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57 春と言えば

初回の授業の後で、マーガレット様に聞いた話なのだが。


レイン先生は、元は公爵家の生まれなのだそうだ。

跡継ぎがいなかった母方のレイン子爵家に養子に入ったらしい。

レイン先生は公爵家の六男。ちなみに、他の兄弟は母親が違うらしい。


自分でも絵を描いていると言っていたが、なるほど彼の白いローブにはところどころ絵具が付いていた。


さて。今日は三回目の授業だが。

初日と比べると、授業の内容もかなり難しくなってきてはいるのだが、生徒は大分レイン先生に慣れてきたせいか、問題なく和気藹々とした雰囲気で進んでいる。


「今日は、サロンで自分の意見を言う訓練をするわね」


朗らかに言う先生の今日の服装は、お馴染みの白いローブの下に、焦げ茶色のワンピースを着ている。

モックネックの首元には、綺麗なレースが縫い付けてある。

装飾はそれだけだが、先生が着ると上品な華やかさが際立つ。


「サロンで絵を見せられた時、特に何も言うことが無い、心が全く動かない、ということもあるでしょう。そういう時は、とりあえず『季節に例える』ことをお薦めするわ。そうね、例えば……」


レイン先生は教室を見回してから、アメリア様に目を留めた。


「そこの赤いリボンで髪をポニーテールにしているあなた。あなたは、『秋』かしら。もっと詳しく言うと、『晩秋から初冬にかけての季節』ね。燃えるような赤い髪が紅葉を連想させ、緑の瞳はこれから来る厳しい冬を乗り越えようとする生命力にあふれた常緑樹の力強さを思い起こさせる。あなたはきっと、頑張り屋で自分の気持ちに素直な女の子なんじゃない?」


そう言うと、先生は笑いながらウインクした。

アメリア様は真っ赤になって下を向いた。


「お隣のあなたは……『冬』ね。穢れの無い真っ白な雪原を、白い息を吐きながら歩いていく物語の主人公のよう。行く先には雪の女王の氷のお城があり、そこには愛しい男の子が囚われていて、あなたは彼をどうにか助けようとしている……うふふ、あなたの優しい茶色の瞳を見ていると、色々と想像が膨らんでしまうわ」


そう言って、またもやウインク。

もちろん、ビアンカ様も真っ赤になり、困ったように下がり眉をますます下げた。


「その隣のあなたは……ああ、貴方は間違いなく『春』ね。植物が芽吹き、花が咲き始め、動物たちが活発に動き出す季節! あなたの緑交じりの青い瞳は、晴れた空に輝く新緑の木漏れ日のよう。うふふ、あなたは活発で好奇心旺盛な女の子なんじゃないかしら?」


そして、最早定番のウインク。

シャーロット様は、普段以上に目をキラキラと輝かせてた。


さすが先生。観察力に優れた画家なだけある。

チューリップトリオの皆の性格を一瞬で見抜くとは!


「こんな風に、見て、感じたイメージを季節に例えていくの。やり方はわかったかしら?……では、あなた、やってみて頂戴。私を季節に例えてみて」


そういうと、先生は笑顔を向けながら私の方を指差した。


(え? 何? いきなり。私がやるの?)


突然のご指名に慌ててしまって、何と言ったらよいか咄嗟に言葉が出ない。

仕方が無いので、立ち上がり、先生の方を良く見てみることにした。


艶のあるストロベリーブロンド。毛先は華やかなピンク。これは毛先だけ何かで染めているのだろうか。

おかげで男性にしてはきめ細やかで白い肌が、健康的に見える。

ペリドッドのような明るい黄緑の瞳も、表情を明るく見せるのに一役買っている。

そう、彼を季節に例えるなら――


「先生は、『春』だと思います」


「あら? どうしてそう思ったの?」


先生は面白そうに眉を上げた。


「春に咲く桜の花のような……そうですね、咲き乱れる満開の桜の木の下で、人々が楽しそうに語らっている……レイン先生の授業から、そんな穏やかで明るい雰囲気が感じられました」


私は、そう言い切ると、ちょっと首を傾けながらウインクしてみた。

もちろん、先生の真似だ。

言った内容に自信が無いので、とりあえず仕草だけは真似ておこうと思ったから。


「うふふ、嬉しいわ。私は春……桜なのね。嬉しいわ。あら、そう言えばあなたは今年の春の女神(フローラ)に選ばれた子よね? お名前を教えて頂けるかしら? それから私にも春の女神の恵みを頂ける?」


「はい、私はエリザベス・フォークナーと申します。ルシアン・ファン・レイン先生」


「ありがとう、春の女神(フローラ)。ああ、えっとね、ウインクは毎回しなくても大丈夫よ」


そうなんだ。先生の真似していちいちウインクしてみたが、それは特に必要ないらしい。

面倒だから、やらないで済むと知ってホッとした。


(あれ? 何だろう。クラスの皆が真っ赤になって胸を押さえてる。……机に突っ伏してしる人もちらほら……どうしたのかな? ってリチャードが息をしていない?)


「リチャード! どうしたの? 呼吸して!」


「お嬢様、貴女という人は……」


一体何がまずかったのかわからないが、とりあえず先生からは合格を貰えたので良しとする。


実のところ、先生を見て桜を連想したのは、花見団子――ピンク・白・緑の三色の団子を串にさした和菓子――三色団子だっけ? あれに似てるなと思ったからなのだ。


(あー、桜の木の下にシート広げて、花見団子とか食べながらまったりお花見したいな。今度、皆を誘って花見に行こうかな)


そう思ったからなのだが、花より団子的なことを言うと食い意地が張っているようで貴族令嬢としてはナシだろうし、食べ物に例えられるのは先生としても不本意だろう。

こういう場合は正直に言わないでおく方が良いのだ。

そう、私は経験を活かせる賢い人間なのだ。

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