73 永遠の愛コンテスト ①
その日の夜。
おじいさまとおばあさまに、『永遠の愛コンテスト』に出ても良いかとお伺いを立ててみたところ。
「そうか。頑張るといい」
「まあ、優勝できるといいわねえ」
てっきり、貴族令嬢として相応しくないと反対されるかと思っていただが、意外にも激励の言葉を貰った。
「あの、いいんですか? コンテストに出ても」
思わずそう問いかけると、二人は顔を見合わせて笑い出した。
「マーガレットは……お前の母親は、とってもやんちゃでね。いつも事後承諾で、とんでもないことをしでかしていたんだよ」
「そうそう、本当にお転婆で困った子だったわ」
二人とも、遠くを見るような目でため息をついた。
「……だからね、私たちはもう、ちょっとやそっとのことでは驚かないんだよ」
「……ええ、もう慣れました」
一体、どれだけやらかしたんだろう。
例の『隣国の王女に攫われた傾国の美男が、白馬に乗った令嬢に救出された話』がとんでもなかっただけに、お母様のしでかしたことを聞くのが怖い。
「エリザベス、お前が何をしようが私達は反対しないよ。ただし、お前が辛い思いをするようなことだけは止めておくれ。私達には、もうお前しかいないんだから」
おじいさまが、私の目を見ながらゆっくりと諭すように言った。
おばあさまも目に涙を浮かべながら頷いている。
「わかりました。絶対に、危ないことはしません!」
私は思わず二人の手を握り、はっきりと宣言した。
※※※
次の日。
朝の待ち伏せを避けるべく、いつもより早い時間に登校した。
その甲斐あって、誰にも足止めされることなく教室までたどり着けた。
守り隊の皆が全員教室に揃ったのを確認し、皆に集まってもらう。
「あの、皆様、ちょっとお伝えしておきたいことがあるのですが……」
いきなりかしこまったように話す私を見て、守り隊のメンバーはお互いに顔を見合わせた。
ハイジ様は少しだけ不安そう。
「実はですね、私とリチャードは、来週、噴水広場で行われる『永遠の愛コンテスト』に出ることにいたしましたの」
皆、一様に驚いた顔になる。
そうよね、貴族令嬢がそんな大会に出るなんて、呆れちゃうよね。
――と、思っていたのだが。
「それって、国王陛下と王妃様が、学院在学中に参加したっていう、あの……?」
アメリア様がそう言うと、ビアンカ様が興奮したように続けた。
「私も聞いたことがありますわ! お二人が優勝して、その後すぐに結婚されたことから『優勝したカップルは必ずゴールインする』というジンクスが生まれたらしいですわね」
「その時の優勝賞品が『高級リゾートホテル宿泊券』だったのですよね。お二人は絶景露天風呂付きスイートルームで、至福の時間を過ごしたそうですわ。それから夜景を一望できるレストランでのディナーも……」
シャーロット様がうっとりとした様子で言った。
「うふふ、それからですわね、結婚後すぐに旅行に行って忘れられない思い出を作る『新婚旅行』という言葉が流行ったのは」
マーガレット様もにこやかに続けた。
驚いたことに、それまでは『新婚旅行』という概念がなかったらしい。
国王陛下と王妃様が『新婚旅行』を流行らせたことによって、フォートランの旅行業界は大変盛り上がり、他国からも旅行者が増えたのだとか。
「叔父様と叔母様が出た大会……見てみたいな……」
守り隊の皆の様子を見て、ハイジ様も興味を示したらしい。
(いやいやいやいや、見に来なくていいから! っていうか来ないで、恥ずかしいから!)
心の中で叫んだ。なのに。
「「「「「応援しに行きます!」」」」」
皆が声を揃えて言った。
「えっ!? いや、そういうつもりで言ったのではなくて!」
何の事前情報も無いまま、ステージにいる私とリチャードを見て驚かせるのはまずいだろうと思って言ったのに。
下手したら「あらいやだ、こんな破廉恥な大会に出るなんて、貴族令嬢としていかがなものかしら!」「本当ですわ! 今後のお付き合いも考えなくてはいけませんね!」的なことに発展するかと思ったのだけれど。
国王陛下と王妃様が過去に参加されていただなんて!
それなら誰も文句を言えないだろう。
「私と従者であるリチャードの仲がすこぶる円満である、と言うことを見せつけるだけですから! ラブラブだとかそんなんじゃないんです! ええ、本当に、そんなんじゃないんです! 別に優勝とか狙ってませんので! 応援とかは遠慮します、ね、リチャード」
「………………はい」
「え、リチャード、どうしてそんな悲しそうな顔しているの!?」
リチャードが死んだ魚のような暗い目をしてため息を付いた。
チューリップトリオの皆様とマーガレット様が、そんなリチャードを気の毒そうに見ている。
(えっ、ハイジ様まで? 私、何か間違ったことを言ったのかな?)
「……ええと、それはさておき、エリザベス様は、『永遠の愛コンテスト』をご覧になったことは?」
マーガレット様が、気まずい空気を吹き飛ばすように話を変えた。
「一度も無いです。話に聞いたことがある程度です」
私がおじいさまたちにくっついて、秋から冬にかけての社交シーズンに王都のタウンハウスに来るようになったのはここ数年のこと。
しかも、秋から冬にかけてしか王都にいたことがなく、春先のこの時期に滞在するのは初めてのことだった。
なので、毎年この季節に行われる『永遠の愛コンテスト』は見たことがない。
だが、その内容については、メイドのマリーやケイト達から聞いたことがある。
「でしたら、どのようなことが行われるのか、知っておいた方がよいのではないですか? リチャード様はどうですか? どんなことが行われるのか、ご存じですか?」
マーガレット様にそう聞かれて、リチャードは顔を赤くしながら鼻を両手で抑えた。
「うふふ、リチャード様はすでにご存じのようですね…………でも、お二人揃って理解しておいた方が良いのではなくて? それに、ある程度作戦を立てておいたほうが良いと思うの」
確かに、マーガレット様の言う通りだ。
リチャードにだけ任せておいたのでは申し訳ない。
私が大きく頷くと、マーガレット様はにこやかに微笑みながら言った。
「それでは、放課後、私の家で作戦会議をしましょう! 何しろ我が家には『永遠の愛コンテスト』に詳しい者がおりますので」




