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アンディーク少年自警団

 俺の返答にクリントは肩をすくめた。きっとバカだとか思ったのだろう。


 だが、俺は腐っても皇帝だ。皇帝が誰かにおもねることがあってはならない。


 「お前が、俺の仲間になれ」


 これが正解だ。俺が奴らの中に入るのではなく、奴らが俺の中に入ることこそ、正解だ。


 クリントは目を丸くする。こんな返しは想定していなかったらしい。


 ラナは呆れていた。バカがいる、とか思ってそうで少しだけムカついた。


 「えーっと?あんたの仲間に俺達が?」

 「そうだ、俺の下につけ。そうすればお前らの悩みを解決してやるぞ」


 さっきまでの無邪気な様子とは打って変わってクリントは目を細めた。俺の言葉がなんらか、琴線に触れたようだ。それはつまり、俺の言葉がクリントの図星をついたということだ。


 「お前らの悩みを端的に言い表すなら、そうだな。ノースガーター一派と争っていること、だろ?」

 「なんで、そう考える?そもそもノースガーター一派と俺らがなんで争ってる前提で話すんだ?」


 「単純だ。わざわざ貧民街で怖がられているノースガーター一派を倒そうとしている俺達に話しかけてくる。そればかりか、情報提供さえしようとする。俺達を最初から見張っていたけど、ノースガーター一派には協力しなかった。他にもまだまだあるが、この辺りでどうだ?」


 わざわざ俺達に接触してくるくらいだから、ノースガーター一派に含むところはあるのだろう。それで敵対まで論理を飛躍させるのはちょっと無理があるが、今はその前提で話を進めていく。


 そも、クリントの顔に「正解」と書いてあった。


 「仮に俺らがノースガーター一派と敵対してたとして、お前は俺らに何をしてくれるんだ?」

 「勝たせてやる。なんならノースガーターの首を取ってこようか?」


 クリントの問いに俺は即言した。もったいぶって、相手を焦らす必要はない。


 「——わかった。まだ、お前の名前を聞いてなかったな。なんて名前だ?」

 「レアンだ。レアン・ハイラント・ソル・アルクセレス、それが俺の名前だ」


 「はは、おいおい。ほら吹きとかやめとけよ。皇族の姓だろ、それ」


 クリントはからからと笑う。どうやら俺の言ったことを信じていないらしい。


 周りの反応も似たり寄ったりだ。そもそもアルクセレスが皇族の苗字だと知らない子供もいて、背の高い奴らに「アルクセレスってなーに」と聞いていた。


 「いや?俺の姓はアルクセレスだ。嘘なんて言ってどうするんだよ」

 「あー。うん。まぁ。その、なんだ?それでいいよ、もう。ちなみにそっちのお嬢さんは?」


 「ラナ・ニキャフ。見ての通り、チェネレント人よ」

 「そうだな。ああ、別に俺らはチェネレント人だからって差別するつもりはないぞ?俺らの仲間にチェネレント人がいるしな」


 言われてみれば俺とラナを囲んでいる子供達の中にラナと同じ特徴を持つ少年や少女がいた。さしずめ、クリントは貧民街の子供達のリーダーといったところか。名前はなんていうんだろう。


 「俺達はアンディーク少年自警団!この貧民街の治安を守る若き(ブレイブ・)(ウォーリアー)なんだぜ?」


 勇士と書いてブレイブ・ウォーリアー。なんだか、痛々しいな。


 「そんじゃぁまずはレアンとラナには俺達の拠点に来てもらおうか。仲間に紹介したい」

 「それはいいけど、俺の質問に答えてないだろ。俺の下に着くのか、着かないか」


 クリントはその問いに少しだけ考えるそぶりを見せ、すぐに苦笑しながら「保留で」と答えた。



 クリント達の拠点は貧民街の東側にある大きな廃病院にあった。かつて、何十代か前の代官が建てたそれはアーコロジーが建設されるにあたって放棄され、使われなくなったのだと言う。


 何百年も前の建造物だろうに未だにちゃんと形を保っているのはさすがは銀河世界の超文明といったところなのだろう。今なお老朽化していないどころか、真新しさすら感じさせた。


