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87 晴れた空そよぐ風

どこまでも広がる青空を、白い雲が形を変えながらゆっくりと流れていく。



「あー、気持ちいい! 絶好のハイキング日和ね!」



公園の入口で馬車を降り、両手を広げて思いっきり伸びをした。

深呼吸すると、澄んだ空気が体中に染み渡るようだ。


荷物を持ち、リチャードと二人で公園の中へ歩いていく。


「リチャード、大丈夫? 荷物重くない?」

「何を言ってるんですか。従者が荷物を持つのは当たり前のことですよ」

「それはそうなんだけど……」


リチャードは二人分のお弁当が入った籠と水筒を持っている。

それに比べて私は、コンデンスミルクの入った容器を入れたトートバッグしか持っていない。

リチャードは、それすらも自分が持とうとしてくれたが、せめてこれくらいは私が持つと言い張った。



公園の入口には、黄色いモッコウバラが咲き乱れる大きなアーチがあった。


「わあ! 綺麗……!」


アーチを見上げながら公園の中に足を踏み入れると、どこまでも続く緑の絨毯が目に飛び込んできた。


広々とした芝生広場では、家族連れがピクニックを楽しんでいたり、子供や犬が楽しそうに走り回っている。

楽しそうな笑い声が聞こえてきて、思わず顔が綻んでしまう。



芝生広場の周りには、様々な種類の木々が植えられていて、まるで小さな森のようだった。

桜はもう散っていたが、ヤマブキやバラ、ツツジなどが咲き誇り、目を楽しませてくれる。


『ベリーフィールズ・パーク』は、ウィンダミアで一番大きな公園だ。

王都から馬車で1時間ほどの距離にあり、休日には近隣から多くの人が訪れる。



今日のスケジュールは、10時に公園集合、14時に解散、という大雑把なものだった。

集合場所で出席を取った後は、各々自由に過ごして良いらしい。



「集合場所は……芝生広場の奥にある花時計の前……あ、あそこじゃない?」


見ると、指定された場所には、もうかなりの生徒が集まっていた。


今日は学院の外での行事なので、生徒達は制服ではなく、ハイキングに相応しい私服姿だった。


ちなみに、本日私の服装はというと。

紺色のモックネックの長袖ワンピースに、焦げ茶のショートブーツ。

ワンピースは動きやすいミモレ丈だ。

頭にはつばの広い白い帽子を被っている。


(これなら、胸元にイチゴの汁が付いても目立たない!)


ついでに言うと、万が一靴を泥で汚してしまっても、焦げ茶のブーツなので汚れが目立たないはずだ。


そして、リチャードの服装は。

私と色合わせをしたかのような紺色のジャケットとズボンに、焦げ茶のローファー。

ジャケットの中にはスタンドカラーのシャツブラウスと紺色のベストを着ている。

帽子はパナマ帽のような形のもので、黒いリボンが巻かれている。


いつもの制服姿に比べるとかなりラフな格好で、本人曰く『裕福な商家の息子』を目指した装いらしい。

だが、あまりにも端正な顔立ちのせいで、貴族のお忍び姿にしか見えない。




「エリザベス様ー、リチャード様ー」


声がした方を見ると、少し離れたところでマーガレット様がこちらに向かって手を振っていた。

周りにはチューリップトリオもいる。


マーガレット様は深緑色のワンピースに、ブーツ。

薄い緑色のつばの広い帽子を被っている。


アメリア様は赤、ビアンカ様はクリーム色、シャーロット様は黄色のワンピース。

初めて会ったお茶会の時も、赤、白、黄色のドレスだったから、彼女達はきっとこの色が好きなのだろう。

三人もつばの広い帽子を被っている。


(やっぱり皆、つばの広い帽子を被って来てるのね。マリーの言う通り被って来て良かった……)


