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悪徳貴族は斯く戯言(かた)る

 ウロヤ・クコンザ討伐の一報は辺境の貴族達に衝撃をもたらした。


 あるものは耳を疑い、またあるものは歓喜した。


 ベル星系の領主、アスリッジ・エル・ミドカウザーは前者だった。強大な宇宙海賊を成人してもいない幼少の皇帝が討伐したなど信じられなかった。


 アスリッジは自身の執務室で、これからどうするかを考えていた。


 彼のモニターにはこれまでウロヤの略奪に協力した見返りがたんまりと振り込まれた口座の記録があった。これを見られれば、アスリッジの貴族としての人生は終わる。


 仮にも貴族、ましてワープゲートを領内に持つ有力者が海賊に協力していたなど知られたら、もはや生きてはいけない。瞬く間に貴族達はベル星系に大挙して押し寄せてくる。


 とにかくこのデータだけでも隠さなくては、とデータカードに口座の記録を隠し、アスリッジは椅子から立ち上がった。


 落ち着いてられなかった。落ち着こうとしても手が勝手に動いてしまう。余計なことを考えてしまう。


 「く、くそ。こんなこんな!!!」


 ウロヤが捕えられるなんてここ半世紀の間で想像もしていなかったことだ。


 「どうなる、どうする?」


 考えた末、アスリッジはとある部屋に行くことを決めた。アスリッジの趣味部屋だ。


 そこでしばらく遊んで落ち着きを取り戻そうと思った。その矢先、不意に執事がモニターに現れた。


 『旦那様!我が星系の外縁部に皇帝陛下がお見えです!!』

 「なに、陛下が?」


 執事曰く護衛の艦隊が百隻ほどいるが、それ以外に敵影はないという。


 いい予感はしなかった。ウロヤを討伐した張本人が、ウロヤと取引をしていた貴族のもとを訪れるなど、いい予感がするわけがない。


 断罪か、はたまた誅殺か。いずれにせよ、レアンが自分を見逃すなどない、とアスリッジは確信していた。


 強張った表情のアスリッジの前にレアンは笑顔で現れた。護衛は老け顔の騎士と、浅黒い肌の騎士だけで、余裕すら感じさせた。その二人を部屋の外に残し、レアンとアスリッジは互いに向かい合った。


 「この度はいかなるご用件でしょうか、陛下」


 声が揺らぐ。落ち着こうとしていても声がどうしても上擦ってしまう。


 「伯爵、今日俺はひとつの要求を告げに来た」


 アスリッジは息を呑み、次の言葉を待った。


 「——俺の派閥に加われ、ミドカウザー伯爵」



 ミドカウザー伯爵はその言葉に困惑した様子だった。


 ひょっとしたら俺が断罪でもしに来た、とか思ったのだろうか。あいにくと、悪人だからと言って誰彼かまわず断罪する趣味は俺にはない。


 「——本音で話そうか。俺はお前を評価している。宇宙海賊を見事に操って富を築いた。それはお前の両親にはできなかったことだ」


 「お褒めいただいている、と考えてよろしいでしょうか?」


 「お前が加わればこのセクターの貴族達も俺の麾下に加わるだろう。お前が悪事をしていたからと言って、お前を断罪すれば、俺はその機会を失う。だから、お前の悪事を理由にお前を断罪するつもりはない」


 「清濁併せ吞む、と」


 「その方が俺にとって利益があるというだけだ。ここから先はお前の利益についてだ。お前は何が欲しい?」


 俺が睨むと、ミドカウザー伯爵は表情をほころばせた。


 「——陛下はあのウロヤ・クコンザを討伐なさったのですよね?でしたら、奴が持っていた秘密の航路図も手に入れたことでしょう?」


 「そうだな」


 秘密の航路図とはウロヤの海賊団が所有していたいくつかの、未登録星系への航路図だ。帝国内にあるものから、帝国外のものまで、果ては別の国家内の航路図まであった。


 それにミドカウザー伯爵が興味を持つというのは少し引っかかった。


 「ではもちろん、惑星チェネレントの情報も握っておられるのですよね?」

 「そうだな」


 ウロヤ・クコンザが持っていた航路図にはチェネレント人の母星である惑星チェネレントの情報もあった。それを知っているということはミドカウザー伯爵は相当ウロヤと懇意にしていたということか。


 「私をぜひ、その惑星にご案内いただきたいのです」

 「理由(わけ)を聞いてもいいか?」


 野暮なことを、言いたげにミドカウザー伯爵は肩をすくめた。


 「少しばかり体を動かしたいのですよ。ええ、ただそれだ(w)けです」


 「エクササイズがご希望なら、別にチェネレントでなくとも」

 「またまた。私は狩りをしたいのです」


 「狩り?であれば」

 「あの白い髪のブラッシュ共をね」


 は?


