76 永遠の愛コンテスト ④
「お姉さま、コンテストの衣装はどうなさるの?」
昼休み、キャサリンがA組の教室に来た。
(衣装? あれ? 何か特別な格好しなきゃいけないんだっけ?)
突然そんなことを言われて動揺する私に、キャサリンがため息をついた。
「お姉さまったら、その様子じゃ何も用意してないようね」
「え、どういうこと? キャサリンは何か特別な衣装を着るの?」
「もちろんよ、衣装だって審査に反映されるんだから!」
「ええっ?」
「お姉さまったら、相変わらずぼんやりしてるんだから……」
キャサリン曰く。
『永遠の愛コンテスト』では、外見も非常に重視される。
安易なペアルックなどではダメで、「まあ! お二人は、なんてお似合いのカップルなんでしょう!」というインパクトが必要らしい。
「ちなみに、お姉さまはどんな服装で出るつもりだったの?」
「え? 制服だけど」
「はあ? お姉さまったらもう……。もしやと思ったけど、案の定ね。そんな手抜きの格好じゃダメですからね!」
「えー、じゃあ、キャサリンはどんな格好で出るつもりなの?」
「ふふっ、それは当日まで秘密」
そう言って微笑むキャサリンは、とんでもなく可愛らしい。
思わず見惚れてしまったが……よく考えたら、キャサリンと私は身に持つ色が違うだけで、顔の作りはそっくりなのだ。
ということは、私もこのくらい可愛く見えてるってことか。
前世の私が大好きだったイラストレーターが、渾身の力を込めて描いた(であろう)ビジュアルなのだから当然といえば当然なのだが。
最近、ついつい忘れがちになっていたが、私は元々、小説のヒロインなのだ。
「コンテストまでもう何日もないんだから、急いで用意した方が良いわよ。そうだ、今日の放課後、リチャード様とマダム・ローリーの店に行くといいわ! 私とエリオットの衣装もマダム・ローリーに作ってもらったのよ。ふふっ、マダム・ローリーなら、きっと素敵な衣装を考えてくれるわ」
キャサリンもお薦めだと言うし、そもそも、コンテストまで時間がない。
とりあえず、マダム・ローリーならば、なんとか良さげな衣装を見繕ってくれるだろうということで、私とリチャードは放課後にマダム・ローリーの店を訪ねることにした。
※※※
「まあまあ! エリザベス様、ベルク様! ようこそおいで下さいました!」
店に入ると、マダム・ローリーが両手を胸の前で組み、目を輝かせて出迎えてくれた。
「こんにちは、マダム。あのね、今度『永遠の愛コンテスト』に出る予定なの。その時に着る服の相談に乗って欲しいのだけど、いいかしら……」
「まあまあ! もちろんでございます! 実はですね、先日、キャサリン様からエリザベス様も出場されると伺いまして……色々と準備をしておりましたのよ!」
(えっ? 準備していたって、どういうこと?)
なんだかキャサリンとマダム・ローリーがグルになっているような気がするけど。
でもまあ、時間も無いことだし、この際有難く受け入れることにしよう。
マダム・ローリーはにっこりと笑顔になり、入口の左側の部屋へと私達を案内した。
「えっと、これは一体…………!?
