アルバム
「楚麻理!?」
部屋から出てきた藍川はずっと布団に包まっていたのか髪は取っ散らかり、服はしわくちゃだ。
ただ、起きてはいたのだろう、寝起きという感じではない。
「学校に行くとか絶対にやめて」
「でも……」
「そうよ。お父さんもお母さんも心配してるんだから」
「ちょっとメンタルきついだけで大丈夫だって。親が学校に行くとか本当に無理だから」
まぁ、両者の言い分もわかるけどな。
親としては娘が不登校状態であるのは当然心配だ。
そして、藍川自身が親に事情を話していない以上、親に出来ることはただひたすら見守るか問題を解決するために闇雲にでも行動するかのどちらかしかない。
ただ、藍川としては親が学校に来るなんて堪ったもんじゃないだろう。
通常時でさえ子ども様子を親が学校に確認しに来るのは、子どもにとっては恥ずかしいのに、今は状況が状況だからな。そんな事をされたら、ますます登校しづらくなる。
だが、藍川の発言的にも今のままではよくないとわかっているようだし、学校にも来たいと思っているみたいだ。
本人にまだその気があるならチャンスがある。
「藍川さん久しぶり。ちょっとだけいいか?」
オレは藍川と藍川の両親の言い合いを遮るように席を立つと、藍川の部屋を指差す。
藍川は親と話されるよりはマシと言った様子で、渋々オレが部屋に入るのを許可してくれる。
オレは藍川の両親に小さく頭を下げると藍川の部屋へと入る。
「久しぶりだな。顔が見れてよかったよ」
「毎日来て暇なの?」
「まぁな。オレは思考情報部にしか入ってないし、思考情報部は現在ほぼ活動休止状態だしな」
「あっそ」
うーん。警戒されてるな。
苦手なアイドリングトークで頑張ってほぐすか。
「藍川って今スッピン?」
「は!?急になに!?」
藍川は慌てて顔を隠すと髪を梳かし始める。
いや、今さら遅いだろ。
「いや、いつも変わんねーなと思って。いつもは化粧してるよな?」
「当たり前でしょ!はー、ここ最近してなかったから完全に忘れてた。最悪」
「別に気にすることないだろ。スッピンだろうと美人なんだから。それに、オレだって化粧してないぞ」
「男と女は違うの!」
「はいはい」
スッピンについてはダメだったか……。
「つーか、部屋きれいに整理されてんのな。お母さんもきれい好きぽかったし遺伝?」
オレは藍川の部屋を見回す。
すると写真立てに飾られている写真が目に留まる。
「あんまり人の部屋見ないでよ」
「なぁ、あの写真、一緒に写ってるの櫟井だよな?」
「え……うん」
「幼なじみだったんだな」
「幼なじみってほど仲良くなかったけどね。櫟井くんにとっては私なんて昔から知ってる人の一人だよ。いつも後ろからついて行ってただけだし……」
「ふーん。アルバムとかないの?」
「え!?あるけど……」
「見せて」
「嫌!」
「お願い!お願いします!」
オレは両手を合わせて頭を下げる。
ゲームでは過去の関係性がこじれた結果、問題が起こるのはお約束なんだ!許可がもらえるまで頭を上げる気はないぞ!
「えー、まじで嫌なんだけど……」
「お願いします!この通り!」
なおも渋る藍川にオレは土下座する。
この際体裁とか構ってられるか!こっちは桜ノ宮の攻略、つまるところ命が掛かってんだ!
「……」
「お願いお願いお願い!」
「はあー。ここにはないからちょっと待ってて。勝手に部屋のもの触んないでよ!」
「わかってるって」
オレの粘り勝ちだな!
藍川は小学校時代と中学校時代のアルバム両方を持ってきてくれた。
オレたちはまず小学校時代のアルバムから見る。
「これ、もしかして圷くんか?」
「そうだよ。こう見ると今と結構違うね」
「いやいや、もはや別人だろ。すげー真面目そうじゃん!
あれ?小学校って櫟井と一緒じゃなかったの?小学校の卒アルには写ってないみたいだけど」
「うん。櫟井くんとは小学校の時習ってたピアノのコンクールで会ったんだ」
ピアノのコンクール!?
