77 永遠の愛コンテスト ⑤
そして、ついに『永遠の愛コンテスト』の当日となった。
「お嬢様……! とっても可愛いです……!」
支度を手伝ってくれたマリーが、ほうっとため息を漏らした。
全身が映る姿見の前に立ち、白うさぎのコスプレをした自分の姿をしみじみと見る。
――うん、これは確かに可愛い。
真っ白なうさ耳が引き立つように、髪は何もせず下ろしただけなのだが、マリーが丁寧にブラッシングしてくれたおかげで艶々になっている。
膝丈スカートなので肌の露出を抑えるために白いタイツを履いていて、白いバレエシューズと合わせると全身真っ白なのがうさぎっぽい。
迎えに来てくれたリチャードは、私の姿を見た途端に、「お嬢様……! 優勝です……!」と呟き、頬を染め片手で口元を覆っていた。
そんなリチャードの格好はというと。
マダム・ローリーの店で試着した時よりも、ずっと大人っぽい仕上がりになっていた。
前髪を片方だけ後ろに撫でつけ、シルクハットを手に抱えているせいか、父親のジェームス様のような雰囲気でいつもより色っぽく見える。
最初にマダム・ローリーが用意したのは蝶ネクタイだったのだが、あとからリチャードの要望で白いクラヴァットに変更になったと聞いている。
確かに、クラヴァットの方が落ち着いて見えるので、正解だったようだ。
小道具として左手に持っているのは銀の蔦模様の描かれた白いステッキ。
これはジェームス様の私物を借りてきたそうだ。
マダム・ローリーの店で見たときは『可愛いわんこ』っぽかったのだが、今日はあの時よりもずっと大人っぽい雰囲気に仕上がっている。
「これなら、犬には見えないと思うのですが」
「ええ、そうね! 犬っていうより、『狼の子供』って感じ!」
「くっ……子供……」
悔しそうに眉を顰めたリチャードの肩を、マリーがポンポンと叩いた。
「さてと。そろそろ出発しましょうか! お二人とも、これをどうぞ」
メイド服の上にコートを羽織ったマリーが、私とリチャードに黒のローブを手渡してくる。
いくらなんでもこの格好で街中を歩くのは恥ずかしいので、上にローブを羽織っていくのだ。
うさ耳カチューシャと狼の耳付きシルクハットは、会場で身に着ける予定。
今日は付き添いとしてマリーも一緒に行ってくれるので心強い。
三人で馬車に乗り込むとすぐに、リチャードが辺りを見回しながら言った。
「あの、ケイトさんの姿が見えませんでしたけど」
「ああ、ケイトは今日はお休みなのよ」
「ふーん。ケイトさんがこんな日に休むのって珍しいですね」
そうなのだ。
ケイトはマリーとともに私を着飾らせるのが大好きなので、こういうイベントの時にお休みするのは本当に珍しい。
「なんだか、大事な用事があるって言ってました」
マリーも休みの理由を詳しく聞いていないそうだ。
大事な用ってなんだろう。
そんな会話をしつつ、私達は会場へと向かった。
※※※
「わあ! 思ったより人が多いわね!」
会場には多くの観客が詰めかけていた。
馬車から降りて、コンテストの運営本部に参加申し込みをしに行く。
道が渋滞していたので、申し込み時間ギリギリになってしまったが、なんとか間に合ったようだ。
「はい、ではこれで受付終了です。もう少ししたらコンテストが始まりますからね。番号と名前を呼ばれたら、お二人揃って舞台に上がって下さい」
リチャードが受付の人から番号が書かれた紙を受け取る。
「え?」
「どうしたのリチャード。って、え? 3番?」
リチャードが持っている紙を横から覗き込むと、そこには大きく「3」と書かれていた。
3番ということは、私達の前に二組しかいないということ。
まあ、それはいいとして。
問題なのは、私達の後から受付する人達が、全くいないということだ。
「え? もう受付締め切り時間すぎましたよね?」
マリーも驚いている。
「ねえ、マリー。コンテスト出場者って、いつもこんなに少ないの?」
「いいえ。毎年10組以上が参加していたはずですよ。去年は15組だったと聞いています。3組って、いくらなんでもこれは少なすぎますよ……」
「何かあったのかな……」
三人で首を傾げていると、急に背後から声をかけられた。
「お姉さま! リチャード様! マリーさん!」
「キャサリン。いきなり走り出すと危ないですよ」
振り返ると、キャサリンが笑顔で手を振りながら、小走りに駆け寄って来るところだった。
その後ろをエリオットが心配そうに追いかけている。
「うわ! キャサリン、再現度が凄い……!」
キャサリンの衣装は、前世でよく知るディ〇ニー映画『ア〇ジン』に出てくるお姫様そっくりだった。
