74 永遠の愛コンテスト ②
そして放課後。
私とリチャードは、マーガレット様の家、すなわちスペンサー伯爵家にお邪魔した。
「まあまあ! エリザベスちゃん、リチャード君! 会えて嬉しいわ!」
「ははは、ようこそわが家へ、ゆっくりしていってくれたまえ」
そこで待ち構えていたかのように、マーガレット様のご両親であるスペンサー伯爵夫妻から声をかけられた。
「初めまして、宰相閣下、スペンサー伯爵夫人。エリザベス・フォークナーと申します」
「初めまして。お目にかかれて光栄です。リチャード・ベルクと申します」
慌てて礼を執ると、お二人は気さくな様子で笑い出す。
「あらやだ、実はね、エリザベスちゃんとは初めてではないのよ。私、貴女が小さい頃にはよく、バートン子爵家に遊びに行ってたの」
聞けば、スペンサー伯爵夫人のキャロライン様は、お父様やお母様とは幼馴染だったらしい。
とくにお母様とキャロライン様はとても仲が良く、当時婚約者だった宰相閣下はいつもお母様に嫉妬していたのだとか。
「あまりにも二人が仲良くしているからさ。『マーガレットと俺と、どちらが好きなんだい?』って冗談のつもりで聞いてみたんだよ。そしたら、キャロラインは何て言ったと思う!? 『……ごめんなさい。マーガレット様です』って言ったんだよ!!」
ショックを受けた若き日の宰相閣下は、半泣きで、お母様の兄、つまり私の伯父ジョージの元に行き苦情を入れたそうだ。
宰相閣下は、ジョージ伯父様と同い年でとても仲が良かったらしい。
なので、その妹のお母様ともよく遊んだとのこと。
「マーガレットにはよくボコボコにされたよ……」
そう言う宰相閣下は、国王陛下と共にこの国を支える偉い方なのだが。
全くそんなことを感じさせないほど、気さくで優しそうに見える。
「それにしても……エリザベスちゃんは、銀の髪に青い瞳がマーガレット様にそっくりね……」
「ああ、そうだな。しかも、顔はヘンリーに瓜二つだ!」
お二人が私にとても好意的なのを見て、隣のリチャードもにこにこと嬉しそうにしている。
マーガレット様もそんな皆を見ながら笑顔で言った。
「うちの母は、マーガレット様のことがあまりにも好きすぎて、生まれた娘に『マーガレット』と名付けてしまったんですよ」
「え? 偶然じゃなかったんですか? 宰相閣下はそれで良かったんですか?」
「ははは、我が子に親友の名前を付けるなんて、我が妻ながら執着がヤバいなって思ったけど、反対したら離婚されちゃうからさ。おかげさまで、うちの娘はマーガレットによく似た気の強い子に育ったよ! えっ、キャロライン、マーガレット、何でそんな怖い目で睨んでくるんだい?」
ちなみに、手紙でそれを知らされたお母様は、照れつつも、とても喜んでいたそうだ。
「マーガレット様とは、そんな縁があったんですね!」
「そうなんです。だから、親子で縁のあるエリザベス様と仲の良いお友達になれて、本当に嬉しいです」
私の知らない、お父様とお母様の話を聞くのはなんだかくすぐったいような、不思議な感じがした。
娘を失ったおじいさま達に、お母様の話を聞くのはなんとなく躊躇われた。
なので、いつの間にか、家では両親のことを話すことを自然に避けるようになってしまった。
「両親の昔の話を聞くことができて嬉しいです。あの、良かったら、これからも両親のことを教えてもらえませんか?」
思わずそう言うと、宰相閣下とキャロライン様は、目を潤ませながら頷いてくれた。
「まあまあ、もちろんよ、エリザベスちゃん。なんでも聞いて頂戴ね」
「ははは、子供には聞かせられないような刺激的な話が沢山あるよ!」
「あなた、なんてことを仰るの!」
「ご、ごめんよ、キャロライン。うっ、マーガレット、鳩尾を殴るのは止めてくれ!」
マーガレット様はお腹を押さえて蹲る宰相閣下を無視して、にこやかに言った。
「うふふ、それではそろそろ、『永遠の愛コンテスト』の作戦会議を始めましょうか」
そして、マーガレット様がお二人に、私とリチャードが『永遠の愛コンテスト』に参加することを話した。
お二人は、ふんふんとマーガレット様の話を一通り聞き終えると、「あらまあ」「なるほどね」と頷いていた。
「私が不甲斐ないせいで、リチャードの前でも平気で好意を示してくる人がいるんです。今後、そんな人が現れないように、私とリチャードの仲が良いことを徹底的に周知させようと思っているんですよ! これ以上舐められないようにしないと!」
私はぐっと両手を握りしめ、勢いよくそう言った。
それを受けてお二人は、少し難しい顔をした。
マーガレット様も、腕を組み、考え込むような表情になる。
「ええと、エリザベス様、その……失礼ですが…………そのような雰囲気でコンテストに望むのはお止めになった方が…………」
「えっ!? どういうことですか、マーガレット様!?」
マーガレット様が言い難そうに言った。
宰相閣下とキャロライン様も、マーガレット様の言葉に頷いている。
「マーガレットの言う通りだわ。そうね、何て言ったらいいのかしら…………エリザベスちゃんの言い方だと、その、想い合うカップルというよりも……」
「ははは、男同士の友情! って感じがするんだよね。色気が無いのは母親譲りかな? うっ、だからマーガレット、鳩尾を殴るのは止めてくれってば!」
(男同士の友情? 色気が無い? え? ど、どういうこと?)