 クリントに案内され、俺はかつて医院長室として使われていた部屋に入った。そこには事前にクリントが呼んでいた、アンディーク少年自警団の幹部達が集まっていた。


 見回す限り、15人の少年と少女が部屋の中にいた。そのうち何人かは俺に警戒の眼を向けていた。


 当然と言えば当然だろう。俺は部外者、警戒してしかるべきだ。


 「こいつはレアンだ。ノースガーター一派と一戦交えるにあたって、俺達に協力してくれることになった!!」


 クリントが俺を紹介する。反応はさまざまだった。歓迎する者、無関心な者、そして警戒する者といった感じだ。


 「クリント!なんで部外者なんて連れてくるんだ!俺達でもノースガーター一派とは十分に戦えるぞ!!」


 早速、非難の声があがった。声を上げたのはハンチング帽子を被ったツンツン頭の少年だった。


 「そんなに邪険にするなよ、ジュリアス。こいつは強いぞ?」

 「だけどよそ者だろ。それに武器だって剣一本じゃないか。そんなんで戦力になるのかよ!」


 「なるさー!だってこいつは騎士だぞ、騎士。それにもう一人いるんだ、同じ騎士が。騎士が二人もいればもう勝ったも同然だろ!!」


 騎士という言葉を聞いて俺を訝しんでいた連中の目が変わった。それでもまだ懐疑的な目を向ける奴らはいた。


 「へん。騎士がなんだってんだ。そんなんより俺の方がよっぽど力になるぜ」


 ジュリアスと呼ばれた少年はあくまで俺の参加に反対な様子だった。するとクリントがジュリアスを煽った。


 「そー言うなよ。なんならお前が実力を確かめてみるか?」

 「おーいいぜ、やってやるよ!」


 席から立ち上がり、ジュリアスが俺の前まで走ってきた。背丈は俺よりも高い。しかしやはり強そうには見えなかった。


 「戦うなら、もっと広いところでやれよ?」


 クリントに言われ、俺達が移動したのはリハビリルームだった。ほどほどに広く、動くのに支障はなかった。


 「互いに武器は禁止。ステゴロでやれよ」


 渋々俺は剣をクリントに預けた。ジュリアスはそれを見て、舌なめずりをした。剣がないから俺に勝てるとかおもってるのだろうか。だとしたら、とんだ見当違いだ。


 「じゃぁ、はじめ!!」


 クリントの号令と共にジュリアスが俺めがけて突進してきた。本人は全速力のつもりなのかもしれないが、とても遅い。あくびをしたくなるほどだ。


 すいっと右に避けてやると、まるで闘牛のようにジュリアスは俺の前を通り過ぎていった。そんなことを何度かやって見せると、ジュリアスは「避けるな」と叫び始めた。


 「別に避けたらダメなんてルールはないだろ?」

 「うるせー!!ムカつくんだよ!!」


 ジュリアスが殴りかかってくる。それを受け止める。まるで力がこもっていない軽い拳だ。掴んだその拳を優しく握りしめてやると、ジュリアスは「ギャ」と悲鳴を上げた。


 「ほら、避けずにやってるだろ。次はなんだ?キックか?タックルか?それともヘッドバット?なんでもいいぜ、避けずにおいてやるよ、ほらほら、ほらって、いたぁ!!!」


 不意に背後から殴られた。小石のようなジュリアスの拳とは違う。巨岩で殴られたような衝撃に眩暈がした。


 「バカ、子供相手になにやってんの」


 俺を殴ったのはラナだ。彼女は少し怒っていた。


 「大丈夫?ごめんね、うちのバカが」

 「俺、皇帝だぞ?」

 「言ってろ、クソ皇帝。——ほら、立って。よーし、よーし。泣くな、泣くなー。泣いたらカッコ悪いぞー」


 まるでベソをかく子供をあやすようにジュリアスをラナは立たせる。歳はあまり変わらないだろうに、完全に子供扱いしていた。


 「なんか、釈然としないな」


 これでは俺が完全に悪役だ。やはり、少しは殴られてやったほうが、いやそれはないな。なんで俺が殴られなくちゃいけないんだ。


 お疲れ様、とクリントが労ってくれたが、大して付き合いもない野郎に労われても嬉しくもなんともない。とはいえ俺に実力があると周りが認めたのは事実だ。


 おかげで文句を言ってくる奴はいなくなった。さて、それじゃぁノースガーター一派について話してもらおうか。



 ノースガーター一派はコリント曰く、元々はただのチンピラだったのだという。しかし、ここ数十年で急激に戦力を拡大させた、誘拐やら、ドラッグの売買やらをしているらしい。これまではレーザー銃なんて持っていなかったそうだ。


 「なんでいきなりそんな羽ぶりがよくなったんだ?」

 「代官様と懇意にしてんのさ。貧民街のめぼしい女を奴隷として売ってるんだよ」


 だからノースガーター一派にはなかなか手が出せなかったし、出せないんだ、とクリントは言う。


 「じゃぁ、代官を潰さないとダメだろ」

 「え?あ、いや。それは無理だって。ノースガーター一派を潰せれば俺はそれでいいよ」


 「ふーん。それだと、また第二、第三のノースガーター一派が出てくるけど?」

 「つ。しょうがないだろ。それまでに俺達が戦力を整えればそれで」


 短絡的だな。俺なら代官を殺す。代官が諸悪の根源なら、代官を殺せばいい。


 「俺が殺そう。俺ならお前達をアーコロジー内に手引きできる」

 「そういうのはいい。とりあえず、あんたにはノースガーター一派に仕掛ける時に協力してくれりゃいいんだ」


 「ふーん。けど俺ならできるぞ?」

 「だいじょーぶだって。とにかく俺達に協力してくれればそれでいい」


 語気を荒げ、クリントは固辞した。


 異様に強く固辞するのは一体どうしてだ?別にそんな語気を荒げるようなことでもないだろ。


 「わかった、わかった。じゃぁ、いつその戦いってやるんだ?」

 「ああ、それはな——」


 その時だった。不意に扉を開いて入ってきたやつがいた。


 「クリントさん!!大変です!!ジュリアスさん達が、ジュリアスさん達が!!」


 「どうした!?」


 息を切らしながら、入ってきた子供はこう叫んだ。


 「ジュリアスさん達が捕まりました!!」


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