そう言えば、櫟井の奴はボンボンだったな。
「今はピアノやってないの?」
「うん。中学の時に部活がやりたくて辞めちゃった。今思うと勿体なかったなー。私、入賞とかして結構上手かったんだよ」
「また始めればいいじゃん」
「無理。ピアノの練習って一日サボるだけでも下手になっちゃうの。三年以上やってない私はもう全然だよ」
「そうなのか」
どんだけレベルの高い世界でやってたんだよ。
プロの思考だろ。
「これがピアノコンクールの写真?」
「そう」
『へー。可愛いじゃない!』
やっぱりドレスアップとかするんだな。
ん?
「あの櫟井と写ってる写真、ピアノコンクールの時じゃないよな?」
「あれはうちの近くの公園で撮った写真」
「櫟井も近所なの?」
「ううん。ここからだと6駅は離れてるよ」
「ふーん」
6駅って結構離れてるな。
「で、これが中学のアルバム?」
オレは中学のアルバムも開く。
小学校に比べたら年数は半分くらいなのに分厚さは中学の頃の方が勝ってるな。
中学の頃の充実ぶりがうかがえる。
「おっ、見知った顔が増えたな。ってこれ詞か!?」
「うん。それ瑠璃花くんだね」
「詞って藍川さんと同じ中学だったのか……」
中学生詞、かわいい。
この頃の方が髪が長いのか。
「湾月くんが知ってるところだと、これが正義くんでこれが透ちゃん、でこれが優立ちゃん」
「みんな中学一緒だったんだな」
パラパラと捲ると学校行事などのいろいろな写真が収められている。
こう見ると藍川たちの交流の変遷も見えるな。
どうやら、藍川と櫟井は中学に入った当初から仲が良かったようだ。よく一緒に写っている。
その後、圷が増え、そして姫路と根小屋って感じか。
ただ、中学時代が進むにつれ櫟井の隣に写っているのは姫路と圷が多く、藍川と櫟井の距離は開いてるようにも見えるな。
「高校にはみんなで同じ学校に行こうとか話し合ったのか?」
「ううん。一応どこに行くか聞き合ったりはしたけど、私の中学校は進学校だしこの辺の高校だと翁草高校に進む人が多かったから自然に。私もそんな感じだったし。
湾月くんはどうしてうちの学校入ったの?」
「そんなに頭悪いのになんで翁草高校って意味合い含んでねーだろうな?」
「えー。含んでないよー」
「怪しいな……。うちの学校の試験ってマークシートだっただろ?だからワンチャン受からないかなーとか思ったら受かったんだよ」
「うそ!?マークシートとは言え最低でも6分の1、問題によっては20の選択肢から5つを当てはめないといけないとかもあったじゃない!?それを勘で突破するとかどんだけの豪運よ」
「いや、別に全部勘ってわけじゃないからな!?わからないところを勘に頼ったんだよ!
まぁ、かなりの数わからなかったけど……って、オレの試験のことはいいだろ!」
「でも、今日一の驚きだったよ」
この話、トーカともしたな。
それにしても藍川の気持ちだいぶ持ち直したんじゃないか?
オレってカウンセラーの才能ある?
もう一押ししてみるか。
「藍川さんが通ってた中学校って進学校ってことはそこそこ遠いの?」
「そうでもないよ。歩いて20分くらいかな」
「あっそうなんだ。見てみたいなー。案内してくんない?」
「え!?」
「お願いします!」
オレは再び両手を合わせて頭を下げ頼み込む。
「まぁ、いいけど……」
「マジ!?ありがと!じゃあ、行こうぜ!」
オレは藍川の気が変わらないうちにと急かす。
しかし、藍川は動こうとしない。
「どうした?早く行こうぜ!」
「部屋から出て」
え!?もう心変わり!?
「いやいや、中学見に行くんだろ?早く行こうぜ!」
「出て」
「ちょっとだけでいいからさ!」
「着替えるから出てって!」
「あっ、すんません」
オレはそそくさと藍川の部屋から出る。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の95話です!!
今回は藍川楚麻理の小学校時代と中学校時代の話!!
題材は重いけど話は重くならないよ!
デリカシーない方が心を開きやすかったりするよね!
次回は藍川楚麻理の地元回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




