75 永遠の愛コンテスト ③
「…………大変失礼いたしました……」
鼻血が落ち着くと、リチャードは、丁寧に頭を下げた。
「あらあら、リチャード君は真面目ねえ」
「リチャード様が謝ることはないのですよ。悪いのは父なのですから」
「えっ、あれっ? 僕ってそんな悪いことしたっけ?」
とりあえず、甘い雰囲気づくりは後回しにすることにして。
『永遠の愛コンテスト』がどんなものなのか、大体の流れを説明してもらうことになった。
「リチャード君は実際に見たことがあるようだけど……って、大丈夫!? 思い出しちゃった!? ハンカチで鼻を強く抑えておいた方が良いわよ!」
「…………度々、申し訳ありません」
『永遠の愛コンテスト』とは。
出されたお題を次々にクリアしていくことで、『自分たちこそが一番ラブラブなカップルである』ということを証明するイベントだ。
審査員は噴水広場の周りの商店街のお偉いさん達、並びに毎年参加する謎の老人達。
観客の盛り上がりが得点に大いに反映されるので、友人知人の応援は必須なのだとか。
最終的に審査員に選ばれた一組が、その年の『優勝カップル』となり、豪華な商品を手に入れることができる。
この、『出されたお題を次々にクリアしていく』すなわち、『ちょっとしたゲームをクリアしていく』のがこのコンテストのミッション。
このゲームは、毎年三つのジャンルから一つずつ選ばれているそうだ。
一つ目のジャンルは『クイズ』
これは、お互いのことをどれだけ知っているかを競うものだ。
相手の好きな食べ物や、趣味、相手の癖や行動パターンを当てたり、子供の頃の夢や、今一番欲しいものを当てる。
意外とお互いのことがわかっていないカップルが多くて、全問正解するカップルは少ないのだとか。
二つ目は『愛の共同作業チャレンジ』
二人羽織のような状況でケープを被って食事、二人三脚や抱っこで障害物競走、スイカ割り、絵に描いてある物や言葉をジェスチャーで表現し当てる、等々。
動きがコミカルになりがちなので、笑い転げる観客が続出。
ここが一番の盛り上がりを見せるそうだ。
そして最後は『愛の告白&アピールタイム』
相手への思いを熱く語ったり、相手の好きなところを制限時間内にできるだけ沢山挙げていったり、とにかく自分がいかに相手のことを好きかを観客と審査員にアピールする。
話を聞いていて、これが一番難しそうだと思った。
「コンテストの流れは大体こんな感じよ。ゲームのジャンルについては、少なくとも20年前から、今話した三つで変わらないわ」
「つまり、だ」
宰相閣下がコホンと咳払いをした後、真面目な顔になる。
そうしていると、不思議と理知的で格好良く見える。
うちの父親やリチャードの父親であるベルク伯爵と比べるとやや劣るが、宰相閣下は世間一般の基準から言うとかなりのイケメンだ。
軽い雰囲気でふざけたことばかり言ってるから、ついつい忘れてしまうが。
「傾向がわかっているから対策が立てられる。事前に予習が可能ってことだね。お互いがお互いのことを深く知ることが大事だから、よーく話し合うことが大切だよ」
「お互いのことを深く知る…………」
リチャードは険しい顔で、握った右手を口元に当てている。
何かを考えこむときのリチャードの癖だ。
「そうそう。自分は相手のことをよくわかってるなんて過信していると、クイズで間違えて大恥かいちゃうわよ! ね、あなた」
「…………もう20年経ったんだ、そろそろ許してくれないか?」
どうやらお二人もコンテスト参加経験があるらしい。
だからマーガレット様は、『永遠の愛コンテストに詳しい者がいる』って言ったのだろう。
「国王陛下と王妃様も参加されたと聞いたのですが」
リチャードがハンカチで鼻を抑えつつ言った。
「そうなのよ、お二人は20年前の優勝カップルなのよ」
「ははは、あれは凄かったな!」
国王陛下がまだ王太子殿下で、王妃様が婚約者だった頃の話だ。
ケープを二人羽織のようにして、クリームたっぷりのパイを食べるというゲームでは、ケープの中の陛下がまるで見えているかのように優雅なカトラリー使いを披露し、綺麗な一口大に切ったパイを王妃様の口にゆっくりと運んでいたそうだ。
「それに引き換え、あなたときたら…………私の顔をクリームだらけにしましたよね」
「いやいや、あれは無理だって!」
キャロライン様が、昔を思い出したのか険しい表情になると、宰相閣下が慌てて言い訳を始めた。
だが、昔を思い出して怒りに再び火が付いたらしいキャロライン様の勢いは止まらない。
「聞いて頂戴、この人ったらひどいのよ! 『相手の一番好きなところは?』って聞かれて、なんて答えたと思う? 『胸!』って言ったのよ、この人!」
「嫌だ、お父様ったら最低!!」
「いやだって、正直に答えた方が良いと思ったからさあ…………わあお、二人とも、なんて目で見てくるんだい!?」
話を聞いている限り、コンテストの後は相当揉めたに違いない。
だが、意外にもすぐに仲直りしたのだそうだ。
「優勝したのは国王陛下と王妃様ペアだったけど、僕たちも商品を貰えたんだよ!」
「会場を最も沸かせたカップルということで、特別賞をもらったの」
その特別賞とは。
「王都の高台にある夜景の美しいレストランでのディナー券」だったそうだ。
「ははは、夜景を見ながらキャロラインに謝り倒して、なんとか許してもらったんだよ!」
「あんなところで土下座されたら、恥ずかしくて仕方がないですからね!」
「君に許してもらうためなら、土下座なんていくらでもするさ! なんなら踏みつけてもらってもかまわない! うっ、キャロラインまで鳩尾を殴るのは止めてくれ!」
腹パンはダメだけど踏まれるのはいいのか。
一瞬、思考が迷宮入りしそうになったが、マーガレット様がパンと手を打ったため戻ってこられた。
「とにかく! リチャード様とエリザベス様は、お互いについてよーく知るべきということですわね!
ちなみに、リチャード様はエリザベス様の好きな食べ物はご存知でしょうか?」
「イチゴだと思います」
「わあ、リチャード、凄い! 大正解!」
「落ちたものまで拾って食べようとしてましたからね」
「……お願い、それ、人前で言うの止めて」
思わぬところで拾い食い未遂を暴露されてしまった。
「では、リチャード様の好物は?」
「ええと、甘さ控えめのクロテッドクリームがたっぷり添えられたスコーン!」
「正解です」
リチャードが嬉しそうに答える。
私がちゃんと好きな食べ物を知っていることが嬉しいらしい。
「うふふ、良い調子ですわ! では、次の質問です。エリザベス様、リチャード様の好きなところを挙げてください」
「声!」
「あとは?」
「えっと、ベルク伯爵ジェームズ様にそっくりな顔!」
思わずそう答えると、リチャードが眉を顰めて嫌そうな顔になった。
(あれ? ベルク伯爵に似てるってNG? 私なんかマズいこと言った?)
「ははは! そうだよね、正直に答えただけなのにって思うよね!」
「あなたは黙っててくださいませ」
「ははは、そんな冷たい目で見られるとなんだか興奮しちゃう、ぐはっ」
そろそろ宰相閣下の身体が心配になってきた。
と同時に、この国の将来も不安になってきた。