青い宝石が付いた布のカチューシャや、金色の大ぶりなフープピアスを身に着け、いつもは下ろしている黒髪をゆったりと一つに纏めている。
「ふふっ、一度このコスプレしてみたかったのよね。でも、ちょっと不満が残るっていうか……マダム・ローリーがね、嫁入り前の娘がおへそを出してはいけません的なことを言うから、上下がセパレートの衣装は作れなかったの。エリオットにも止められちゃったし」
確かに、キャサリンの身に着けている衣装は上下が繋がったオールインワンだ。
あのディ〇ニープリンセスは、ウエストの肌が見えているデザインの服を着ていたから、確かに完全再現とはなっていない。
「おへそなんて出したって減るもんじゃなし。嫁入り前がダメなら、嫁入り後ならいいのかしらね」
「もっと駄目ですよ。私以外の者には見せないで下さいね」
「もう、エリオットったら。マダム・ローリー以上にうるさいんだから」
そして。
唇を尖らせて文句を言うキャサリンの頬を撫で、優しく微笑みかけるエリオットはというと。
上半身は素肌にベストを羽織っているだけで、鍛えられた腹筋が露わになっている。
下半身はふんわりとした、いわゆるアラジンパンツ。
頭には白いターバンを巻いている。
(こ、これは……!! 『砂漠に咲く薔薇〜愛と忠誠の狭間で〜』でアルファードがよく着ていた服と同じだ!!)
思わずキャサリンの方を見ると、キャサリンはふふんと得意そうな顔で大きく頷いた。
これは間違いない。
キャサリンも絶対にあの本の読者に違いない。
隣のマリーも、大興奮で頷いている。
これはなんというか、ファンにとってはとんでもなく嬉しい。
最高のご褒美と言っても過言ではない。
だって、この世界のアルドラ王国は、レモンとオリーブが特産物で、夏は暑く乾燥するが、冬は温暖な土地だったのだ。
前世で言うところのイタリアのような国で、灼熱の砂漠の王国とは程遠い。
なので、小説のようなアラビアンスタイルの服装をしている人は皆無だった。
ここにきてまさかのアルファードコスプレ!
キャサリンは自分がコスプレをしたかったようなことを言っているが、本当はエリオットにこの格好をさせたかっただけなのでは?
「あの、キャサリン様達は何番でした?」
私達がエリオットの衣装に大興奮なのに比べて、リチャードは通常通りだ。
「私達は2番よ。お姉さま達は3番なのね」
「ねえ、キャサリン、3組しかエントリーしてないみたいなんだけど」
「ふふっ、作戦成功ね」
「え? 作戦?」
「そうよ」
キャサリンが不敵な笑みを浮かべて言った。
「ライバルは少ない方がいいもの。私とお姉さまがコンテストに参加するって噂を流したの。その時にね、『私やお姉さまに勝てると思うくらい自分の容姿に自信のある方と、リチャード様やエリオットに勝てると思うくらい自分に自信のある方が沢山集まるってことよね? ふふっ、楽しみだわ!』って言っておいたの」
それはアレか。
『私達に勝てる容姿でないと、恥をかくことになるわよ!』
という遠回しな表現か。
それを聞いたマリーが、若干顔色を悪くしながら呟く。
「つまり、エントリーした人は、自分に相当自信があるってことになりますね」
「ふふっ、それで負けたら恥ずかしいものね。だから、皆、今回は参加を見送ったんでしょうね」
「ちょっと待って! これって『自分たちが一番ラブラブなカップルである』ということを証明するコンテストよね? 美しさを競うとかじゃないわよね?」
私の突っ込みに、リチャードも頷いている。
だが、キャサリンは私達の様子なんてお構いなしだ。
「なのに、エントリーした強気のカップルがいるってことよね。しかも、私達より先に」
キャサリンがそう呟くと同時に、『永遠の愛コンテスト』の始まりを告げるアナウンスが始まった。
「さてと。お姉さま、お互い頑張りましょうね」
「うっ、ど、どうしよう。なんか緊張してきちゃった!」
「お嬢様、落ち着いて下さい!」
司会の男性が拡声器みたいな物を使って、舞台の上から大声で叫ぶ。
「それでは、エントリーナンバー1番のペアの登場です!」
(一体どんな人たちなのかな…………って嘘でしょう!?)
舞台袖から現れた男女を見て、会場に集まった人々の間にどよめきが起こった。
黒い仮面で目を覆い、手に縄を掴んだ小柄な女性。
その縄の先は、長い前髪と銀縁メガネのせいで顔がよく見えない背の高い男性の首輪に繋がっている。
まるで女王様と下僕のようなその二人は――
(ケイトと王太子殿下…………!!)




