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ヴェローナ星系の戦い

 セクター14はヴェローナ星系はオーデル家の領地へ行くにあたって必ず通らなければならない無主の星系だ。居住可能惑星もなく、わざわざ惑星改造をするほどの価値もない、その惑星に数万隻の軍艦が集ったのは、いったい何年ぶりだろうか。


 おそらくそれはバルトアンデスの襲来以前の話だ。敵味方合わせて6万隻以上の艦艇が揃い、銀河の片隅でいつ開戦かと互いにてぐすね引いて待つ中、俺は味方艦隊の後方でことの行く末を見守っていた。


 「レアン陛下。どうぞ、御見物ください。我らの正義が、オーデル家の恥知らずどもに鉄槌を下す様を」


 そう言って空中に浮かんだホロウィンドウが閉じられた。写っていたのはフィリップだ。大言壮語を吐いて通話を切った次代のリップマン侯爵を訝しみながら、俺はここに至るまでの経緯を脳裏で思い返し、ため息を吐いた。


 ことの発端はリップマン侯爵を暗殺した暗殺者がオーデル家の差金だった、と発覚してからだ。それを境にリップマン家の面々は勢いづき、過激な発言を繰り返すようになった。


 連中を煽ったのはバートン伯爵だ。まるで戦争を求めるかのように、フィリップを筆頭にリップマン家の面々をたぶらかしはじめた。暗殺者のことを公表してもオーデル家は知らぬふりをしている、とか、奴らの求心力を失わせる致命打になるとか、耳障りのいいことを言ってフィリップらを扇動した。


 別にフィリップらが戦争をしたい、と思うのはいいのだ。それはオーデル家も同じだろうし、敵対する両者が戦争したい戦争したいと意気込むのはいい。だが、こちらから戦争を仕掛けるようになってほしくはなかった。


 いつの時代も最初に手を出した方を周囲は白眼視するものだ。例え、手を出された方に非があっても、わかりやすいものにしか興味を示さない連中にとって、前後の経緯はどうでもいいのだ。現象、それだけが彼らの興味の対象なのだから。


 そして今に至る。何度となくフィリップらはオーデル家を糾弾したが、オーデル家は知らぬ存ぜぬを繰り返した。業を煮やしたフィリップ達は征伐だ、征伐だ、と声を荒げて軍を起こした。


 リップマン家の艦艇2万隻、バートン家の艦艇1万5千隻、俺の艦艇5千隻の計4万隻の連合艦隊が形成され、それらはバートン家の領地を経由して、オーデル家の領地へ進撃を開始した。


 進発した艦隊はオーデル領の玄関口とも言えるヴァローナ星系で相対した。締めて2万5隻の艦隊が太陽を挟んだ反対側に現れ、連合艦隊と対峙したのだ。


 「それにしても意外ね。レアンがああいう貴族に流されるなんて」


 自室でため息を吐く俺にラナが言う。痛いところをついていくるラナに、俺はしょうがないだろ、と返した。


 「あそこで『やめろ』とか言ってれば俺への支持をなくすだろ、多分」


 よしんばなくさずとも、俺への信頼は揺らぐ。表向き救援のために来た俺は、彼らの救援要請を断れないというのもあるが。


 「こうやって後方にいるのはせめてもの抵抗?」

 「そうだな。いち早く逃げるためのな」


 消極的なようだが、大事なことだ。戦場でまず考えるべきことは戦に勝つ手段を考えることじゃない。逃げ道を用意することだ。逃げ道があると安心できるから、落ち着いて作戦を考えられるのだ、と俺は思う。


 今回の戦いはそもそも、俺が主導したものじゃない。息巻いているリップマン家、それを扇動したバートン家を前面に押し出すのは合理的だ。


 「それにまだリップマン侯爵を暗殺したやつも捕まってないからな」


 「え?それって」


 「だってそうだろ?死体見分の調書を読めば、暗殺者が一人だけだったなんてありえないだろ」


 リップマン侯爵を暗殺した連中で最低6人、セキュリティを無効化した奴が同一人物でもなければ、7人以上の大所帯だ。それが捕まっておらず、今なおリップマン家内で暗躍していると考えると身震いすら覚える。


