表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋強盗  作者: 御神大河
96/203

自主的に

 藍川の着替えのためオレは部屋を追い出される。

 オレが部屋を出ると藍川の父親と母親が待っていた。

 どうやら娘のことが心配でずっと部屋に聞き耳を立てていたようだ。


「しっ!」


 藍川の父親が口を開こうとした瞬間、オレは自身の口に指をあて声を出さないように指示する。

 このタイミングで下手に両親が心配してしまうと、その負の雰囲気が伝播し、藍川が外に出ることに後ろむしろ向きになりかねないからな。

 意図を理解したのか、父親は即座に口を閉じ、音を殺しながら別の部屋へと下がっていった。

 母親も口を手で覆いながら、別の部屋に撤退すると隙間から覗いている。


「……お待たせ」

「おう」


 って、ジャージかい!

 これは全くそういう対象としては見られてないな。陰浦とかは気合い入れておめかししてくれてたもんな。

 それにしたってもうちょっとオシャレしてくれても……。


「この辺の解説しながら案内してくれよ」

「いいよ」


 オレたちは藍川の母校へと出発する。

 藍川たちの過ごす街もオレの地元とそんなに変わらないな。

 商店街や駄菓子屋が近所にある分、多少こちらの方が人の営み感があるかもしれんが。


「この駄菓子屋まだあったんだ!」

「よく来てたのか?」

「うん。正義くんも来たことあるよ。

 ここの図書館も正義くんと来たよ。夏休みとか冬休みの宿題一緒にやったりしたなー」


 藍川は自身の思い出を交えながら地元を案内してくれる。


「おっ、ここが写真の公園か?」

「そう。懐かしなー。高校生になってから公園来なくなっちゃたなー」

「おばあちゃんみたいなこと言うな」

「そう?おばあちゃんになったらむしろよく来るようになるんじゃない?」

「確かに……結構櫟井と遊んでたのか?」

「うーん。正義くんの住んでるところはここから遠いし、小学校も違かったから土日どっちかの週に一回とかだったかな。だからそうでもないかも」


 いや、違う学校の子と週一回はかなりの頻度だろ。

 小学生だとそうでもないのか?


「毎回櫟井の方がここまで来てたのか?」

「ううん。私も向こうに行ったりしたよ。まぁ、お小遣いも少なかったし多くはなかったけど」

「小学生だと電車賃も馬鹿にならないもんな」


 話題に上がった藍川の家の最寄り駅では、中学生たちが楽しそうに会話をしている。


「湾月くん!?」


 オレは唐突に声をかけられる。

 オレが声のした方を向くと同時に、藍川はオレの背中に隠れる。


「桜ノ宮?」

「あなたここでなにをしているの?」

「決まってんだろ。たぶんお前と一緒だよ」

「そう……。じゃあ、一緒に藍川さんの家に行く?」

「その必要はないと思うぞ」


 そう言うとオレは自分の背中を指差す。

 桜ノ宮はオレの背中に隠れている藍川を覗き込む。


「え!?藍川さん?」

「久しぶりまっきー……」

「え、なに!?どういうこと!?説明して!」


 桜ノ宮はオレに食ってかかってくる。


「まぁ、その~足繁く通った結果かな?」

「どういうことかしら?もしかしてわたしと藍川さんの家に行った後も毎日行ってたの!?」

「まぁそうだな」

「なんでわたしも誘ってくれなかったのかしら!?」

「なんでって……」


 桜ノ宮を誘ったら用事があろうと意地でも毎回ついて来ようとするだろ?

