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Dice dies

 「ダイスぽーい」


 宇宙港のスーパーVIPエリアで俺は六面ダイスを机に向かって転がした。出た目が1か6ならオーデル家、2か5ならリップマン家、そして3か4ならバートン家に向かう予定だ。


 そのあまりに適当な進路決定にゼルドリッツ兄上はもちろん、ラナやキリル以下近衛兵連中まで俺を白眼視していた。俺の味方をしてくれるのは見て見ぬふりをしているテティスだけだ。


 コロコロとダイスが転がり、出た目は6だった。行き先はセクター14のオーデル家に決まった。その直後、キリルが待ったをかけた。


 「陛下、進言よろしいでしょうか?」

 「いつでもいいぞ」


 では、とキリルは俺の前で片膝をつき、進言を口にした。


 「オーデル家は典型的な貴族主義の家門であります。したがって、陛下の推し進める開明的な少数民族を帝国社会に迎える政策とは折り合いが悪いかと愚考いたします」


 「なるほど?つまり俺は歓迎されない、とキリルは言いたいんだな?」

 「御意でございます。少なくともローレンス伯のような歓待はしないでしょう」


 それに、とキリルは付け加えた。


 「オーデル家の領地は近縁星系(インナー・ユニヴァ)にございます。西部侵入までならともかくとして、帝国中枢への侵入を摂政ソフィアが許すとは思えません」


 キリルの瞳には力があった。このままオーデル家に向かえば決していい結果を得られないという確信があるようだった。


 それに便乗するかのように俺の足元の影がゆらめいた。現れたのは黒いパワードスーツを着た大男だ。


 「ヴァナ・アシュト」という教団の首魁、ノクトだ。突然の音もない登場に同行してた官僚団がノクトに不敬だぞ、と言いたげな眼差しを向けた。最初は驚いていたのに、今では慣れて怒りの眼差しすら向けて見せる。彼らも成長したものだ。


 「予告なき参上をまずは謝罪します、陛下。どうかお許しください」


 「いい。何か進言があるんだろう?」


 「御意でございます。火急的速やかに、陛下に奏上すべき、事案が発生しました」


 言ってみろ、と俺は発言をうながした。ノクトは一例しその内容を話した。


 「おおよそ3日前、オーデル公爵領にジェイムズ・ソル・アルクセレスを全権大使とした、使節団が入領しました。使節団は軍艦五千隻の艦隊を率いているとのことでございます」


 「へー。ジェイムズ兄上がね」


 平静を装いながら俺は瞑目した。無論、内心ではなんで、なんで、というクエスチョンマーク祭りだった。


 まず兄上が全権大使の使節団というのがわけわからん。あの兄上にそんな交渉能力があるとは思えない。だって、貴族主義で日和見主義な兄上が外交できるだろうか、いやできない。


 反語表現を正しく使うくらいにはありえない人選だ。貴族主義者同士意気投合するだろう、とかいう腹づもりだろうか。だとしたらソフィアの人事能力を疑わざるを得ない。


 けだし高い外交能力や交渉能力がある人間が同道しているのかもしれない。それでも、兄上がその優秀な交渉役の言うことを聞くビジョンが見えなかった。貴重な進言や諫言を聞き逃すタイプだもの、あの兄上。


 だが、兄上がオーデル家に肩入れしたというなら、俺の進路も決まったようなものだ。


 「よし、リップマン家に向かうぞ。俺達はリップマン家に肩入れする!!」


 「御意。西部境界付近に待機させている艦隊を出動させますか?」


 キリルの問いに俺は、そうだな、と思案する。その時、連れてきた軍人達の中から進言の声が上がった。見れば輝かしい炎髪の女性将校が列の前に出ていた。


 「ヴァニカか。なにか意見でもあるのか?」


 炎髪の女性将校、ヴァニカ・ランシスはかつて俺が丸焼きにしたミドカウザー伯爵の領地の生き残りだ。伯爵の屋敷の地下牢に囚われていたところを俺の部隊が救出した、という曰く付きの経歴を持つ女性で、なぜかは知らないが類稀なる軍事的才能を持っている優秀な若手だ。


