24 理由がわかりました
我が国フォートラン王国は、3つの国に囲まれている。
シルヴェス王国、ロトリア王国、ロルバーン公国だ。
そのうちのロトリアとは、うちの父の一件があってから険悪ムードが続いている。
シルヴェスとは元々国交が無い。
ロルバーンとは良好な関係で、もし一方の国が攻撃された場合、他方は必ず援軍を送るという同盟を結んでいる。
ロルバーンには、アーデルハイドという公女がいるのだが、その公女に東のアルドラ王国の王から婚姻の申し出があった。
アルドラ王は、御年40。
ロルバーン大公夫妻より3歳年上で、すでに三人の妻がおり、公女は4番目の妃にと望まれていた。
ちなみに現在の妻達は、35歳、16歳、15歳だ。
もちろんロルバーン大公は断ったが、アルドラ王は諦める様子が無い。
このままだと公女が攫われてしまうのではないかと心配した大公は、同盟国フォートランに協力を仰ぎ、その結果公女は我が国の学院に留学することとなった。
小さなロルバーン国内にいるよりも、少し離れた大国フォートランの、比較的治安の良い王都に居た方が安全だろうとのことだった。
マーガレット様は私達に、『一緒に公女を守って欲しい』と言った。
ちなみにこのミッションにはタイムリミットがある。
信心深いアルドラ王は神殿の新年の占いを信じているのだが、今年の占いの結果は『月の女神の祝福を受けた銀髪の、齢13の乙女を王に連なる者とせよ。さすれば、アルドラ王国は繁栄の道を歩み、民は豊かな生活を送るだろう』だった。
王女は4月生まれなので、入学してすぐに13になる。なので、そこから1年間逃げ切れば良いのだ。
「……というわけで、皆様に、是非協力して頂きたいのです」
「お断りします」
リチャードのきっぱりとした声が響き渡る。
「エリザベス様を危険な目に遭わせるわけには参りません。それに、色々と腑に落ちないことが多すぎます」
「何かしら」
「とりあえず、お聞きしたいことは三つ。まず一つ目、同盟国とはいえ、何故フォートランはロルバーンの公女にそこまでするのでしょうか? 二つ目は、銀髪の13歳の少女なんて世の中にたくさんいるでしょうに、何故公女を選んだのでしょうか? そして最後に、これが一番知りたいことなのですが……どうしてマーガレット様がこの件に関わっておられるのでしょうか? 宰相のご息女とはいえ、このような大事を任されるなど、何か相応の理由があるのでは?」
「……さすがは黒い狼と言われるベルク伯爵のご子息ね」
(え? リチャードのお父さんって、黒い狼って呼ばれてるの? カッコイイな! あとマーガレット様は宰相の娘なの? 全然知らなかった!)
「……バーランド侯爵と王妃様との確執も関わっているのでしょうか」
今までずっと沈黙を保っていたビアンカ様が小さな声で呟いた。
心なしか声が震えている。
「その通りです。皆様ご存知の通り、現王の妃選びの際、バーランド侯爵令嬢と現王妃様が最後まで候補に残り、結果として現王妃グレイス様が選ばれました。それ以来、バーランド侯爵は王家に対して恨みを持っています」
(皆様ご存知の通りって、何それ、私は全くの初耳なんですけど!)
「ロルバーン公国はかつては我が国の一部でしたが、三代前の王弟が独立し国を興したという経緯があります。なので、フォートランとロルバーンの王室は代々親密な関係にあります。現大公妃もフォートラン王の姉君ヴィクトリア様ですしね」
(よし! やっと知ってる話題が出てきた!)
「フォートラン王家の決まり事として、『王族は婚姻によって王位継承権を失うことは無い』と定められております。つまり、嫁に行こうが婿に入ろうが、王位継承権はそのままなのです」
(これも家庭教師のアーネスト夫人から教わった! だから現在の王位継承権第一位は王太子、第二位は第二王子、現王は姉と二人姉弟だから、王位継承権第三位は、隣国ロルバーン公国の大公妃だって)
「つまり、我が国の王位継承権第三位はロルバーン大公妃ヴィクトリア様。そして第4位はその娘アーデルハイド様なのです。バーランド侯爵はそこに目を付けたのでしょう」
またもや話が見えなくなってきた。
どうしてここでバーランド侯爵家が出てくるのだろう。
「妃争いに敗れたバーランド侯爵令嬢は、国を出てアルドラ王国の王の元に嫁ぎました。つまり現在のアルドラ王国第一王妃は、かつてのバーランド侯爵令嬢イザベラ様です。イザベラ様は幼い女の子が好きなアルドラ王を言葉巧みにそそのかし、フォートランの王位継承権を持つアーデルハイド様を娶るように仕向けたのです。今後、もし、フォートランの王子達が子を為さないまま亡くなった場合、最終的に王位に就くのはアーデルハイド様となります、つまり」
そこで一度言葉を切ったあと、マーガレット様は眉を顰めながら言った。
「アーデルハイド様の伴侶となられる方が、王配となり、このフォートラン王国を手に入れることができるのです」
話の重大さに打ちのめされたようで、誰も言葉を挟めなかった。
この話は、このまま聞いていていいのだろうか。全部聞いたらもう、戻れない、そんな気がする。
だがリチャードは真面目な顔でマーガレット様を見つめ、話の続きを待っている。
リチャードがそれを望むなら、私だけ逃げるようなことはできない。
私は覚悟を決め、マーガレット様の目を見つめた。
マーガレット様は皆の様子を見て、話を続けても大丈夫だと判断したのか、再び口を開いた。
「先程の、リチャード様の質問にお答えしましょう。まず一つ目の答えから。フォートランにとってアーデルハイド様は、ただの同盟国の公女ではありません。自国の王位継承権を持つ非常に重要な人間なのです。ですから、公女の身を守り他国に奪われないようにすることは、フォートランにとっては当然為すべきことなのです」
マーガレット様がリチャードを見つめる。
リチャードは、理解したというように頷いた。
「そして二つ目の答え。確かに、銀髪の13歳の少女など、いくらでもいます。それをアーデルハイド様でなければならないと誘導したのはアルドラ王妃イザベラ様でしょう。おそらく、父であるバーランド侯爵と共に、現王の直系から王を出さないようにするためでしょうね。アルドラ王に『フォートランの王子達が亡くなれは、あなたが王配になり、フォートラン王国を手に入れることができる』とでも言ったのではないかしら。……侯爵とイザベラ様の恨みは、それほど深いと言うことですわね」
マーガレット様は、眉を顰めながら言う。
いつも笑顔のマーガレット様のこういう表情は、見ていてなんだか落ち着かない。
リチャードが、また頷いた。
「そして最後の答えですが。……今回のアーデルハイド様の留学に際して、我が国からも留学生を一人送り出します。交換留学生という体の人質です。その方の名はウォルター・コーネル公爵子息。王妃グレイス様の兄、コーネル公爵の長男であり、私の婚約者です。まだ公にはしておりませんが、小さな頃からそう決められておりましたの」
全員がはっと息を呑む。
マーガレット様がこのミッションに関わる理由はそれだったのか。
「もし、公女の身に何かあればウォルター様の命は無いでしょう。小国ロルバーンの、我が国に対する保険のようなものですね。王妃様直々にお言葉も賜りました。『どうか、公女を守って欲しい。公女が攫われたり、損なわれたりすることの無いようにして欲しい。甥のウォルターが、無事にフォートランに戻れるように、どうか頼みます』と。……王妃様に頼まれなくても、私は、なんとしてでも無事にウォルター様に帰ってきて頂きます。だからどうか、私に力をお貸しください」




