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41 国語教師セオドア・ブルック

なんだかんだでテストが終わった。


あとから落ち着いて見てみると、守り隊の皆は、結構良い成績だった。

3位がマーガレット様で、4位がビアンカ様。

そして、なんとキャサリンが5位だった!

キャサリンは脳筋タイプだと思ってたから、すごく意外だ。


「キャサリンすごいわ!」

「何言ってるの、お姉さまなんて2位じゃないの」

「いや、私はもう一回教わった内容だから……」


そう。

前世では社会人だったんだもの。

なのに、リチャードに負けた私って一体……。


ハイジ様は8位。シャーロット様は10位で、アメリア様が15位。

3人とも、「もっと頑張らねば!」と言っているが、約200人いる中でこの順位なのだから、十分優秀と言えるだろう。


ちなみに、私が間違えた問題は社会科の1問目。

「アルドラ王国の特産物は?」という三択問題で、選択肢は、次の3つ。


1 りんご 2 梨 3 レモン


これは超サービス問題で、この世界の常識とも言えるようなことだったらしい。

前世で言えば、青森→りんご、愛媛→みかんのような感じ。

でも、私は本当に知らなかったのだ。


私が選んだ答えは2番の梨。


アルドラ王国 → 灼熱の砂漠の国 → 砂漠といえば鳥取砂丘 → 鳥取県といえば二十世紀梨


という風に脳内連想ゲームをして、梨という答えを導き出したのだ。

でも、答えはなんと3番のレモン。


後から知って衝撃だったのだが……なんと、アルドラ王国は、全然灼熱の砂漠の国なんかじゃなかった!


砂漠に咲く薔薇(デザートローズ)〜愛と忠誠の狭間で〜』のアルドラ王国と、現実のアルドラ王国は、全然様子が違う国だったのだ。

現実のアルドラ王国は、レモンとオリーブが特産物で、夏は暑く乾燥するが、冬は温暖な土地なのだそうだ。言うなれば、前世で言うところのイタリアのようなところだった!

なんだかものすごく騙されたような気分だ。


でも、小説の内容と現実が一致しないのは、私やキャサリン、マリーやエリックですでに証明済みだ。

願わくば、このままリチャードとも、小説からはほど遠い、円満な関係でいたい。




※※※




そして数日後。

クラス委員を決める話し合いが行われたのだが。


「エリザベス様とリチャード様がいいと思います!」


マーガレット様がニコニコと手を挙げて言った。


(ちょっと待って! そんな面倒なこと、やりたくないんだけど!)


