夏休み最後の思い出
ついに長いようで短かった夏休みも最終日である。
すでに日は完全に沈み、学生としては後は寝て明日を迎えたら新学期という状況だ。
しかし、オレにとってはここからが本番だ。
この日のために準備を進めてきたんだからな。
オレはそーっと自宅を出る。
幸い、彩夜も楓も夏休みの宿題がいまだに終わっていないようで、夕食を食べお風呂に入った今はそうそう部屋から出てくることはないだろう。
オレは陰浦の家へと向かう。
『あんまり緊張してなさそうね?自信あるの?』
「いや、ただ今回に関しては失敗しても問題ないんだ。
陰浦栞は自分のことを他人にベラベラしゃべるようなタイプじゃないからな」
問題があるとすれば陰浦がまだ起きてるかどうかだ。
夜型で昼夜逆転しているとは聞いてはいるが、一応明日は学校だしな。早めに寝ている可能性が無きにしも非ずだ。
オレは陰浦のマンションの前で陰浦のスマホに電話をかける。
陰浦はワンコールで出てくれた。
「もしもし、栞。急にごめんな。今時間大丈夫?」
「は、はい大丈夫です。どうしました?」
「今から会えないかな?栞のマンションの前にいるんだけど」
「わ、わかりました!あっ……ちょっと待ってもらってもいいですか?」
「もちろん。じゃあ、待ってるね」
オレはマンションの前で陰浦を待つ。
『なんで電話なの?今時メッセージでしょ普通』
「電話だと内容が履歴として残るからな。記憶を消すんだ。オレの痕跡は少ない方がいい」
『なるほどね~』
できれば電話の履歴も残さない方がいいんだろうが、連絡先はもう交換してしまっているしな。
これくらいなら取り返しのつかないことにはならないだろう。
「お待たせしました」
陰浦が降りてきたのはオレが連絡してから1時間くらい経ってからだった。
バッチリおめかししており、髪もほんのりと濡れている。
急に来たとは言え準備が長い……いや、オレのために陰浦がわざわざおめかししてきてくれたんだ、男として誇りに思おう。
「急にごめん。大丈夫だった?」
「はい。大丈夫です。パパもママも寝てたので、こっそりと抜けてきちゃいました。えへへ。
それで、どうしたんですか?」
「これ」
そう言いながらオレは手に持っていたビニール袋の中身を見せる。
「花火?」
「そう。約束したしな。祭りの花火ほど盛大なものじゃくて悪いんだけど……」
「いいえ、嬉しいです」
陰浦はにこりと満面の笑みを浮かべる。
最初のうちはオドオドするばかりで、まったく笑わなかったんだけどな……本当に親しみやすくなった。
「この辺でどこか花火してもいいところってあったりする?」
「そうですねー。河川敷にある空地は大丈夫だったはずです」
「じゃあ、そこ行こうか?」
空地に着いたオレたちはススキ花火やスパーク花火、ねずみ花火にヘビ花火とさまざまな花火を楽しんだ。
陰浦は見たことないくらいはしゃいでいた。
陰浦って花火好きなんだな。
「ヘビ花火って思った以上に地味なんですね」
「もこもこ盛り上がるだけだからな」
「実は私、花火って映像で見たことがあるだけで実際にやったことなかったんです」
「そうなの?」
「はい!なので実際にできてよかったです!」
いい感じにテンションが上がってくれてるみたいだな。
ここまでは予定通り。
「締めに入ろうとしているところ悪いが、まだこの花火が残ってるよ」
「それって……?」
「線香花火」
花火の締めは線香花火と決まっている。
なぜなら恋愛において非常に効果的だからだ。
線香花火は特性上、風をブロックしようと互いの体を寄せ合うシチュエーションになりやすい。
そこに手持ち花火の高揚感を保持した状態を組み合わせることで恋愛のドキドキと勘違いし恋愛の成功率が上がる。吊り橋効果というやつだな。
オレは陰浦に線香花火を手渡す。
「ありがとうございます」
最初の一回はあえて陰浦と距離を空ける。
これにより風が吹き込みやすく、すぐに花火が落ちる。
「あっ!?落ちちゃいました……結構難しんですね」
「線香花火は風に弱いからね。花火を風から守ると長くなるよ。隣おいで」
そう言いながら、オレは自分の体が陰浦に接触するくらいまで近づける。
陰浦はオレが近づいたことにビックリしたのか、距離を取るような動作を見せたが、最終的には自分から寄って来てくれた。
