ネクスト・ステージ
「さてと」
俺は電子錠で高速されたウロヤを見下ろした。
気絶したウロヤの体にはある変化が起きていた。傍聴した体が急激に萎み、その姿は俺が最初にモニター越しで見た時同じものに戻っていた。
何かおかしなものを食ったっていうのは事実だったみたいだ。一時的な身体強化とかだろう。クリントが刺していたやつと同じものか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
剣でグサリと心臓の近くを刺す。するとウロヤは両目を、かっ開いてぐぉ、と声をもらした。
「お目覚めか?」
ウロヤが俺を睨む。そんなに睨んでいたら顔が皺だらけになるだろうに。
「話すのも無駄だろうからな。お前についての処分だけ伝えておく。今後500年、お前は俺のおもちゃだ」
言うが早いか、俺はウロヤに手をかざした。洸粒が溢れ出し、ウロヤの足を覆った。直後、ウロヤの体がピキピキとずれ始め、壊れたテレビ画面のように歪んだ。
「が、ぁああああああ!!!!!」
ウロヤの絶叫がこだます。しかし俺は構わず能力を使い続けた。
俺が能力を使えば使うほど、ウロヤの足は歪み、曲がりくねっていった。
「な、なにがしてーんだよぉ!!!!」
「ちょっとした実験だ。潰した足を戻せないかっていうさ」
「ぁあ?」
「一回潰してもまた戻せるなら遊べる。お前がそう言っていたんだぞ?」
業腹だが、俺とウロヤの能力は似ている。ウロヤがどうやって元の体に戻しているかは知らないが、似ている能力なら、俺も相手の体を元通りにすることができるかもしれない。
「このイカれ野郎!!」
「不敬だな。皇帝にむかってなんて物言いだ」
「てめぇなんざ皇帝でもなんでもねー!!ただのイかれたクソガキだ!!!」
吼えるウロヤをクリントが蹴り飛ばした。そうでもしなければ俺の背後にいた特殊部隊のやつらがきっと銃を撃っていただろう。カチンというレーザー銃のセーフティーを外す音が聞こえた。
「その不敬を今後500年のペット生活で許してやろうって言うんだ。俺は慈悲深いよな?」
「ふつーに最悪だと思います、陛下」
クリントは真顔でそう言った。話のわからないやつだな、と俺はクリントの額にデコピンを喰らわした。
「おい、このバカを牢屋に詰めておけ」
特殊部隊の兵士達は御意、と頭を下げてウロヤを引きずり、その場から去ろうとした。そのとき、引きずられていくウロヤのポケットから何かが落ちた。
半透明の板、データカードだろうか。
それを拾い上げると、さっきまで俺を睨んでいたウロヤの目の色が変わった。まずいものを落としてしまった、と言いたそうな目だった。
「これ、すぐに解析に回せ」
「了解しました、陛下」
さて、あとは事後処理とかかな。暴れるのも飽きたし、あとは艦隊総司令とかに一任しよう。今頃、旗艦の艦橋で気を揉んでそうだし。
*
海賊退治が終われば次に待っているのは事後処理だ。海賊船の調査、捕虜の拘束などなど。
それ以外にもある。
例えば、戦没者の追悼、負傷者の慰労などだ。
「死者は予想よりも少なかったか」
「は。遺族年金についても100年分を保証いたしております」
「よし。追悼式はいつだ?」
「五日後です。その翌日には負傷者の慰労回りをしていただきます」
ルードヴィッヒとテオが交互に俺の質問に答えた。
心配そうにテオが俺を見る。そして、俺の机に置かれた栄養剤を一瞥した。
「そんなに気にするな。検診も受けてる。——海賊船の調査はどうなっている?」
それに答えたのはアンデルセン博士だ。ただしモニター越しだ。
『それについては陛下。面白いことがわかりましたよ、へーいか』
「どんなことだ?」
『航路図、そしてとある貴族とのつながりです。いやー特に後者なんて陛下』
「航路図ってのはどんなものだ?」
『え?あ、はい。こちらです』
少し面食らった様子だったが、アンデルセン博士はモニターにその航路図を写した。
