66 レッツ、パーティー! ①
「よし!!」
重曹でアク抜きされた大量のターケノコを前に、私は気合を入れて両手を握りしめた。
現在の私の服装はというと。
ケイトが用意してくれた薄い水色の可愛らしいエプロンを身に着け、同じ生地でできた三角巾を頭に巻いている。
髪の毛はマリーが結ってくれたツインテール。
いつもと違う髪型なので、なんだか気恥ずかしい。
料理中に髪の毛が入らないように、という理由で纏められているのだが、だったら一つに結うのでも良いのでは?
「なんて可愛らしいんでしょう! これなら馬鹿な男どもがメロメロになること間違いなしですね!」
いや別に、今から料理するだけで、メロメロにするつもりは無いのだが。
それにしても、相変わらずケイトは男性に厳しいな。
昨日、リチャードのところから帰って来た後。
私は、復活した料理長に心から謝罪した。
だが、料理長は『これしきのことで気を失うなど、料理人として失格です。どんな食材を目にしても、動じない心が無ければ一流とは言えません。まことにお恥ずかしい限りです』と言って、逆に謝って来た。
しかも! お詫びとして、私が食べたいターケノコ料理を何でも作ってくれると言ってくれたのだ!
「本当!? 嬉しい! 料理長ありがとう!」
そう言いつつ飛びつくと、料理長は目尻を下げながらうんうんと頷いた。
料理長はいつも優しい、第二の祖父のような存在だ。
せっかくなので、私も一緒にターケノコを料理することにした。
料理長は、『貴族のお嬢様が料理なんて!』と難色を示していたが、私が悲しそうな顔で『料理長と一緒にお料理したいのにな……』と言った途端、ニコニコ顔になって許してくれた。
(何を作ろうかな。こんなにたくさんあるんだから、色んな料理を作れるわよね。米も醤油も無いのが悲しいけど……無いものは無いんだから仕方が無い。あるものでなんとかしよう!)
本音を言うと、一番食べたいのはタケノコごはんなのだが、米が無いので無理だった。
なので、色々と考えた結果、今日のターケノコメニューは次の通りとなった。
・ターケノコとベーコン、アスパラガスのパスタ
・フライド・ターケノコ
・ターケノコのサラダ
この3品に加えて、料理人達にあと何品か作ってもらうことにする。
せっかくなので、今夜はリチャードも招いて、ターケノコパーティーをすることにしたのだ。
このパーティーには、驚かせてしまったお詫びとして、フォークナー伯爵家の使用人達にも参加してもらうつもりだ。
私と料理長のターケノコ料理を、是非とも味わって頂きたい。
おじいさまとおばあさまは、他家の夜会に招待されているため、残念ながらパーティーには不参加。
とても残念そうにしていたが、料理はちゃんと取り分けておくから安心して欲しい。
それにしても、ターケノコは本当に美味しい。
作った人の特権として、作りたてをちょっとずつ味見しているのだが、これがもう美味しいのなんの!
料理長が作っているのはターケノコのパスタ。
これは、ペペロンチーノという感じの味付けだ。
フライパンにオリーブオイル、鷹の爪、ニンニクを入れて、薄くスライスしたターケノコ、ベーコン、アスパラガスを炒め、塩胡椒で味付けしたあとに茹でたパスタを入れて混ぜる。
ニンニクの香りが食欲を誘い、ついつい味見と言うには多すぎる量を食べてしまった。
フライドターケノコは、要するにターケノコの天ぷらだ。
これは料理人のパーシーが揚げてくれている。
スライスしたターケノコに小麦粉をまぶして揚げたもので、塩をさっと振って熱々を食べる。
サクサクカリッとした外側と、シャリっとした嚙み心地のターケノコは、もう、やめられない止まらない。今の私には飲めないけど、絶対にビールが合うはず。
そして、サラダ。
サラダは、私が一人で作った。
スライスしたターケノコ、茹でた菜の花、トマト、生ハムをお皿に盛り付け、特製のドレッシングをかける。
このドレッシングは、オリーブオイル、レモン汁、塩、胡椒、バジルを混ぜたもので、トマトや生ハムに良く合うのだ。
試しに、ターケノコのサラダにもかけてみたのだが、ものすごく美味しくてびっくりした。
それ以外にも、料理人達がパーティーに出す料理を何品か用意してくれている。
もちろん、デザートも。しかも2種類。
一つは、小さめの細長いロールケーキの上に苺が乗った、ろうそくみたいなロールケーキ。
ロールケーキの中には生クリームと苺がたっぷり入っている。
もう一つは、苺のムース。
ふんわりとした舌触りの苺のムースをグラスに入れて、上に甘酸っぱい苺のソースをかけたものだ。
(ターケノコ、菜の花、苺……ああ、春だなあ)
そんなことを思いながら味見という名のつまみ食いを続けていると、マリーが血相を変えて厨房に駆け込んできた。
「た、大変です、お嬢様!」
「マリー? どうしたの?」
マリーは真っ青だ。これは何かとんでもない非常事態が起こったに違いない。
ものすごく嫌な予感がする。
「王太子殿下がいらっしゃいました!」
「…………は?」
王太子殿下が? 何故我が家に? もう夕方なのに!?
あまりの驚きに、手に持っていたターケノコを落としそうになった。
「今は応接室でお待ちです。マーカスさんが対応されてますが、本日は伯爵も伯爵夫人もいらっしゃらないので……」
「私が挨拶するしかないわけね」
「はい……お嬢様、大丈夫ですか?」
マリーが気遣うような表情で見つめてくる。
マリーはこんな時でも優しい。
「何の用かわからないけど、とにかく挨拶したらすぐに用件を聞いて、速攻で帰ってもらわないとね」
「え、王太子殿下を追い返すんですか!?」
「嫌だわマリー。追い返すだなんて。お帰り頂くのよ。だって……料理が冷めちゃうと嫌だもの!」
そう。料理は出来立てを食べるのが一番。
使用人達だってお腹が空いているはず。
とにかく、全力で王太子殿下を追い払……じゃなくて、お帰り頂かないと!!