出がけにマリーから、日焼け防止につばの広い帽子は必須だと言われたのだ。

帽子が嫌なら日傘を持っていくようにと言われたが、荷物になるので帽子にしたのだ。



ハイジ様とクラウス様は、まだ来ていないようだ。


「皆さん、もう受付は済ませたのですか?」

「いえ、まだですわ」

「では、皆が揃ったら受付に行きましょうか……ああ、ハイジ様達がいらしたようですね」


リチャードがそう言ったので振り返ると、モッコウバラのアーチの方から、ハイジ様とクラウス様が一緒に歩いてくるのが見えた。


「ハイジ様ー!」


手を振りながら呼びかけると、こちらに気づいたクラウス様が、手を振り返してくれた。


ハイジ様は水色のワンピース、クラウス様は護衛の役目があるため、グレーの騎士服だ。



「あら? ハイジ様、何だか様子が変ですわね」


マーガレット様が心配そうに言った。

よく見ると、確かにちょっと様子がおかしい。


ハイジ様もつばの広い帽子を被っていて、さらに俯いているので、顔が全く見えないのだが。

何だかクラウス様に手を引っ張られながら歩いているようだった。


だんだんと距離が縮まってくると、どうやらハイジ様が泣いていることがわかった。


「ハイジ様!? どうなさったんです?」


思わず走り寄って声をかけると、クラウス様が呆れたように言った。


「全くもう。公園の入口にいた犬を見て、ロルバーンにいる愛犬を思い出したらしくて。さっきからメソメソ泣きっぱなしなんですよ」

「ううっ……カールに会いたい……」

「はあ、全くもう。しっかりして下さいよ、情けない。いいですか、アーデルハイド様。貴女が泣くほど恋しがってるカールは、今頃、貴女のことなんてすっかり忘れてご機嫌で庭を走り回ってるかもしれませんよ」

「クララの馬鹿!」

「馬鹿って言う方が馬鹿って言ってませんでしたか?」

「クララの意地悪!」


何かあったのかと心配したが、いつものやり取りだったので特に問題無さそうだ。


「まあまあ、二人とも落ち着いて。全員揃ったので、受付しに参りましょうよ」


マーガレット様に促されて、皆で受付に向かう。


花時計の横に横長のテーブルが置いてあり、教師が5人立っている。

向かって一番左は、我らが担任セオドア・ブルック先生だ。



「ブルック先生ー!」


「淑女が大声を出すなといつも言ってるよね? 全く、何度言えばわかるの? 君は本当に学習しないなエリザベス・フォークナー!」


ブルック先生は、普段どおりの不機嫌そうな顔でブツブツと文句を言いつつ、手元の紙に何やらチェックを入れている。


「これで受付は終了。14時まではこの公園から出ないように。14時になったらまたここに来て。無事を確認した後は解散になる。その後どこで何をしようが、学院側は一切責任をとらないからそのつもりでいて」

「はいはい」

「『はい』は1回でいいから」

「はーい」

「君は本当に腹立たしいな、エリザベス・フォークナー!」


ブルック先生はその後、「今日は気温が高いから、熱中症にならないようにこまめに水分をとること」だの、「虫がいるからあっちの茂みには行かないほうがいい」だの色々と注意してきた。

やっぱりなんだかんだ言いつつ面倒見の良い人である。


「ふん、初めに言っておかないとバカな生徒が倒れたりして面倒だからね。くれぐれも僕に迷惑かけないでよね」


うん、今日も安定のツンデレ具合で何よりだ。


「わかりました。気をつけます。あ、先生も気をつけてくださいね、あっちの奥にはドッグ・ランがあるみたいですよ。可愛いワンちゃん達がたくさん走り回ってますからね!」

「ひっ……」


一気に顔色が悪くなったブルック先生に「では」とお辞儀をして受付を離れる。


背後から「君は悪魔かエリザベス・フォークナー!」という声が聞こえてきた。



「お嬢様、駄目ですよ、ブルック先生をからかっちゃ」


リチャードが少し困ったような顔でそう言ってきた。


「わかったわ」


一応そう答えてはみるものの――止められる自信は全くない。

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― 新着の感想 ―
皆の変わらぬ装いと良い天気のなかハイキンク! お嬢様&リチャもお揃いで楽しそうですね。 先生は本当に面倒見いいよね。ツンデレだけど(笑)
エリザベス「晴れた空、そよぐ風、憧れのイチゴ農園!」 サブタイトルから、「もしやエリザベスちゃんの前世って、1ドル360円、南の楽園ハワイには船で行く時代の婦人だったのか……?」と、変にドキドキして…
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