 これまでの海賊退治はもちろん、貴族との戦いでも彼女の才能は証明されている。その彼女の進言は聞く価値があった。


 「一度にすべての艦隊を動かしては敵方にいらぬ警戒心を与え、挑発行為かのように捉えられかねません。敵方が戦争をする気にせよ、そうでないにせよ、こちらから明確な敵対行動は控えるべきです」


 「こうしてリノベル伯爵領に俺がいることがすでに挑発行為のように思えるが?それに西部境界に待機させたままでは万が一の時に臨機応変に対応できないだろ?」


 俺の指摘にヴァニカは頷いた。誤解を恐れない肯定というのは嫌いではなかった。


 「御意。ですから挑発行為でなくすれば良いのです。言い換えるならば、挑発行動をしたのはあちら側で、こちらはその挑発に対応しているに過ぎない、という立場を形成すれば良いのです」


 ヴァニカの発言に官僚団は目を細めた。軍人達も決していい顔はしなかった。


 彼女の発言を噛み砕いて言うなら、「リップマン家は最初から俺の味方だった(嘘)」「俺の味方が危機に瀕している(嘘)」「助けに行かなくてはいけない(使命感)」だ。


 こちらの都合であちらを巻き込む。実に俺好みではあるが、あからさま過ぎて官僚や軍人の顰蹙を買うのは当然と言えた。


 「陛下、よろしいでしょうか?」


 俺の背後に控えていたテオが発言を求めて手を上げた。いいぞ、と俺は許可を出した。正直、どう答えていいかわからなかったから、テオが何かいい意見を出してくれるんじゃないか、と期待していた。


 「公文書を偽造することそれ自体は難しくはありません。現在の我が方はレアン陛下の一存ですべてが決定される独裁状態でありますから。しかし、モンタギュ侯がそれを了承するかは未知数ですし、何よりこれは侯の信用に傷をつけます」


 テオの意見は的を射ていた。


 リップマン家にも信用というものがある。セクター31の顔役であるリップマン家が他の貴族に内緒で、秘密裏に俺と組んでいたというのは外聞が悪い。


 仮にリップマン家の了解を得ず、押しかけ女房的に俺が味方し既成事実を作っても、今度は別の禍根を残すことになる。言い換えれば、帝国の主導権争いの火種を西部に持ち込んだ疫病神とも捉えられかねないのだ、俺は。


 「けれど、このまま兄上に西部で好き勝手されるのもたまらんな」


 ジェイムズ兄上が意気込んで西部に来て、何もせずに帰るというのはまずありえない。仮にも元は皇位継承権第4位の皇子様だ。ある程度の政治力はあるだろうし、謀略だって仕掛けてくるだろう。


 何よりリノベル伯爵に西部の安定を約束した以上、兄上を見逃すことは西部の混乱を放置することに他ならない。俺は約束を守る男だ。そうありたい、と考えている。少なくとも、前世で俺を見捨てた「先生」のようにはなりたくなかった。


 「テオ、速やかに公文書を作れ」

 「御意。同様のものをリップマン家をはじめとしたセクター31の貴族の方々にも送らせていただきます」


 「ああ、それで頼む。リップマン家だけに汚名を被ってもらうわけにはいかないからな」


 「あの、陛下。やらんとすることは理解できますが少々強引では?」


 キリルが俺を白眼視する。少し遅れて俺の意図を察したラナも俺を陰鬱な眼差しで見つめた。官僚団もだ。軍人達はヴァニカ以外ぽかんとしていた。当のヴァニカ本人は喜色を隠さず、目を輝かせていた。


 「さぁさぁ、諸君。これから俺たちはリップマン侯爵領に向かうぞ!!窮地に立たされた味方を助ける正義の軍隊の進発だ!!」


 そのいたたまれない空気を強引にぶち破って、俺は戦艦の発進を命令した。


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