79 永遠の愛コンテスト ⑦
「さあ、今年も始まりました『永遠の愛コンテスト』!! これからこちらの3組のカップルに、3つのジャンルのゲームにチャレンジして頂きます! ゲームをクリアしていくことで、『自分たちこそが一番ラブラブなカップルである』ということを証明してもらうわけですが! その前に、まずは参加者の方々に、一言ずつ今のお気持ちを語って頂きましょう! では、エントリーナンバー1番のペアから。レオさん、ケイトさん、お願いします!!」
突然、司会にそう言われたレオこと王太子殿下は、うっとりと夢見るような口調で喋り出した。
「今の気持ち……? そうだね、こんな心が浮き立つような、めくるめく快感に溺れるような気持になったのは初めてだよ……んんっ!?」
今の気持ちを語れと言われて、コンテストへの意気込みや決意を語るでもなく、ただただ今の自分の感じていることを口にした王太子殿下は、突然ケイトに首輪に繋がった縄を引っ張られてしまった。
ケイトは縄をくいっと引っ張りつつ、背の高い王太子殿下に身をかがめるように促す。
そして、ちょっと背伸びして耳元で何か囁いた。
すると、王太子殿下は耳まで真っ赤になってしまい、口元を手で押さえながらふるふると震え出した。
「え? ええと? どうしました? レオさん?」
その様子のおかしさに司会が声をかけた。
すると、あろうことか、王太子殿下は大声で叫んだのだ。
「わんっ!!」
一体、どういうことだ!?
思わず、リチャードと顔を見合わせてしまう。
すると、キャサリンがそっと近寄ってきて、ひそひそ小声で言った。
「聞いちゃったわ! あのケイトっていう人凄いわね! 『黙りなさい。あんたは犬じゃなかったの?』って言ってたわよ!」
(うわああああ、ケイトーーーーー!! 王太子殿下になんてことを……!! そして殿下もなんで犬になんてなってるんですか!!)
レオの返事に満足そうに微笑むケイト。
その笑顔を見て、レオがさっきよりも大きな声で再び「わんっ!!」と叫んだ。
すると、客席から突然、「ひいいいいいっ!」という怯えたような声が挙がった。
これは――間違いない。
ブルック先生が見に来ている。
あのツンデレ教師までもが見に来るとは、『永遠の愛コンテスト』恐るべし。
そんなに有名なコンテストだったんだ、これ。
「えー、で、ではケイトさん、一言お願いします!」
司会が今度はケイトに話を振る。
するとケイトはすうっと大きく息を吸ってから、力いっぱい叫んだ。
「私達が目指してるのは、ただ一つ!! ナンバー……」
「ワンッ!」
やり切った感満載でケイトの方を見る王太子殿下を、ケイトがちょっと背伸びしてよしよしと頭を撫でてやっている。
「ケイト……」
「ケイトさん……」
私もリチャードも、突然のダジャレに体の力が抜けてしまった。
――だが、何ということだろう。
『うおおおおお!!』『ケイトさまあああ!!』『羨ましいいいい!!』
会場のあちこちから、信じられないくらい熱のこもった掛け声が飛び交っている。
どうやら王太子殿下とケイトは、ある一部の人々にとっては物凄く好意的に迎えられているようだ。
まあ、どちらを羨ましがっているのかは相変わらず謎なのだが。
「お二人はナンバーワン、すなわち優勝を目指しているということですね! 大変な意気込みですね!」
司会の男性が、なんとか上手いことまとめたようだ。
この司会、年の頃は30くらいだろうか。
気弱でおとなしそうな雰囲気だが、普段は何をやってる人なんだろう。
それはさておき。
次はいよいよキャサリン達の番だ。
「それでは、続いて、エントリーナンバー2番! キャサリンさんと、エリオットさん、一言お願いします!」
そう促されたキャサリンは、エリオットの手を取り、舞台の前の方に軽やかに進み出た。
この感じ、どこかで見たことがあるような。
(えっと、なんだったかな、ええと……そうだ! ミュージカルとかバレエとか、あんな感じ!)
「私達の愛の力を見せてあげるわ!」
「ふふっ、キャサリン、愛してるよ」
高らかにそう叫ぶキャサリンの手を取り、甲に口づけするエリオット。
それを見た観客から大きな声援と拍手が巻き起こる。
『キャサリンさまあああ!』『エリオット様、素敵ー!』『頑張ってー!!』
そして、カラフルな団扇が振られ、会場が大いに盛り上がりを見せる。
(おお! キャサリンさすが! 王道って感じ!)
司会がほっとしたような笑顔でうんうんと頷いている。
そうだろうそうだろう、司会としてはこういう感じの流れであって欲しいだろう。
だって、『永遠の愛コンテスト』だよ?
女王様と下僕大会じゃないんだから。
そんなことを思いつつ、ふと隣に目をやると。
リチャードが険しい顔で、握った右手を口元に当てている。
何かを考えこむときのリチャードの癖だ。
「これはまずいな……」
「リチャード? どうしたの? 何がまずいの?」
二人で顔を寄せ合いコソコソと話す。
「お嬢様、これから何て言うおつもりですか?」
「え? ええと、『頑張ります!』って言おうかなって」
「やっぱり。実は俺もです」
「は?」
「俺も、『頑張ります』と言うつもりでした」
だよね。突然何かコメント求められても、普通は『頑張ります』くらいしか言うこと無いよね。
「でも、それでは弱いと思いませんか?」
「は? 弱い?」
「はい。ケイトさん達ほどのインパクトや、キャサリン様たちほどの盛り上がりは無理だとしても。せめて、つまらないコメントだなという印象は避けるようにしたほうがいいのでは?」
確かに、そうかもしれない。
正直言うと、出場ペアが3組しかいないとわかった時点で、私は心の中で安心していた。
とりあえず、最低でも3位だなと。
賞金もらえるなと。
だが、違う違う、そうじゃない!
本来の目的は、賞金なんかじゃなかったはず。
私とリチャードが仲良しであると言うことを、できるだけ多くの人に知らしめる
それが一番の目的だったのだ。
なのに、私ってばいつの間にか無難な感じでやり過ごそうとしていた。
このままではいけない。
「そうね、リチャード。このままではダメよね」
そうだ。
できるだけ、インパクトのあるコメントを残し、観客を味方につけなければならない。
観客の盛り上がりも得点に大いに反映される。だから、友人知人の応援も必須だと宰相閣下たちが言っておられたではないか。
言い換えれば、それくらい応援してくれる観客が大事だということだろう。
でも、どうやって?
最前列でパペット人形を振ってくれている守り隊の皆様や、認めたくはないがまだ存在しているらしい私の会とやらの会員達だけでは、キャサリン達の応援に比べて数が少ない。
どうにかして、今日、この場にいる人々の気持ちを掴まねばならない。
私は会場をぐるっと見回しながら考えた。
ある一定のコアなファンはケイト達の応援についている。
キャサリン達は、学園の友人知人に加えて、今日この場に集まった普通の若者たちの支持を得ているようだ。
ならば。
私達が狙うべきはそれ以外。
それ以外で、この会場に多く集まっている者は――そう、子供達だ!!
「わかったわ、リチャード! 私に良い考えがあるの!」
「……はい?」