いきなりの三人からのダメ出しに動揺し、慌ててリチャードの方を見る。
リチャードは輝きが消えた死んだ魚のような目で、「男同士の友情……ははっ」と呟いている。
「エリザベス様の言い方だと、ラブラブな感じが全くしないんですよ。なんていうかもっとこう……甘い雰囲気を出していかないと。このままだと、かえって付け入る隙を与えることになると思います。だったらコンテストには出ない方が良いのではないでしょうか」
なんてこと!
これは、コンテストに出ない方がマシということだろう。
でも、あんなにもリチャードを喜ばせておいて今更参加を取りやめだなんて、そんなことできるわけがない。
それに、このままだとアルドラの三人はリチャードの存在をますます無視して私に言い寄ってくるだろう。
そんな風に好意を示して来られても、私は受けるつもりは全くないのだが。
でも、ウォルター様の言う通り、はっきりとした返事をしないって王太子殿下と約束してしまったし。
こうなったらもう、覚悟を決めて『永遠の愛コンテスト』に出るしかないのだ。
「……わかりました。もっと色気たっぷりになり、周りの者達を納得させてみせましょう!!」
「お、お嬢様!?」
「リチャード、ごめんなさい。私、頑張るから。一緒に『永遠の愛コンテスト』に出てね」
「お嬢様!」
リチャードと二人、手を取り合いながら『永遠の愛コンテスト』への参加を決意する。
そんな私達を見つめていたマーガレット様が、パンと手を叩いた。
「うふふ、そうと決まれば、早速作戦会議に入りましょう。お母様、何か良い案はございますか?」
「そうねえ……エリザベスちゃん、リチャード君と一緒に居て胸が苦しくなるようなことはあるかしら」
「無いですね」
「お嬢様…………」
「あらあら、リチャード君、泣くのはまだ早いわよ! では、言い方を変えるわね。リチャード君にされて、ドキドキすることはある?」
(リチャードにされてドキドキすること? 突然そんなことを聞かれても、咄嗟には何も出てこないけど……って、ああ、そうだ)
「耳元で囁かれると、ドキドキします」
「あらまあ、ふふふ。では、リチャード君、エリザベスちゃんの耳元で、何か囁いてみて頂戴」
いきなりそう言われて戸惑いつつも、リチャードが私の耳に顔を寄せ囁く。
「お嬢様……」
「…………!」
そうなのだ。リチャードは本当に声が良いのだった。
(ああ、本当にもう、なんというイケボ! 耳が幸せ……!)
「あらあら、エリザベスちゃんたら、お顔が真っ赤よ」
「うふふ、なんだか凄く甘い雰囲気になりましたね、これならいけますわ!」
キャロライン様とマーガレット様が手を合わせて口々にそう言った。
それを見ていた宰相閣下が、良いことを思いついたと言うように笑顔で言う。
「ははは、エリザベス嬢の方はそれで良いとして。リチャード君の方も、もうちょっと色めいた感じを出したほうがいいんじゃないか? そうだな、リチャード君、エリザベス嬢が素っ裸でキスを強請ってくるところでも想像してみたらどうだい? ……って大丈夫かリチャード君っ!?」
「あなたっ! なんてことを!」
「お父様っ! なんて下品なことを仰るの! 許せませんわ!」
「ご、ごめんよ、キャロライン。だからマーガレット、鳩尾を殴るのは止めてくれってば!」
宰相閣下からそう言われたリチャードは、突然大量の鼻血を吹き出し、色めいた感じどころか瀕死の重傷感を醸し出してしまった。
マーガレットの両親は、先手必勝シリーズの
「絶体絶命! 隣国の王女に攫われた傾国の美男は、白馬に乗った令嬢に救出される」
に出てくる、キャロとダグラスです。