 「奴らは生来の騎士で、なかなか死なない。昔ながらの実弾銃で撃つといい逃げ姿を見せてくれるのです」


 「人間狩りをしたい、ということか?」

 「ブラッシュ狩りをしたいんです。どうでしょうか、陛下もブラッシュ狩りでもいかがです?」


 なにを言っているんだ、こいつは。


 「最近は繁殖が追いついていないとかで、なかなか惑星チェネレントには入れなかったのです。しかし、腕はまだ落ちていないと自負しております。これを機に勘を取り戻そうと思っておりまして」


 ミドカウザー伯爵は目をキラキラとさせてそう言った。一切の邪気を感じさせず、そんな戯言を吐いた。


 「どうされました陛下?」

 「いや、なにも。返事はここですればいいのか?」


 「ええ、できれば。そういえば陛下はブラッシュを飼育する趣味がおありだとか?どうでしょうか、今度そのブラッシュを使って狩りの練習でも」


 「よし。計算完了。それじゃぁ答えようか」


 立ち上がった俺は静身を解いた。虹色の洸粒が俺の体から溢れ出し、それを見てミドカウザー伯爵は驚いて目を見張った。


 「へ、へいか。もの共!!であえ!!であえ!!陛下がら、ひぃ」

 「うるせーよ」


 ミドカウザーが逃げないように足を破壊した。ウロヤで練習したおかげで、足をうまく断つことはできるようになった。


 「あ、いたいたい」


 「いや、ほんとさ。悩んだんだよ、15秒くらい?お前を生かすかどうかってさ」


 仮にも帝国貴族だ。それを軽々に殺すのもどうかな、と。


 「お前を生かしとけばこのセクターの貴族連中は俺に従う。そのメリットを摘んでまでお前を殺すべきかどうか」


 考えあぐねた末、俺は結論づけた。


 「やっぱさ、最初の予定通りに殺すことにしたわ、お前のこと」


 最初にこの星系から出た時に決めたプランだ。ミドカウザー伯爵を糾弾し、セクターを掌握する。


 それをやめよう、こいつを味方にしようと思っていたのに、勝手に墓穴を掘るのだから、救いようがない。


 「わ、私は!!このベル星系の領主だぞ!!その私を、殺していいと」

 「俺は皇帝だぞ。いいに決まってるだろ」


 空に向かって一閃すると、その軌跡を中心にしてミドカウザー伯爵の体が上下に裂けた。血は出ず、裂けるチーズのように体がでろんでろんになっていた。


 「へ、へいか!!これは、これは?」


 飛び込んできたのはキリルだ。キリルの隣にはこの伯爵の部下が立っていた。その部下は目を見張っていた。


 「キリル、そいつの口を塞げ。クリント、いるか?」

 「はい、いますけど」


 「すぐにこの屋敷から出る。先導頼む」


 わかった、とクリントは肩をすくめながら答えた。その裏ではキリルが伯爵の部下をシメ落としていた。


 「宇宙港まで走るぞ。車用意しろ」

 「なんでこうなったかは、聞かない方がいい、いいですか?」


 キリルに睨まれ、クリントは丁寧語に言い直した。


 クリントの問いに俺はああ、と短く答えた。いちいち丁寧に説明してやらなくても、それだけで俺の言わんとするところを察したのか、クリントはそれ以上聞いてくることはなかった。


 「車の準備ができました。宇宙港まではおおよそ1時間ほどです」

 「俺が船に乗るまでに撮影セットを用意させろ。プランAでいく」


 「御意。銀河ネットワークで放送の準備をさせます」



 俺が宇宙港に到着した頃、ようやく眼下の軌道エレベーターに伯爵の配下が集まってきた。長らく戦争をしていなかったからか、集まりが悪い。キリル達だったら俺が屋敷を出ようとした段階で惑星中から艦隊が集まっていただろう。


 ベル星系の軍隊にはその兆しすらなかった。その歩み、亀の如しとはまさにミドカウザー伯爵の軍隊を言うのだろう。


 さてそんな連中は置いておいて、早速テレビデビューを飾ろうじゃないか。


 悪く思うなよ、ミドカウザー伯爵。俺に弓を引いたお前が悪い。


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