 変幻自在のノクト達ですら、その尻尾を掴めない暗殺者というのはゾッとする話だ。それはつまり、俺にも凶刃が迫る可能性を示唆していた。


 古来より、暗殺者に怯えるのは権力者の定めだ。権力者でない頃はそれを笑えたが、いざ権力者となった今は笑えなかった。



 戦闘は何の前触れもなく起こった。正確にはフィリップとオーデル公爵が通信を開き、互いに口汚く罵り合った後に起こったらしい。


 現場でその様子を見ていたロメル君が、俺に事細かに紹介してくれた。ちなみになんでロメル君が俺の戦艦にいるのかと言えば、連絡員としてフィリップがよこしたからだ。リップマン家の戦いを紹介するためらしいが、内実は連絡員だ。大方、戦闘中でも通じる秘匿回線で通信するための要員だろう。


 戦いの先端を切ったのはリップマン家だった。大きく太陽を右回りに迂回しながらリップマン家の艦隊は反対側に位置するオーデル家の艦隊へと迫った。


 対してオーデル家はそれを向かえ撃つ形で陣形を敷いた。互いに位置しているのはヴェローナ星系の第五惑星の軌道上、両者がぶつかるまでには最大船速でも4日はかかる距離だ。


 その四日の間にバートン家もまた動いた。オーデル家とは反対方向へと動き、オーデル家の背後から迫る動きを見せた。時間差の挟撃作戦だ。


 両者の艦隊が動く様を長距離索敵艦経由で送られてきた映像で確認しながら、どう動くだろうか、と俺は考えを巡らせた。


 一見すると数の優位を活かさず、軍を分けるリップマン家とバートン家のやり方は下策に見える。だが、ついこの前まで殺し合っていた奴らに連携を期待できるわけもない。大まかな作戦だけを決めておいて、あとは柔軟に対応するというのは理にはかなっていた。


 「ヴァニカはどう見る?」

 「閣下はとても凛々しくこの瞳には見えます」


 思いもよらないボケが返ってきたせいで、俺はズッコケそうになった。そういうことを聞いているんじゃない、と声を荒げ、この戦いがどう動くかについての意見を求めた、と叫ぶと、ハッとなった様子でヴァニカは、失礼しました、と頭を下げた。


 慌てた様子でヴァニカは俺の隣にたった。そして映像や艦隊の動きを表した航宙図を眺めながら、ゆっくりと余裕を持って答えた。


 「この戦いは、何もイレギュラーが起こらなければ、連合艦隊の圧勝であると考えます」


 「やっぱりそうだよな。そうとしか考えられないもんな」


 リップマン家は2万隻、オーデル家は2万5千隻。ぶつかり合えば、一隻一沈の法則でオーデル家が勝利する。しかし、それをわずか2日でできるかと言えば難しいと思う。一般的によほど接近しなければ戦艦の主砲でさえシールドを貫通できないのがこの世界だ。