 そんな負担になることはさせたくない──って言っても納得しないだろうな。


「特に理由はねーよ。強いて理由をつけるなら、オレが普段単独行動で誰かと動くことがないから誘うって概念がなかったからかな。

 それより、桜ノ宮も一緒に藍川さんの母校に行かないか?」

「藍川さんの母校?」

「そう。オレのわがままで、藍川さんとちょうど向かってんだ。

 詞とか櫟井たちとかも同じ学校だったんだって」

「へー、そうなの。藍川さん、わたしもご一緒していいかしら」

「う、うん」


 不登校状態に負い目があるのだろうか?藍川は桜ノ宮に少し遠慮しているように感じる。

 藍川の通っていた中学校は藍川の自宅から駅を挟んで少し歩いたところにあった。

 非常に一般的な学校であり、特段変わったところもない。

 校庭からは部活に励む生徒たちの声が響き渡り、校門からはおしゃべりを楽しみながら生徒が帰宅している。


「ここが藍川さんたちが通った学校なのね」

「うん。久しぶりに来たなー。四階の一番端っこの教室、あそこが中学三年の時の教室だよ」

「一年生と二年生は?」

「一年の時は二階だったと思うけど覚えてないなー。二年の時はここからは見えない四階の教室だったよ。

 あーあ。中学の時もまっきーと同じ学校だったらよかったのに……。

 まっきーの中学校時代ってどんな感じだったの?」

「そうね──」


 オレは一歩下がり、桜ノ宮と藍川がお互いの中学時代の思い出話を黙って聞く。

 二人の会話はオレのとって非常に価値あるものであった。なんせ、労力を有することなく攻略の手掛かりを得ることができたからな。

 桜ノ宮はお嬢様ということもあって幼稚園から小学校中学校と非常に校則の厳しい女子校で過ごしたそうだ。

 そこでは、通常の授業以外にも華道やら茶道やら舞踊やら裁縫やらいろんなことを学ぶことになるらしい。

 また、学校には寮がついており、外出するには目的と目的地を記載した許可書が必要らしい。

 高校に進学する時に桜ノ宮は親に反発して、大学院まであるその学校を外れ翁草高校にやって来たそうだ。髪なんかもその時の勢いで染めたらしい。

 桜ノ宮はネガティブな思い出が多かったが、藍川はポジティブな思い出が多かった。

 赤点や追試は厳しかったが、校則は比較的緩くみんなでオシャレもしたそうだし、部活やオリエンテーションなども盛んで生徒同士仲が良かったそうだ。

 クールを気取っている櫟井が中学の時は結構ヤンチャしており、修学旅行の際には夜中に先生に隠れて女子部屋にも足を運んだという話はイメージと違い過ぎて驚いた。


「なにを黙って聞いているのかしら?あなたも会話に入る努力をしたら?」


 ずっと黙っているオレに気付いて桜ノ宮はオレにも話を振ってくる。

 まぁ、話の振り方はひどいもんだが。

 だがまぁ、ちょうどいい。オレの指針は既に決まった。


「ごちゃごちゃと試行錯誤しようと思ってたけどやっぱやめるわ」

「はあ?急になんの話かしら?」

「藍川、学校に来い」

「え!?」

「ちょっと!?」

「中学校の思い出を楽しそうに話してて、藍川は少なくとも学校に来るのが嫌いじゃないってことはわかった。てことは、来づらい理由は人間関係だろ?」


 オレは藍川に手を差し出す。


「一人が不安とか怖いとか恥ずかしいとか思ってんなら、オレの手を取れ。オレがいる限りお前が一人になることはない。オレがお前の味方になってやる。まぁ、来たくない理由がオレじゃなければだけどな」

「別に湾月くんが理由じゃないけど……どうして?」

「来いっていう理由か?」

「うん」

「オレがそうしたいから。それだけだ。

 別に明日からすぐに来いとは言わない。別に焦る必要もない。勇気が湧いたら来ればいい。

 で、どうすんだ?」


 沈黙が流れる。

 トーカも桜ノ宮も藍川の行動を固唾を飲んで見守る。

 藍川は差し出したオレの手へとゆっくりと手を伸ばす。

 しかし、最後の最後に勇気を振り絞れなかったのか、手を引こうとする。

 オレは引っ込められようとしている藍川の手を迎えに行き、握る。


<ターゲット登録完了。リセットポイントが設定されました>


「必ずお前を学校に来たいと思わせて見せるから。覚悟しとけよ!」

「……」


 藍川からの返事はなかった。



 ──藍川の家からの帰り道。


『鏡夜が自分からターゲットに決めたの初めてね』

「そういやそうだな」

『なんで?』

「勝機がある……というか、攻略の道筋が見えたからかな」

『ふーん。そうなんだ……』


 まぁ、トーカの引っ掛かりもわかる。今までの攻略とは違う形になりそうだからな。

 さて、明日からの学校は荒れるかもな。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の96話です!!

今回は自主的なターゲット設定回!!

ここにきて初!!

ここからクラスの状況と鏡夜の立場にも変化が!?

次回は櫟井正義回!!お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