でも、クラスの皆が一斉に拍手したため、あっという間に決まってしまった。

リチャードの方を見ると、「頑張りましょうね!」となかなかにやる気のある言葉が返ってきた。

まずい。いまさら嫌だと言えない雰囲気に追い込まれてしまった。


「はい、じゃあ、ホームルーム終わり。クラス委員はこの後、一緒に付いて来て。ちょっと頼みたい仕事があるから」


担任のセオドア・ブルック先生は、初日こそ生徒を黙らせる地雷物件だったが、あれから数日たった今では生徒からの評価がかなり変わってきている。

意外にも、良い方にだ。


「忙しい」「担任なんてやってる暇はない」「くじ引きで負けて仕方なくやらされている」などと言っていたくせに、実際にはものすごく面倒見が良いのだ。


ブルック先生は国語の教師で、主に初級学院で教えている。

この学院の教師は、専門分野の研究を続けている学者が多い。

本業が教員で趣味で研究を続けている人や、国からの要請で研究所から数年間だけ学院に出向している人など、様々な経歴の教師がいる。

ブルック先生は後者で、王都にあるアカデミーと呼ばれる研究機関から出向してきているのだそうだ。

「フォートラン建国記」という、古典文学を研究していて、古語と呼ばれる言語の第一人者らしい。


先生の後について、国語科の準備室に行く。

狭い部屋の中に、インクの匂いが漂っている。


「今度授業で扱う短編を書いた小説家が、若い頃に書いた詩だ。これを読めばあの短編の理解が深まる」


先生はそう言いながら、積まれた紙の束を指差した。


「クラスの人数分だけ持っていって皆に配って」


前世と違って、今はコピー機なんて無いのだ。

皆に配るプリントを作る場合は、こうやって1枚ずつ手作業で印刷していくしかない。

たしか、ガリ版印刷といったはず。恐ろしく手間がかかるものだと、前世の祖父が言っていた。


「凄い数ですわね。これを作るのは大変そう……」


「必要なものだからね。これがあるのと無いのとでは、理解に差が出る」


先生は、どこか遠いところをみるような目で言う。


「僕の母校リドフォールでは、いつも教師がこうやってプリントを用意してくれていた。授業も内容が濃くて面白かった」


「リドフォール? 先生はリドフォールの卒業生なんですか?」


「ああ」


リチャードが、数えたプリントをトントンと机の上で揃えながら言った。


「俺の知り合いのリドフォールの卒業生も、授業が面白かったって言ってました。友人達もいい意味で刺激し合って、互いに高め合えるような者が多かったって。テストの結果で賭けをしたりしてたそうです」


「テストで賭け……もしかして、その知り合いって、エリック・ボールド?」


「はい、そうです。え、あれ? 先生はエリック様のことをご存じなんですね」


「ああ、その賭けをしていた友達っていうのは僕だよ」


「「えっ」」


私とリチャードが同時に叫んだ。

まさか、エリックの友達が私の担任だなんて。世間は本当に狭いな!


「僕は一度も勝てなかった。エリックは天才だ。うちの学年の首席は彼だった。卒業式で金時計をもらっていたよ」


「「えっ」」


(エリックって、そんなに頭が良かったの!? リドフォール卒っていうだけでも、すごいのに、学年首席!?)


「負けた方が勝った方の言うことを聞くんですよね? エリック様、なんか凄いこと要求してきそう」


マリーの青褪めた顔を思い出しながら、思わずそう言ってしまった。


「いや。コーヒーを1杯おごるとか、掃除当番を代わるとか、そのくらいのことしか言わなかったけどね」


(そうなんだ、意外。でも、ずーっと負け続けてたら、すごい悔しいだろうな)


「ブルック先生は、もし勝ったら何を要求するつもりだったんですか?」


それだけ負け続けていたなら、きっと勝ったら嬉しくてとんでもないことを言い出すんじゃないだろうか。興味があったので、聞いてみた。


「僕が彼に望むこと……僕は……彼に、一緒に大学に行こうと誘っていた。大学に行って、一緒にアカデミーに入ろうと。彼は天才だ。彼ならば、どんな難解な定理の証明も、未解読言語の解読も、きっと可能に違いないんだ」


先生は、ぐっと両手を握りしめた。そして、悔しそうな顔で言った。


「彼ならば、きっとできるのに。なのに、彼はそれを望まない。彼が望むものはたった一つ。『初恋の女の子』だけなんだ。それ以外ものは、全て取るに足りないことらしい。……愚かなことだね」


その悔しそうな、それでいて寂しそうな表情は、彼をまるで子供のように見せた。

彼らがかつて何を思い、何を話したのかはわからない。

けれど、二人の学生生活はきっと、かけがえのない時間だったのだろう。


「……喋りすぎたな。そうだ、リチャード・ベルク。君は全科目満点だったね。難しい問題も結構あったのに、よくやった。これからも気を抜かずに頑張り給え」


「はい、頑張ります」


照れ隠しのように、急につんとした顔で教師らしいことを言い出した彼の様子に、私はついつい微笑んでしまった。

すると、彼は、私の方に向きなおり、少し呆れたように言った。


「エリザベス・フォークナー。君は、他の難問は解けているのに、どうしてあの幼い子供でもわかる簡単な問題が解けなかったの? あの問題を間違えたのは、学年で君一人だけだよ? なんでアルドラ王国の特産物が梨なの?」


「……えっ」


(嘘! 間違えたの私だけ?)


ふと見ると、リチャードの肩が震えている。


「リチャード、笑いたければ笑いなさいよ」


「す、すみません」


ブルック先生許すまじ。何故、今、ここでそんなことを言うのだ!

私は、リチャードと先生の方を睨んだ。

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