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25 無関係ではなかったようです

「だからどうか、私に力をお貸しください」


そう言って、マーガレット様は頭を下げた。


「ええと、つまり、ロルバーンから公女が留学してくる。公女はロリコンの王様に求婚されていて、断ってもあきらめない王様に攫われそう。ロリコンの王様の妻は、フォートランの王妃になれなかったことを恨んでいて、父親と一緒にフォートラン王家に復讐しようとしている。あっ、ということは、ロリコンの王様はただのロリコンではなくて、フォートランを乗っ取ろうとしているのね? で、マーガレット様の婚約者を人質に取られているから、一年後に無事に帰ってきてもらうように、公女を守らなければならない、ということよね?」

「お嬢様、言い方! 淑女がロリコンなどと何回も言わないで下さい!」

「4回言ったわね」

「マーガレット様、数えてたんですか!?」


まずい、リチャードが怒りだした。


「私からは以上です。他に何か質問がおありの方は、いらっしゃいますか?」

「はい!」

「エリザベス様、どうぞ?」

「皆さん、12歳なんですよね?」

「は?」

「お嬢様、突然何を言い出すんですか……」


(だって! だっておかしくない? 12歳の子供が! こんな小難しい政治的な話をするなんて! 絶対におかしい、もしかして皆も、前世の記憶があったりするんじゃないの?)


前世の日本の12歳は、絶対にこんな話題で盛り上がったりしなかった。

そう思って、思わず年齢を尋ねたのだが。

どうやら皆、正真正銘12歳で、前世の記憶も無いようだった。


「エリザベス様はお疲れのご様子。突然、こんな話をして戸惑われたのでしょうね。……皆様、改めてお茶会を致しましょうか」


マーガレット様はそう言うと、手元のベルを鳴らし、扉の外に控えていた執事を呼び入れた。


「お茶が冷めてしまったわ。淹れ直して頂戴」

「かしこまりました」


そして、執事はいったん下がり、お茶のセットを乗せたワゴンを押しながらメイドが入れ替わりに部屋に入って来た。

お茶の用意をするメイドに向かって、マーガレット様が声を掛ける。


「今度の茶葉は、どちらのものかしら?」

「はい、ルロワの春詰みでございます。()()()のような香りが特徴のファーストフラッシュをご用意しました」

「フルーティーな香りのお茶なのね」


全員に新しいお茶がいきわたると、マーガレット様がにこやかに言った。


「さあ、皆様、どうぞ召し上がって」


皆、一斉にカップを持ち上げた。

ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。マスカットのような甘い香り。

口に含むと、渋みが少なく、さっぱりと飲みやすいお茶だった。


「…………マーガレット様、これは一体、どういうことですの?」


ビアンカ様が、カップを皿に置きながら言った。

その冷ややかな声には、困惑とかすかに怒りが混じっているようだった。


「これは……トゥランの根の毒ですよね?……」


(えっ? 毒!? どうしよう! 飲んじゃった!!)


「大丈夫です。ビアンカ様以外の方のカップには入れておりません」


マーガレット様の言葉を聞いて、皆、ホッとした表情になった。

ただ一人、ビアンカ様を除いて。


「どうして私にだけ毒を?」

「ビアンカ様なら、お気づきになり、口にされることはないでしょうから」

「何故、そのようなことをされたのかと聞いているのです」


だがマーガレット様は、ビアンカ様の問いかけに応えることなく、シャーロット様の方に向かって言った。


「シャーロット様、こちらのメイドですが。出身はどこか、お判りになりますか?」

「…………おそらく、アルドラ王国ではないかと」

「何故、そう思われたのですか?」

「我が国ではマスカットと呼ばれる葡萄を、アルドラでは()()()と呼びます。先程彼女は、()()()と言っておりましたし、言葉に微かにアルドラの訛りも感じられました」


