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26 仕切り直しのパンケーキ

まさか将来の義弟(エリオット)がアルドラ国の王弟とは。

確かに、それなら私は全くの無関係とは言えない。


「でも、協力すると言っても、お役に立てそうもないのですが……」


アメリア様のように公女の護衛ができるわけでも、ビアンカ様のように毒見の役目ができるわけでもないし。

シャーロット様のように、怪しい人がアルドラ人かどうか見極めることもできない。

協力するのはやぶさかはないが、本当に何もできないんだけど。


「エリザベス様は、アーデルハイド様とお友達になって頂きたいのです」

「え? それは別にかまいませんが……それだけでよろしいの?」


元々、友達100人できるかな、くらいの意気込みでいるし、公女とだって機会があれば友人になるつもりなのだが。


「そうですね、あとは……できるだけ、目立って頂きたいです」

「は?」

「まあ、エリザベス様は、特に何もしなくても目立ってますけどね。ふふっ」


その言葉に、チューリップトリオが頷く。

え? どういうこと? 私、悪目立ちするようなことした?


「デビュタントのことは、もう学院でも噂になっているようですよ」

「シャーロット様? デビュタントのことって?」

「エリザベス様とキャサリン様の、あの素敵なドレス姿のことですわ! ああ、あれは本当に素敵でした……舞踏会に参加した男子学生の間では、『月の女神』と『夜の女王』と呼ばれているとのこと。しかも、『月の女神をお守りする会』と『夜の女王を称える会』というのがあるそうですよ!」

「なんだって!?」


シャーロット様が、目をキラキラと輝かせながら言うと、リチャードが眉を顰めた。

いやでも、本当にどういうこと?

そんなことになるなら、もう少し目立たないようにすれば良かった…………あれ?


「マーガレット様、もしかして、私とキャサリンに先頭を歩くようにと言ったのは……」

「うふふ、気づいてしまいましたか。そうです。エリザベス様に、目立って頂くためですわ」

「どうしてそんなことを?」

「エリザベス様に皆の注目が集まれば、一緒にいるアーデルハイド様にも、沢山の人の目が向きます。衆人環視の中では、アーデルハイド様を攫おうとする者達もやりにくいでしょうから」


なるほど。常に多くの目撃者がいる状態にするのが狙いというわけか。

だとしたら、マーガレット様は本当に凄い。

デビュタントの頃にはもう、作戦開始していたのだから。


「アーデルハイド様は、その……とても素朴な……何と言うか、周囲に溶け込みやすい印象の方なので……油断すると誰も見てない状態になりそうなのです」


マーガレット様が言葉を選びながら言った。

いつもはっきりと物を言うマーガレット様にしては珍しいことだ。

公女様って、一体どんな方なんだろう。


「マーガレット様。お嬢様に目立つようにと仰いますが。そんなことをして、お嬢様が危険な目に遭ったらどうしてくれるんですか?」


それまで黙って聞いていたリチャードが、マーガレット様に食ってかかる。

リチャードは、私が協力することにまだ納得していないようだ。


「お嬢様、俺は絶対に反対ですから」

「リチャード……」


(困ったな。どうしたら、リチャードに納得してもらえるんだろう……)


「リチャード様。もう遅いのです。エリザベス様はもう十分目立っていらっしゃるのです。それに、」


マーガレット様が、リチャードにはっきりと言い放つ。


「エリザベス様だって、アルドラの神託の『月の女神の祝福を受けた銀髪の、齢13の少女』にすぐになるのですよ? アルドラ王の気が変わって、アーデルハイド様ではなく、エリザベス様が狙われるようになることも、全く無いとは言えないでしょう?」


「なんだと……?」


リチャードが眉を潜めながら、唸るような低い声で言う。

確かに、私も銀髪だ。ロリコン王に狙われる可能性がゼロでは無い。


(何それ、怖い怖い怖い!)


「リチャード様。こうなったらもう、覚悟を決めて下さいませ。私達と一緒に行動することは、アーデルハイド様を守るだけでなく、エリザベス様自身をも守ることになるのですよ」


確かにそうだ。

バラバラでいるよりも、皆で固まっていた方が、狙われる確率は下がる。


リチャードは、それ以上反論できずに、悔しそうな顔でマーガレット様を睨んだ。


マーガレット様は、そんなリチャードから目を逸らし、私とチューリップトリオに向かって言った。


「それでは皆様。これから1年間、どうかよろしくお願いいたします」





※※※





お茶会の後。

私とリチャードは一緒の馬車でフォークナー邸に帰ることになった。

馬車の中で、リチャードは終始無言だった。


(い、いたたまれない。ううう、気まずすぎて胃に穴が空きそう)


ようやく家に着くと、リチャードはサッと馬車を降り、無言で手を差し出してきた。

その手を取りつつ馬車を降りる。


「ありがとう、リチャード」

「……」


エスコートのお礼を言っても、リチャードは黙ったままだ。


「リチャード、ごめんなさい」

「……」

「リチャードは心配してくれてるのに。言うことを聞かなくてごめんなさい。でも、私、マーガレット様の気持ちを考えたら、どうしても協力してあげたくて……」

「……」

「それに、私も無関係ではないし、銀髪だし……」

「……」

「ごめんなさい、リチャード。リチャードに無視されるの、凄く辛い。お願いだから、何か返事してよ……」


何を言っても黙って俯いているリチャードに、耐えられなくなってそう言った。

自分でも驚くほど、泣きそうな声だった。


リチャードはそんな私に驚いたように顔を上げた。


「申し訳ありません。お嬢様を責めているわけではないんです。俺は、今、自分自身に腹が立って仕方がないんです」

「リチャード?」

「全て、マーガレット様の思惑通りに事が運んでいる。……こんな、マーガレット様にいいように振り回されるなんて。俺は、従者失格だ」


リチャードの目が怖い。

今までに見たことが無いような悔しそうな表情だ。


「もうこれ以上、あの女の好きにはさせない」


(えええええ! ちょっとリチャード、マーガレット様のことをあの女呼ばわり!? でも何その声! すっごく素敵! ってだめだめ、今は興奮してる場合じゃない!)


「リチャード! とにかく落ち着いて! 私も落ち着くから! そうだ、マリーにお茶を淹れて貰いましょう! お茶会でお菓子食べ損なったから、甘いものも用意してもらって、二人で改めてお茶会しましょう!」


そして、マリーに蜂蜜たっぷりの紅茶を淹れてもらい、料理長にふわふわのスフレパンケーキを焼いてもらった。

スライスしたイチゴと、緩めに泡立てた生クリームを添えた、私がここ最近で一番気に入っているおやつだ。

上から砕いたピスタチオが振りかけてあって、彩りがとても美しい。


それにしても。

友達を作ろうと、ごくごく軽い気持ちで参加したお茶会だったのに。

まさか我が国の王家の存亡に関わる問題に巻き込まれてしまうとは。


でもまあ、起きてしまったことは仕方がない。

むしろ、何か事が起きる前に事情を知らされて良かったと思うことにしよう。

いきなり私が攫われかけたら、リチャードがパニックになる。

きっと、私のために体を張ってでも守ろうとするだろう。

その結果、怪我を負うこともあるかもしれない。


「それはだめ! リチャードを守らないと!」

「……っ!」


ついつい、叫んでしまった。

リチャードが驚いて紅茶を吹き出している。


「お嬢様、突然何を言い出すんですか!?」

「ご、ごめんなさい。ちょっと怖い想像をしちゃって……」


リチャードは、ふっと微笑み、言った。


「お嬢様、俺は、絶対にあなたを守ります」


(ああリチャード! なんて良い声なの……!)


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