三顧の礼?
藍川の家に行った次の日も、結局藍川は学校に来なかった。
まぁ、オレたちが顔出した程度で来るなら、そもそも一週間以上も不登校になってねーわな。
「なあ、湾月。藍川さんちに行ったんやろ?どやった?」
「藍川さんには会えなかったよ」
「そうか……」
桜ノ宮もそうだが、村雨もずっとテンションが低い。
隣の席の負のオーラがすごくて空気が淀んでいる感じがする。
詞も表には出さないが気にしてるんだろうな。明らかに口数が少ない。
「はあ!?だから、知らないって言ってんじゃん!!」
突如、教室の前の方から大声が発せられ、クラスメイト全員がそちらを見る。
どうやら桜ノ宮と姫路が揉めているようだ。
なにやってんだ、あいつは!?
桜ノ宮を止めようとオレが動き出すより早く、櫟井が二人の間に入る。
「どうしたの、二人とも?」
「こいつがいきなり楚麻理について何か知らないかってしつこく聞いてきたの!」
「しつこく?一度、本当に?と確認しただけでしょ?それほど、必死になることかしら?」
「知らないって言ってんのに疑ってきてんじゃん!気分悪いんですけど!?大体、なんで透に聞いてくるわけ?知るわけないじゃん!」
「別にあなただけに聞いたのではなく、あなた方に聞いたのだけれど?そして、あなた方に聞いたのは以前より藍川さんと教室でも部活でも一緒だからよ。何かおかしなところがあるかしら?」
「なにその言い方!?マジでムカつくわ!大体、あんたらだって最近楚麻理と仲良くやってるんでしょ?あんたらの方こそ何か知ってんじゃないの?」
「知っていたらあなたたちにわざわざ聞いたりしないわ。それくらい理解できないかしら?それと、あなた方はよく一緒にいたのに、藍川さんが登校して来ていないことを疑問にも気にもかけていないようだから何か知ってるのかと思ったのよ」
「さっきから聞いてればさ、明らかに透たちのこと疑ってるよね?遠回しに言ってないでハッキリ言ったら!?そもそも、楚麻理が学校に来ようが来なかろうが透たちにとってはどうでもいいし!」
「あなたね──!!」
桜ノ宮が完全にヒートアップしたところでオレは止めに入る。
「待て待て待て。落ち着けって。
藍川さんのことが心配なのはわかるが、一旦冷静になれよ」
「透もだ!疑われたように感じてイライラしたのはわかるが、言い過ぎだ!」
オレとほぼ同タイミングで櫟井も姫路のことを制止したようだ。
桜ノ宮と姫路と言うクラス内でも特に目立つ存在同士のぶつかり合いが発生したため、教室には嫌な緊張感が張り詰めている。
「みなさーん、おはようございま……す……?あれ?……えっと……どうかしましたか?」
担任の色増先生が能天気に入って来てくれたおかげで、教室内の緊張の糸が幾ばくか緩む。
オレと櫟井はそれぞれ桜ノ宮と姫路を席へと座らせる。
「あっ……」
席へと戻ってきたオレになにか声をかけようとした村雨であったが、口を噤んでしまった。
詞も心配そうにしているがなにも言わない。
色増先生も現在のクラスの事情は理解できているだろうが、なにもできないと言った様子でオロオロとしている。
放課後を知らせる鐘が鳴ると、桜ノ宮はイライラした様子で帰ってしまった。
ここ最近はずっと思考情報部に出てたんだけどな。
おかげでオレも二学期に入ってから初めて放課後即座に帰宅できる状況となった。
クラスの連中もそそくさとそれぞれの部活へと向かい、教室にはオレとトーカだけが取り残される。
『なんか藍川さんが来なくなってからクラスの雰囲気よくないわね』
「いいことだな。それだけみんな気にしてるってことだ」
『それは……そうね。で、どうするの?藍川さんのこと何とかするんでしょ?』
「ああ。とりあえず、これから放課後毎日藍川の家に足を運ぶ」
『はあ?それ迷惑になるんじゃないの?』
「かもな。
オレは専門家じゃないからな、どうすることが正しいとかどうすれば藍川のためになるとか正直わからん。
かと言って何もせず指を咥えてるだけというつもりもない。だから、たとえ間違っていたとしても行動させてもらう」
『それが、毎日家に押しかけることなの?』