シャーロット様がそう答えると、アメリア様がさっと席を立ち、メイドを背後から拘束し、身動きできないようにした。


「…………皆様、お見事ですわ」


マーガレット様が、嬉しそうに言う。

心の底から喜んでいるような、高揚したような表情は、この場に全くそぐわない。


「代々宮廷医を輩出し、医学の権威ある家として名高いトール子爵家の令嬢ビアンカ様は、薬学の知識が豊富で、小さい頃から毒に体を慣らす訓練を受けていると聞きました」


そう言われたビアンカ様は、下がり眉をさらに下げ、ますます困惑したような表情になった。


「また、敏腕外交官として国の外交を一手に引き受けておられる、外務大臣の懐刀ベンティス子爵家のシャーロット様は、各国の文化や語学に造詣が深いと聞いております」


シャーロット様が、驚いたように目を見張る。


「王都の近衛騎士団長の娘で、代々優れた騎士を輩出しているグラント伯爵家のアメリア様は、年少の頃から剣術の訓練を積み、並外れた才能を持つと言われていらっしゃる」


アメリア様が、メイドの背後から訝し気な表情でマーガレット様を見つめる。


「素晴らしいですわ! 皆様がいれば、きっと、きっとウォルター様を無事にこの国に呼び戻すことが叶います!」


「マーガレット様!」


頬を染め、高揚したように叫ぶマーガレット様に向かって、思わず叫んでしまった。

だって。これはいけない。こんなのは、認めるわけにいかない。


「ウォルター様を助けたいと言うお気持ちは十分に伝わりました」

「でしたら、私に手をお貸し頂けるのですね?」

「いいえ、無理です」

「……何故?」

「マーガレット様は、私達を騙しました。お茶会だと言って私達を呼び出し、ビアンカ様に毒の入ったお茶を出し、シャーロット様とアメリア様を試すようなことをなさいました。そんな方を信用することはできません。少なくとも、私は、そんな簡単に人を騙すような方に、手を貸すことはできません」


私がはっきりと告げると、マーガレット様は、虚を突かれたように、無表情になった。


「これは、王命ですのよ」

「王命だろうがなんだろうが、お断りします。エリザベス様を、お嬢様を危険な目に遭わせるわけにはいきませんから」


リチャードがきっぱりと言う。その声には怒りが込められていた。


「……そんな」


マーガレット様の目に、みるみる涙が溜まっていく。

そして、床に膝を着き、頭を下げつつ叫んだ。


「どうか、どうかお願いです! 皆様を騙すようなことをして申し訳ありませんでした。今後は、絶対に、皆様を騙すような真似はいたしません! だから、どうか、どうか、私に力を貸して下さい! でないと、ウォルター様が……お願いです! お願いですから、手を貸して下さい!」


いつもの、ニコニコと笑顔のマーガレット様からは想像できないような姿だった。

なりふり構わず懇願するその姿に、胸が張り裂けそうになる。

思わずリチャードの方を見ると、彼は黙って首を振った。


(リチャード、ごめんなさい。リチャードの気持ちはわかるけど、私にはマーガレット様を見捨てるなんてできない)


「わかりました。私は、マーガレット様に協力します」

「お嬢様、いけません!」

「リチャード、ごめんなさい。私のことを心配してくれるのはわかるけど、私はどうしても、マーガレット様を見捨てるなんてできないの」

「……エリザベス様! ありがとうございます! ありがとうございます!」

「どうしてそんな! お嬢様には全く関係のないことではありませんか!」


リチャードがそう言うと、マーガレット様は涙をハンカチで拭きながら、鼻声で言った。


「エリザベス様は、無関係ではありませんよ?」

「はぁ?」


思わず、気の抜けた声が出てしまった。

私にも関係があるってどういうこと?


「エリザベス様の妹のキャサリン様の婚約者は、アルドラ王国の末の王弟殿下ですよね?」


(えええええええ!? エリオットが王弟殿下って嘘でしょう?)


「え、えっと、確か貴族の三男って聞いてるんだけど」

「ああ、そうそう、フォートランのとある侯爵家に養子に出されたのですよね」


衝撃の事実が明らかになった。


アルドラ王は代々信心深い。

先代の王の御代に『末の息子を国から追放せよ。だが決して殺してはならない。さもないと、国は乱れ民が苦しむこととなるであろう』という神託が下りたのだそうだ。

先代の王は親子ほどに年の離れた妻が産んだ、幼い息子を深く愛していたため、ただ国から追放し、平民とするような真似はできなかった。

なので、当時の宰相の伝手を借り、遠くフォートランの侯爵家に末の息子エリオットを養子に出したのだそうだ。侯爵家の子息であれば、なんとか幸せに暮らしていけるだろうと信じて。


そんな父親の心遣いを無駄にして、一目惚れしたキャサリンの元に使用人として仕えていたエリオットだったが、今では婚約者となって幸せそうだ。

だからまぁ、それはそれで良いのだが。


「エリオットのロリコンは遺伝だったんだ……!」

「だからお嬢様、言い方!!」


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