 それこそポコポコバンバン落としたかったら俺の艦隊のように超近距離からドール隊に攻撃させるとか、無難に戦艦を接近させるしかない。


 何より、防御陣形をオーデル家が組んだということは攻撃に回すエネルギーもシールドに回したということだ。おそらくだが、とんでもない泥試合になるだろう。


 「それはオーデル家だってわかってるし、長引けば挟撃されるってのもわかってるよな?」

 「陛下のご見識、感服します」


 やたらヴァニカは俺を持ち上げるが、気恥ずかしいだけだ。こんなことは誰だってわかるし、言えることだ。咳払いをして、俺は再度映像を見つめた。


 「なのにオーデル家は防御陣形を取ってる。普通は攻撃陣形を取って真正面から撃ち合うんじゃないか?」

 「御意。定石であればそうするはずです」


 俺とヴァニカをはじめ、俺の軍の奴らが不思議そうに思っていると、ついに戦端が開かれた。リップマン家の艦隊が有効射程距離に入ったのだ。


 予想通り、エネルギーをシールドに回し、何重にも厚みを増したオーデル家の艦隊は放たれたレーザーを無効化した。リップマン家の艦隊はさらに火力を強め、進撃する。


 それに呼応するようにオーデル家はゆっくりと撤退を開始した。第五惑星の軌道に沿うようにゆっくりと。それが顕著になったのは戦が始まってから1日経ってからだった。


 「なんだ?なんの行動だ?」


 近づかれてレーザーの直撃を受けるのを恐れたのかと思ったが、そういうわけでもない。そもそも今まででさえほとんど損失がないのに、わざわざ撤退する意味を見出せなかった。それにこのまま撤退を続ければむしろ、バートン家の挟撃を受けるまでの時間が縮まってしまう。


 「陛下、いかがなさいますか?」


 聞いてきたのはヴァニカだ。このまま座して見ているだけか、と目で訴える彼女に俺は、少し考え込み決断を下した。


 「リップマン家を追うぞ。それとロメル卿を呼べ」


 罠かどうかはわからない。けれど、この怪しい状況をただ見ているだけにはいられなかった。


 「レアン陛下、お呼びと聞き、参上いたしました!」


 しばらくしてヒッタイトの艦橋にロメルが現れた。緊張した様子のロメル君に俺は笑顔で返した。


 「そう緊張することはない。ただ、リップマン家の艦隊を停止したいのだ」


 「それでしたら、陛下がお呼びになればよいのでは?」


 「それはできない。俺は貴殿と違ってリップマン家の秘匿回線を知らんからな」


 俺の返答にロメル君は戸惑いを見せた。どう返答していいかわからないという感じだった。


 戦闘中の艦隊はあらゆる通信を切っている場合が多い。一部の暗号化された通信を除けば、オープン回線での通信は傍受される可能性があるからだ。


 「とにかくリップマン家を止めてほしい。貴殿の声であれば聞くだろう。その時に俺の名前を出してもかまわん」


 ロメル君は不承不承といった様子でフィリップとの回線を開いた。俺の名前を出して攻撃を中止するようにロメル君は訴えるが、フィリップは聞く耳を持たなかった。


 「ちっ。ワープをしてもいいからとにかく追え!このまま放置するとまずいことになる」


 「陛下、その間に兵士に仮眠を取らせてはいかがですか?」


 「仮眠?ん、そうだな。あとで馬車馬のように働いてもらうからな」


 現在リップマン家とオーデル家が交戦しているポイントまでは、普通に進めば四日以上かかる。だが、ワープであれば5時間だ。その代わり、エネルギーを相当に消耗する。


 エネルギーが回復するまで兵士たちは地獄のような時間を経験するだろう。そのための仮眠だ。ヴァニカの進言を採用し、ワープに必要な人員以外に仮眠を取るように命令した。


 「陛下、ワープ前にもう一度攻撃中止の勧告をしてもよろしいでしょうか」


 ロメル君が俺に問いかける。俺はいいだろう、と首を縦に振った。ハイパーディメンションでは通信ができなくなる。5時間後に戦況がどうなっているかがわからない以上、今できることはするべきだった。


 それから1時間後、俺の艦隊はワープに入った。



 「なんだ、こりゃ」


 5時間後、俺の艦隊は一隻も掛けることなくワープアウトした。船体に張り付いた超空間被膜が剥がれ落ち、それは瞬時に宇宙の冷気で凍りついて霧を発生させた。


 その霧の向こうで、戦闘が繰り広げられていた。一方的な蹂躙だ。


 リップマン家の家紋が刻まれた戦艦が爆発し、爆散していく様が見えた。


 それをしているのはオーデル家の艦隊、そしてバートン家の艦隊だった。


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