「ああ。これはゲームで最も多かった解決パターンだからな!まさにオレのやり方ってわけだ!」
『またゲーム……でも鏡夜はやると決めたらやるからね。
仕方ない、付き合ってあげる』
それからオレは毎日藍川の家へと押しかけた。
まぁ、桜ノ宮と行った時以外はインターホンを押しても誰も出てこなかったんだが……。
どうやら、オレたちが最初に行った日はたまたま藍川の母親が家にいたようで、基本的には家を空けているらしい。
なのでオレは毎日毎日、今日学校であったことを記した手紙を投函することにした。
ぶっちゃけこれもゲームの知識だ。
手紙を投函することで毎日来ているという証明にもなるし、温かみもある。
実際は、ゲーム内では連絡手段がないという設定だから、手紙で何とかすることがほとんどなだけなんだけどな。
『今日もダメだったわね』
「そうだな」
『手紙は藍川さんに届いているのかしら?』
「うーん。あの母親なら届けてくれてるとは思うんだが……」
確かに手紙が届いてなかったら、オレが毎日足を運んでいることにも気づけないよな。
今度からはただの近況報告じゃなくて、返信が返ってきそうな内容にしてみるか。
それからさらに数日、オレは放課後欠かすことなく藍川家を訪れた。
『毎日毎日ストーカーみたいね』
「やめてくれ。そう言われると通いづらくなる」
『誰か誘ったら?桜ノ宮さんとか』
「桜ノ宮はな……あの後からずっとピリピリしてるからな……」
『あー、姫路さんと一触即発って感じだもんね』
「それに、オレが毎日通ってると知ったら桜ノ宮も間違いなく一緒に来るようになるだろうし、それは負担になるだろ。オレは今までの攻略に比べたら屁でもないけど。
後、誰かいるとトーカとも相談できなくなるし……」
『そ……そうね』
ピーンポーン
今日も今日とて藍川家のインターホンを押すと、今日は返事があった。
「はーい」
「!?あっ、すみません。楚麻理さんのクラスメイトの湾月ですけど」
「ああ、湾月くんね。ちょっと待っててね」
今回はすぐにドアが開いた。
「いらっしゃい。上がって、上がって」
「はあ?お邪魔します」
なんか待ってましたという感じだな。
「毎日お手紙ありがとね。ちゃんと楚麻理に渡してるから」
「ありがとうございます」
手紙はきっちり藍川に届いているようだ。
この様子だとオレが毎日通っているのも伝わってるな。
やり方はアレだがクラスメイトが自分のために毎日通ってるとわかっていれば、藍川も多少思うところがあるだろう。
オレが藍川の母親についてリビングにお邪魔すると年配の男の人が待っていた。
少し白髪の生えた立派な社会人といった感じだ。
会社の上司とかはこんな感じなんだろうな……。
『藍川さんのお父さんかしら?』
だろうな。
陰浦の家にお邪魔した時にも似たような展開あったな。
「君が湾月くんか?」
「は、はい」
「そうか。座って、座って」
オレは言われるがままに藍川の母親が引いてくれた椅子へ腰かける。
「私は楚麻理の父だ。毎日手紙まで送って娘を心配してくれているそうだな。ありがとう」
藍川の父親は深々とオレに頭を下げる。
「いえ、そんな。それに、クラスにはオレ以上に心配してる奴もいますんで……」
「そうなのか……。湾月くん、学校で娘になにがあったか知っていたりするかい?
娘に聞いてもなにも答えてくれず、情けない話だが親なのに何もしてあげられていないんだ……」
「すみません。オレもなにも……」
もちろんオレなりの推測はある。だが、不確定な情報は伝えるわけにはいかない。
「そうか……やはり私が学校行って担任の先生に直接聞くしか……」
「やめて!!」
藍川の父親がそう言った瞬間、藍川の部屋の扉が音を立てて開いた。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の94話です!!
今回は連続訪問回!!
迷惑だろうと知ったことか!!
桜ノ宮の口調は嫌味っぽいのがデフォです。
次回は藍川楚麻理の過去回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




