78 永遠の愛コンテスト ⑥
「ママー、あのお兄ちゃんワンワンみたいだね!」
「しっ! 見るんじゃありません!」
すぐ隣で交わされる親子の会話を聞きながら、私はステージの上の二人から目を離せないままでいた。
「お、お嬢様、あれって、お、おうた」
「しっ! マリーさん、それ以上言っちゃ駄目です!」
マリーもリチャードも、もう彼の正体に気付いているようだ。
そう。目の前の様子のおかしい彼は――この国の王位継承権二位である、王太子レオン殿下だった。
長めの前髪で目を覆い、さらに銀縁メガネで目を隠すようにしているため、いつもとは印象が違って見える。
本人としては、精いっぱい変装してきたつもりなのだろう。だがしかし。
飾り気のないドレスシャツに、黒の細身のスラックスというシンプルな服装にも関わらず、均整の取れた体つきや美しく整った顔の造りのせいで、どうしたってイケメン感が滲み出てしまっている。
(そこで止めておけば良いものを…………なんで首輪なんてしてきたんだ!!)
私は心の中で思い切り叫んだ。
だって!
百歩譲って首輪だけなら『チョーカーです』って言って誤魔化せる。
だけど、その首輪の先に、太くてしっかりした縄が付いてる時点でもう、どうにも言い逃れできない雰囲気になっていた。
(せめて縄ではなく紐だったら……ってそれでもアウトか。鎖でなかっただけ良かったと思うべき……?)
頭の中が大混乱で、もう何が正解かわからなくなってきたが、少なくとも今の状態がおかしいことだけは揺るぎの無い事実だ。
そして。認めたくないが。
王太子殿下の隣に立ち、首輪に付いた縄をリードのように持つ小柄な女性は――
「ああ、ケイトったら……なんてことを……」
「大事な用事って、『永遠の愛コンテスト』のことだったのね……」
「ケイトさん……」
いつものメイド服ではなく、私服の黒いワンピースを着て、黒い仮面で目を覆い顔を隠してはいるが。
そこにいるのは間違いなくフォークナー伯爵家のメイドであるケイトその人だった。
そしてその表情は、仮面で隠しているにもかかわらず、はっきりとわかるほどの笑顔だった。
「ケイトさん、すごい笑顔ですね」
「はっ、そ、そういえば」
「何、どうしたのマリー?」
「ちょっと前に、ケイトが言ってたんです。今年の『永遠の愛コンテスト』の賞品が凄いって!」
例年だと副賞は『宿泊券』や『ディナー券』だったのだが。
なんと今年は、趣向が変わって現金が貰えるらしい。
「1位が300万レン、2位が100万レン、3位が50万レンらしいです」
「だからなのね、ケイト……!」
「ケイトさん……さすがお金が恋人なだけありますね……」
ちなみに、1レンは日本円に換算すると1円くらい。覚えやすい。
他にも彼らの正体に気づいている人がいるだろうかと、周りをキョロキョロ探ってみると。
「うわあ、あいつってば、変態だったのね」
「ははっ、キャサリン、不敬ですよ」
キャサリンとエリオットは、どうやら彼が何者かわかっている様子。
だが、幸いなことに、その他の人達は彼の正体に気付いていないようだ。
「お、おおっと、しょっぱなから物凄いインパクトのペアが現れましたね! エントリーナンバー1番。ケイトさんとレオさんでーす!」
舞台の上では、司会の若い男性がざわついた空気をなんとか盛り上げようと頑張っていた。
トップバッターから様子のおかしい男女が現れ、内心かなり焦っていることだろう。
心から同情してしまう。
意外にも、会場のあちこちから『頑張れよ!』『羨ましい!』などと好意的な掛け声がかけられる。
ただ、どちらを羨ましがっているのかは謎だ。
「えー、続きまして、エントリーナンバー2番。キャサリンさんとエリオットさんでーす!」
気を取り直したような司会の声と共に、キャサリンとエリオットが舞台に上がった。
すると、観客席から大歓声と大きな拍手が巻き起こる。
とくに掛け声の大きい一画に目をやると『キャサリン様&エリオット様 頑張って!』と書かれた大きな布が目に飛び込んできた。
その周りにいる人達も、『キャサリン様♥』『こっち見て』などと書かれたカラフルな団扇をパタパタと振っている。
団扇の周りにはふわふわしたファーのようなものが付いていて、それらが歓声に合わせて振られる様は大層華やかだった。
「キャサリン様達の応援は凄いな! 皆、『夜の女王を称える会』のメンバーなのか?」
「そうみたいね。皆、黒猫のブローチ付けてるし。ところでマリー、あれ見て何か思い出さない?」
「ああ……なんかアイドルのコンサート会場みたいですよね」
「そうそう。あれもマダム・ローリーの店で売ってるのかしら」
「きっとそうですよ……」
モデルのようにポーズを決めた舞台上のキャサリンは、アラビアンナイトに出てくる美女のような妖艶さで、隣に立つエリオットの熱い視線を当然のように受け止めている。
その堂々とした様子に、我が妹ながら拍手を送りたくなる。
「そして最後は、エントリーナンバー3番。エリザベスさんとリチャードさんです!」
――ついに私達の名前が呼ばれた。
リチャードと手を繋ぎながら舞台の上へと歩き出す。
私達は前の二人に比べるとインパクトが少ない。
きっと、応援の観客も少ないだろうなと思ったのだが。
意外なほどの大歓声と拍手が聞こえてきて驚いてしまった。
「「「キャー! エリザベス様ー! リチャード様ー!」」」
「お二人とも、頑張って下さいませー!!」
聞き覚えのある声がしたので目を向けると、最前列にチューリップトリオとマーガレット様、ハイジ様とクラウス様がいた。
皆、両手に白いうさぎと黒いオオカミのパペット人形を装着している。
それを高々と掲げてバイバイするみたいに小刻みに左右に振るものだから、かなり目立っている。
そして、さらに意外なことに。
白いうさぎと黒いオオカミのパペット人形を持ってるのは、守り隊とハイジ様だけではなかった。
何故かかなり多くの人が持っていて、守り隊の真似をして上に高く掲げ、小刻みに左右に振っている。
「なんで!? なんであの人形を持っている人があんなにいるの?」
「エリザベス様の方の会員のようですね」
「わ、私の方の会員!?」
「ええ、『月の女神をお守りする会』です。銀の羽のブローチを着けていますから」
リチャードにそう囁かれてよく見ると、遠くてわかりにくいが、確かに銀の羽みたいなものが襟元に見える。
なんだかよくわからないが、謎の会はまだ続いていたらしい。
「と、とにかく、仲良く見せるチャンスよ! 精一杯頑張りましょうね!」
「はい! お嬢様!」
――こうして、ついに、『永遠の愛コンテスト』が始まった。
間が空いてしまい申し訳ありません。コロナで寝込んでました……




