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23 お茶会ですよね?

「き、急に何を仰るのですか!?」


アメリア様が、真っ赤になって震える両手を握りしめ、マーガレット様に向かって叫んだ。


(ああ、そうか。そういうことだったのか)


アメリア様はリチャードのことが好きだったのだ。

だからリチャードを従者にしている私のことが羨ましくて、あんなに嫌味な態度をとってたんだ。


まあ、もう少し大人ならば、こんなにあからさまに攻撃してくることはないのだろうが、所詮まだまだ子供。憎い恋敵を前にしたら、取り繕うことができなくなってしまったのだろう。

まあ、思春期なんて皆そんな感じだよね。

だとしたら、私がとるべき態度は……年上らしく諭す一択。


「アメリア様」


私が話し出すと、アメリア様はビクッと肩を揺らした。

何を言われるのか、身構えているようだ。


「確かに、リチャードは私の従者になる前は騎士志望だったと聞いています。でも、今はもう良いのだと言っていました。諦めたのではなく、私の従者になりたいからだと。私が無理強いしたわけではありません」


「……っ!!」


「でも、私とリチャードは婚約したわけではありません。なので、私はリチャードを縛り付けるつもりは全くありません。もし、この先、リチャードに好きな人ができた場合は、すぐに従者としての契約を解消するつもりです。だから」


私はアメリア様の目をしっかりと見つめながらはっきりと言った。


「リチャードのことが好きなら、私に嫌味を言ってないで、リチャードに告白でもなんでもすればいいじゃないですか! ここはマーガレット様がせっかく用意して下さったお茶会の場です。マーガレット様に失礼だとは思いませんか? ビアンカ様とシャーロット様にもです!」


アメリア様が、はっとしたような表情になり、他の参加者を見る。

自分が場の空気を悪くしていたことにようやく気づいたようだった。


「だって……」


アメリア様は、目に涙を浮かべながら言った。


「私達は、小さな頃から一緒に遊んだ仲なのよ! リチャード様は私にいつも言ってたわ。将来は騎士になるんだって。騎士になって私のことを護ってくれるって!……ずっと、ずっと好きだったのに……」


(なんですって! リチャードにそんな幼馴染との甘酸っぱい思い出があったとは!)


突然の告白に、シャーロット様がますます目を輝かせた。

ビアンカ様は、一層オロオロし始めたけど。

マーガレット様は……とくに変わらず、ニコニコしている。


「お嬢様」


その時、スペンサー家の執事が来てマーガレット様に告げた。


「リチャード・ベルク伯爵令息がおいでになりました」

「そう。すぐにこちらに通してちょうだい」


参加者全員、マーガレット様の方をバッと振り返る。


「どうして、どうしてリチャード様が!?」

「アメリア様、落ち着いて。……私が呼んだからよ。お茶会開始から1時間後の、この時間に来るように指定してね」


(え? わざわざ時間をずらして呼んだってこと? なんで?)


そして執事に案内されたリチャードが現れた。

リチャードは右手で胸の辺りを押さえ、右足を引き、優雅に貴族の礼をした。


「マーガレット・スペンサー伯爵令嬢、本日はお招き誠にありがとうございます。エリザベス・フォークナー伯爵令嬢の従者、リチャード・ベルクと申します」


さすがは理想の息子コンテスト優勝者。

貴族の子息らしい、丁寧で礼儀正しい挨拶だ。

12歳とは思えないほど落ち着いた様子で、リチャードはチューリップトリオに向かって同じように貴族の礼を取りながら言う。


()()()()()()()()。ベルク伯爵家のリチャードと申します。以後お見知りおきを」


場がシーンと静まり返った。

リチャードの挨拶は完璧だった。だが。誰一人として返事を返す者がいない。


不思議そうにリチャードがこちらを見る。


「リチャード……あの、皆様とは()()()会ったの?」

「そうです。皆様とは、今日()()()お会いしま、ガハッ」


思わず立ち上がり、リチャードの胸におもいっきり裏拳を叩き込んでしまった。

何故なら、アメリア様が、目に涙をいっぱいに溜め、唇を噛み締めているのを見てしまったからだ。


「そんな……そんなはず。だって、リチャード様は、ずっと一緒に遊んでたのに……」


アメリア様がそう呟くと、リチャードが何かに気づいたように目を見開いた。


「あ、あなたはオリバー様の妹の!」

「リチャード様、思い出して頂けましたか!」


(ああ良かった。やっぱり初対面じゃなかったんだ! もう、リチャードってば忘れっぽいんだから! 緊張して変な汗が出てきちゃたじゃない!)


私はリチャードに向けて、とにかく早く謝っておけ、と念を送った。

だが、リチャードはそんな私の視線をどう勘違いしたものか、無邪気な笑顔を浮かべつつ言った。


「こちらのご令嬢とは以前、お会いしたことがありました。うちの長兄がグラント伯爵家のオリバー様と友人で。兄がグラント伯爵家に遊びに行くとき、俺もよく付いて行ったんですよ。たしかその時に何回か会ったことがあります。そうですよね? えっと、お名前は確か()()()()、ウッ」


(もうやめて差し上げて!)


思わずリチャードの足を思い切り踏みつけてしまった。


「さっきから一体、なんなんですか、エリザベス様!」

「それはこっちの台詞よ! リチャードこそ、さっきから一体何なの!? 空気読みなさいよ!」

「は?」

「は? じゃないわよ! 全然甘酸っぱくないじゃない!」


混乱して叫ぶ私に、リチャードは両手のひらをこちらに向けておろおろと後ずさる。


「……もう、止めて下さい。もう、いいのです。よくわかりました」


アメリア様が、小さな声で呟いた。

そして、立ち上って私たちの方に向き直り、姿勢を正してはっきりとした声で言った。


「全て私の勘違いだったようです。エリザベス様、リチャード様、無礼な態度を取り、大変申し訳ありませんでした。マーガレット様、ビアンカ様、シャーロット様にも、お詫び申し上げます」


そして、ゆっくりと私の目の前に来ると、綺麗な淑女の礼を取った。


「私はエリザベス様のことを誤解しておりました。どうかお許しください」


偉い、と思った。

ずっと好きだったと言っていた。

私のことを、恨んでいたのだろうに。

なのに、こんな、潔い引き際。

彼女は、良くも悪くも、素直で隠し事ができない真っ直ぐな性格なのだろう。


私は思わず、アメリア様に向かって手を差し出した。

アメリア様も、すぐに手を差し出してきた。

そして、二人でがしっと握手をしながら、お互いの顔を見つめ、頷きあった。

なんだか男同士の友情みたいになったけど、まあ、仲直りできたんだから細かいことは気にしない。


「うふふ。これで準備が整ったわ!」


その時、横でニコニコと笑いながら、マーガレット様が言った。


(準備……? 何のこと……?)


マーガレット様以外の全員の頭の上に、はてなマークが見えるようだ。

みんな、突然のマーガレット様の言葉に戸惑いを隠せなかった。

だが、そんな空気をものともせず、今日初めて笑顔を消したマーガレット様が高らかに叫んだ。


「皆様とならば、勝利は疑いなし! どうか皆様、私にお力をお貸しくださいませ!」


「「「「「は?」」」」」


皆の声が、部屋に響き渡った。

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