「んー。まあ、大抵のことならなんとかなるからね。だけど、勇者と会えて良かった。ひとりで山で野宿なんて‥ よく考えたら恐ろしいわ」
「こちらこそ。リンに助けてもらえたおかげで命拾いしたよ。
お礼と言ってはなんだが、早速夕食の支度をするから、休んでいてくれ。たいしたものは作れないけどさ」
「ありがとー」
俺は、リュックから鍋とインスタントラーメンを取り出す。
これは、ミーコのデビュー記念で発売されたインスタントラーメンなのだ!
中身はいたって普通のインスタント麺だが、麺がほんのり桜色。袋のパッケージは特別に可愛いミーコのイラスト。
もうこれだけで、他のインスタントラーメンより百倍は美味しい気がする。
おまけに、カードが入っているのだーーーーっ!
つい、興奮してのけぞってしまった。
気がつけば、リンは少し離れたところで散策中‥ 良かった、見られていない。
袋を慎重に開ける。この瞬間。
胸の高鳴りはオーケストラの演奏の如く、クレッシェンドーーーっ!!
いざ、開封ーーーっっっ!!
「ぉぉぉおおおーーーっ!!レアカードだ!!」
テンションが上がる!
ラメ入りのキラキラしたピンクをバックに、ミーコが純白のウエディングドレスのようなワンピースを着て微笑んでいる。
旅の初日でレアカードを引き当てるとは、なんたる幸運!
「ミーコ、ありがとう‥ 」
そっと呟き、穴が開きそうなほどカードを凝視した後、大切にカードホルダーにしまう。
空袋も大事に取っておこう。
ひとりでニヤニヤしながらお湯を沸かしていると、リンが戻ってきた。両手に何かを抱えているようだ。
「このキノコも入れて。ヒラヒラタケって言って美味しいのよ」
「お!いいね!」
リンの希望通り、ラーメンにキノコを加える。母ちゃんが持たせてくれた乾燥野菜も少し入れよう。麺がほどよく煮えるのを待って、粉末の醤油スープを入れて完成!
ぉおお!花の形をした薄かまぼこも入っている。
「リン、できたぞ」
「うわぁ。おいしそっ。いっただきまーす!」
完成したラーメンを、二人とも無言で一気に食す。
空っぽの胃袋を、幸福感が満たしていく。
まるでミーコの優しさが五臓六腑に沁みわたるようだ。
リンが取ってきたキノコも、良い出汁になった。リンは、スープも飲み干しご満悦の様子。
「美味しかったぁ!ごちそうさまでした」
リンが喜んで食べてくれて、俺も満足。
食事ってのは、ひとりで食べるより、ふたりで食べる方が美味しいもんだな。
母ちゃん、ちゃんと食べているかなぁ‥ 。
食後のコーヒーを飲み終えた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
しばし歓談した後、寝支度をすることにした俺達。
「ちょっと着替えるから、勇者はあっち向いててー」
「外に出てるから、着替え終わったら呼んでくれ」
俺はテントの外へ出た。
空を見上げると、満天の星空。
山で見る星空はなんて美しいのだろう。
出会ったばかりの女性と二人きりで夜を過ごすと思うと、急に胸がドキドキしてきたぞ。
リンのこと、出会った時は "おばさん" なんて呼んでしまったが、照れ隠しである。
実のところ、かなりの美人さんだ。高嶺の花の美人‥ というよりは、親しみやすいキュートさのある美人だな。スタイルも、抜群だ。
例えるとすれば、上から『ボンッ、キュキュッ、ボン、スラー』だ。
ちなみに、母ちゃんだと『ボヨンッ、ボボボヨヨーン、デローン、ズドーンッ』となる。
おわかりいただけるだろうか‥ 。
「もういいわよー」
リンに呼ばれて、テントへ戻る。
「あ‥‥‥」
俺は一瞬ポカンとしてしまった。
ついさっきまで 、ファッショナブルで奇抜なローブ姿だった美魔女の寝衣は、どう見ても学校ジャージだった。
俺のおさがりを寝衣にしている母ちゃんを彷彿とさせる。
エンジ色の上下に白いライン。左胸には、カタカナで
「クヴェレ」と刺繍されている。
「それは、もしや学校ジャージ‥ 」
「あ、これ?いいでしょ?着やすくて長年愛用しているのよぉ」
俺が寝袋にゴソゴソと体を滑り込ませていると
「勇者、おやすみー」
リンは、さっさと眠りについた。
「秒で寝ちまったな‥ 」
魔女と出会ったその日に餓鬼達と戦い、同じテントで眠ることになるとは。
旅の初めから、実に衝撃的な一日だったなぁ。
登山初心者の俺。もちろん、魔物と戦うのも初めて。
この先、何が起こるかわからないが、リンに出会えて心底良かったと思う。頼もしい仲間ができて心強い。感謝。
‥ 夜の静寂の中、俺の意識は溶けるように眠りへ誘なわれていった。