アルガダ銀河の外縁部、特に南東部の航路図だ。別の銀河系のもの含まれている。これを見れば、どうやって宇宙海賊風情が銀河帝国に侵入できたかが一目瞭然だ。
『アルガダ銀河、ベルサリウス銀河、ラッタイト銀河、おやラットラン銀河と。随分と幅広く動いていたようですねー。そしてそれぞれの銀河に入るときは必ず、公式のルートを通っています』
「フロントゲート。なるほど、賄賂か」
『御明察!!国境に設置されたワープゲートこと、フロントゲート!!いやー一度でいいからそれの整備とかやってみたいもんですねー!!』
フロントゲートは言ってしまえば銀河系規模のワープ阻害装置だ。敵国が銀河内に勝手に入らないようにするために設けられた銀河系ハイパーディメンション航路の要所である。
「フロントゲートから入って、そのあとは現地のワープゲートを使ったってところか。銀河内に協力者がいないと不可能な芸当だな」
『はぁい!ついでに言いますと、銀河系の外に拠点がないとこれは不可能ですね。そーでないと、あっという間にお縄ですよ、お縄』
そう言ってアンデルセン博士は航路上のとある惑星を指差した。アルガダ銀河の外にある星系だ。アルガダ銀河とコスモデス伴銀河の間にある小さな星系だ。名前がないのは、これまでずっと発見されてこなかったからだろう。
「テオ、艦隊総司令に通達しろ。一ヶ月後、進発すると」
「御意。手勢はいくらまで用意いたしますか?」
「四千隻。ただし、その外観には注文を出させてもらおう」
*
二人が退室した後、俺はひとり執務室でとある破片を見つめていた。
それはネイズラハットの足首だった。二ヶ月と少し前、俺がネイズラハットに会ったときにあいつが落としていった、体の一部。
お遊び気分でそれに洸粒を流し込んでみた。すると破片はブルブルと震え、少しして俺の体の中に溶けていった。
「え?」
直後、俺の体が熱くなった。ブルブルと身体中の細胞が震えていた。
何かやばい、と感じた。
咄嗟に攻身で体を奮い立たせた。それまでとはまるで異なる、大量の洸粒が俺の体から溢れ出した。
自分でも意識していないのに、洸粒がアステラ能力を起こしていた。周りの机や椅子、壁が能力で歪んでいった。
どうにかして、それを抑えたとき、部屋はめちゃくちゃになっていた。壁はズタズタ、床はボコボコ、窓はバキバキ。時計を見てみると、たった数秒しか経っていないのに、とてつもない荒れっぷりだ。
「アリーナに怒られるな、これは」
*
「あーあ。クソがよぉ」
窓だらけの空間でネイズラハットは逆さになってレアンを見ていた。
レアンが海賊艦隊を壊滅させたとき、彼がウロヤと戦っていたとき、ずっと彼を見ていた。
そんなネイズラハットの率直な感想は「こいつキモっ」だった。
数多くの人間を見てきたネイズラハットからしても、レアンの生存能力は異様だった。
レアンを殺すため、色々とやってみった。海賊をけしかけたり、病気にさせてみたり、手術中に心臓を動かしたり、ウロヤを強化したり、と色々画策したが、そのことごとくをレアンは乗り越えた。
「常人なら死ぬのに生きてるとか、チョーキモキモなんですけど。これもう死ななくないです?」
なんなら嘘を教えたりもしたが、それでも死ななかった。
正直に言って、どうやって殺せるのかまるでわからなかった。部下も順調に成長しているようで、突発的に強者をぶつけるのも短絡的にすぎる。
「でも、面白いな、こいつ」
なかなか壊れないおもちゃにネイズラハットは数百年ぶりの興味を覚えた。時折、出てくる自身の予想に反して奮戦する人間に対して抱く興味だ。
「どこまでやれば壊れるんでしょーか?ぐふふふ、ちょっと試したくなっちゃう!!」
ふわふわと自身の空間を漂いながらネイズラハットは次の試練を画策する。試練、もとい嫌がらせとも言うが。
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