部屋の中には二体の男女のマネキンが並んでいた。
向かって左側の女性型のマネキンが着ているのは、真っ白なワンピース。
上半身は体にフィットし、腰から裾に向けてふわっと広がった型で、スカート丈は膝が隠れるくらい。
ノースリーブだが、肘上まで隠す長手袋のおかげでそれほど露出している感じは無い。
ボートネックの襟の周りとスカートの裾に、真っ白なファーが付いていて、ふわふわと可愛らしい印象だ。
そして、何よりも目を引くのが、頭に付けられたウサギの耳付きカチューシャだった。
「え……? 何これ、ウサギのコスプレ……?」
隣の男性型のマネキンの方はというと。
黒のスーツのズボンのお尻のところに、毛皮でできたふさふさのしっぽが付いている。
頭の上のシルクハットは、黒いサテンのリボンが巻かれており、リボンの左右に狼っぽい耳が付いていた。
「こっちは狼のつもりなのか……? え、もしかして、俺がこれを着るってことか?」
リチャードも困惑しきった様子で呟いている。
そして、予想外の衣装に戸惑っているうちに、マダムから試着してみるよう強引に言われ――あれよあれよという間に、衣装を身に付けさせられた私とリチャードだが。
「「「キャー、よくお似合いです、エリザベス様!!」」」
「本当に! 真っ白なウサギのしっぽがなんて愛らしいんでしょう! エリザベス様にぴったりですわね!」
「これはこれは、よくできてますねー。アーデルハイド様もリスのドレスを作ってもらったらどうですか? それとも、ドングリのぬいぐるみでも持ちます? まあ、そんなの持たなくても立派にリスに見えますけどね、ハハハ」
「クララの馬鹿!」
これは一体何事か。
試着を終えた私とリチャードが元居た部屋に戻ってくると、何故かそこには、チューリップトリオ、マーガレット様、ハイジ様とクラウス様がいた。
「何故、ここに皆様がいらっしゃるんですか!?」
リチャードが焦ったように叫んだ。
「うふふ。キャサリン様からお二人が放課後にマダム・ローリーの店に寄ると聞きましたの。で、ついついどんな衣装を選ばれるか気になりまして……」
マーガレット様がにこやかに答える。
で、見に来たわけか。皆して。
「まあまあ、思った通り、とってもお似合いですわ!!」
マダム・ローリーが揉み手でニコニコと言う。
「テーマは『白うさぎと黒い狼』ですわ! 今回は、エリザベス様の無垢な愛らしさを天使ではなく可愛らしい白うさぎで表現してみましたの! そんなエリザベス様を『食べてしまいたいくらい愛しく思う』という意味で、ベルク様のお衣装のテーマは狼にしてみました! いかがでしょうか?」
いかがでしょうかと言われましても。
鏡に映る自分の姿は、確かに可愛い。
だが、それ以上に気恥ずかしい。だって、コスプレだよ、これ。
リチャードはと言うと、後ろに付いたしっぽを掴んで、真っ赤になってふるふる震えている。
きっと恥ずかしさに耐えているんだろう。
でも、この格好は、黒い髪黒い瞳のリチャードにとても似合っている。
父親の二つ名『黒い狼』にちなんで狼にしたのもあるんだろう。
「えっと、リチャード、すごく素敵よ、似合ってるわ」
「…………っ! お、お嬢様こそ、本当に可愛らしいです!!」
「あらあらまあまあ! お二人とも仲がよろしくてようございますこと!」
マダム・ローリーがぱあっと顔を輝かせながら言った。
「そんなお二人を応援するご友人の皆様に、とっておきのお品がございますの! よろしかったら、身に着けてみてくださいませ!」
そして、パンパンと手を叩くと扉が開き、店の従業員数名がワゴンに何かを乗せて部屋の中に入って来た。
「まあ、これは……!」
「なんて可愛らしい……!」
マダム・ローリーが用意したという物。それは――
白うさぎと黒いオオカミのパペット人形だった。
前世で、「うしくんとかえるくん」のパペット人形を使っていた芸人を思い出す。
長い耳や鋭い牙などの特徴を捉えただけの、ごくごく簡単な作りとはいえ、パペット人形ともなれば、すぐに用意できるものではないはず。
一体、どれくらい前から用意していたのか。
(もしかして、キャサリンってば、かなり前から私達を『永遠の愛コンテスト』に出場させる気だったの……?)
私がキャサリンに相談を持ち掛ける前から企んでいたのかもしれない。
そう思うと、背筋が寒くなってきた。
リチャードの方を見ると、虚ろな目で遠くを見ていた。
「うふふ、当日はこれを着けて応援に参りますわ!」
マーガレット様以下、全員がパペット人形を両手に着けて微笑んでいる。
クラウス様はパペットでハイジ様の頭を掴んでいて、ハイジ様から文句を言われている。
(こうなったらもう、後には引けない。やるしかない!)
私は気を取り直して、できるだけ明るい声を出した。
「リチャード、本当に似合ってるわよ!」
「お嬢様……」
「さすが『黒い狼』の息子ね! でも、『黒いわんこ』って感じで可愛いわよ!」
「わんこ……狼じゃなくて……犬……」
途端にリチャードが涙目になり俯いた。
「エリザベス様……そういうところですよ……」
マーガレット様が呆れたようにため息を付いた。