セーフ。ここで拒絶されたら計画的にもオレの精神的にもヤバかったな。
「きれーい」
火をつけると陰浦は線香花火に夢中になる。
本当にやったことないんだな。
線香花火の光に照らされ陰浦の瞳がキラキラに輝いている。
さて、ここからだ。
「これが終わったら二学期だな」
「そうですね」
「村雨たちとは仲良くなれたのか?」
「はい。鏡夜さんのおかげです。学校に行くのが楽しみなの初めてかもしれません」
「そっか。きっとこれから友達もっと増えるだろうな」
「そ、そうでしょか」
「栞が話しかけられれば間違いなく増えるよ。オレが保障する」
実際、オレといる時の陰浦は普通にかわいい女の子だしな。
常にこの状態なら人気者間違いなしだろ。
「頑張ります」
「ああ」
「鏡夜さん」
「ん?」
「……二学期になっても、私と仲良くしてくれますか?」
「……」
「鏡夜さん……?」
線香花火が落ち、手元が夜闇に染まる。
街灯の光の中、二人だけの世界が出来上がる。
流れも言うべきセリフもある程度決めていた。後はどのタイミングで言おうかと考えていたのだが、そのシンプルなセリフは自然と発せられていた。
「栞、オレは栞が好きだ」
「ふぇ……?」
陰浦は目を白黒させている。
「ビックリしたよな。急にごめん。
ただ……これからは栞に男友達も増えていくんだと思ったらつい……」
「わ、私、鏡夜さんが嫌なら男の人とは友達にならなくても──」
「それはダメだ。栞にはいろんな人に囲まれて笑って過ごしてほしい。
もちろん、栞を独り占めにしたいと思わないこともない。でも、オレのわがままで栞の交友関係に制限をかけることはもっとしたくない。
だから……オレを栞の特別にしてほしい。栞が他の男と話していてもオレは特別なんだって安心できる関係でいさせてほしい」
陰浦の瞳が艶やかに潤む。
初恋マーカーが輝き出し、サラサラと天へ昇っていく。
「はい。私も鏡夜さんの特別にしてください」
陰浦は深々と腰を折る。
『やったわね!』
「ああ。もちろん」
まさか一発でオーケーしてもらえるとはな。
心閉ざしがちのタイプだから何回か告白してこじ開けるつもりだったんだが……。
まぁ、攻略完了だからいいか。
後はリセットだな。
オレはチラリと時間を確認する。
0時まではまだある。
「きょ、鏡夜さん。私たち恋人なんですよね?」
「そうだね」
「えへへ。──その、ちょっとだけわがまま言ってもいいですか?」
「なに?」
「あすなろ抱きリベンジさせてください!」
あすなろ抱き?
あー、あの後ろから抱き付くやつか!
「いいよ」
オレの承諾に陰浦は嬉しそうに背中を向ける。
オレは陰浦の小さな背中を後ろからそっと抱く。
陰浦のほのかなシャンプーの香りがオレの鼻腔をくすぐる。
「わ、私、鏡夜さんのこと好きです。鏡夜さんはどうですか?」
「好きだよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん。大好きだよ」
「えへへへ。こ、今度は私にも抱き付かせてください」
「いいよ」
オレが腕を解くと、陰浦は振り返りオレへと抱き付き頭をぐりぐりと押し当ててくる。
恋人同士ということで遠慮なくなったのか、随分と積極的だな。
「なあ、栞」
「はい」
「オレもわがまま言ってもいいか?」
「なんでしょう?」
「……キスしたい」
「えっ!?あっ……えっと……」
ストレートに言ったもののこれ恥ずかしいな。
言われた方も恥ずかしいのだろう。陰浦もみるみる耳まで紅潮する。
それでもここは押すしかない。
オレは陰浦の腰に手を回し準備に入ることで選択肢を消す。
俯いた状態でもじもじと迷っていた陰浦であったが、頭を上げオレと目を合わせるとゆっくりと目を閉じる。
街灯に照らされた虫の音の響く空地でオレと陰浦は唇を重ねた。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の91話です!!
今回は陰浦栞攻略回!!
無駄が一切なく非常にスムーズ!!
手持ち花火をやった後のしんみりした空気感っていいよね!
次回から二学期!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




