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初恋強盗  作者: 御神大河
90/203

妹は強し

 急な楓の登場に日菜は悲鳴を上げると、盾にするようにオレの後ろに隠れる。


「え!?あ、ごめん!」


 楓も慌ててオレたちから目を逸らすと、リビングのドアを派手に締める。

 楓が階段を駆け上がるのが聞こえる。

 これ確実に誤解されたよな?


「悪い、日菜!マッサージは中止な!」


 オレは楓を追いかける。


『日菜ちゃんはどうすんのよ!?』

「後だ。楓は預かってる子なんだぞ!そんな子に不埒な場面を目撃させたと勘違いされるのは多方面にいろいろとまずい!」


 オレは楓の入った部屋のドアに手をかけるがドアが開かない!

 くっそ!楓の奴、鍵かけやがったな。

 いや、冷静になれ。焦っている時にこそ冷静にだ。

 オレはドアの向こうにいるであろう楓に優しく話しかける。


「楓?」

「バカじゃないの!?昼間っからリビングで!

 サイテー!あり得ない!!」

「それは誤解で──」

「うるさい、うるさい!」

「楓!!」


 オレの言葉を拒絶する楓に声を届けるためオレは声を張る。


「聞いてくれ。

 決して変な行為はしてない。楓と彩夜に誓う」

「……」


 これ以上どう説明すればいいんだろうか?

 この場面で馬鹿正直に「マッサージしてて」とか言っても隠語にしか聞こえねーだろ?

 頭の中でいろいろとシュミレーションをしてみたが、どう説明しても言い訳しているようにしか聞こえん。

 どうすれば……こんな時ゲームの主人公はどうしてた?

 ……応答形式!!


「誤解を招きかねない状況だったのはオレも理解している。だから、楓が疑ってる点や気になる点があるなら質問してくれ、ウソ偽りなく答えるから」


 これでダンマリだったら詰みかな?

 祈るように待っているとドアの向こうから小さな声で質問がくる。


「あの人だれ?」

「英日菜。

 オレと同い年の隣に住んでいる幼なじみの奴だ」

「なにしてたの?」

「マッサージ。夏休み中ずっと他の部活の応援に行ってて疲れたって言ってたから。

 決して変なことじゃないからな!」

「ウソ!裸だったじゃん!」

「楓からは見えなかったかもしれないけど、水着着てたぞ?」


 上に関しては着てたか怪しいけど……。

 と言うか、まだ顔を見せてくれないか……。


「きょ、鏡夜とさっきの人って付き合ってるの?」

「え?いや、付き合ってないけど」


 信じてくれたのだろうか?

 楓が引き籠もっていたドアがゆっくりと開き、隙間から楓が顔を覗かせる。

 その目は少し赤く腫れている。


「ビックリさせてごめんな?」

「本当に付き合ってないの?」

「付き合ってないって」


 楓は見上げるようにオレの目を覗き込んでくる。


「わかった。信じる」


 ふーーー。よかったー!


「でも、一応彩夜には報告するから!」

「え!?」

「なに?まずいの?」

「え、あー、いや……」


 オレが言い淀んでいると背後から声をかけられる。


「なに?アニキどうしたの?」

「うおっ!彩夜か……ビックリした……」


 彩夜の瞳に赤くなった目を擦っている楓が映った瞬間、彩夜が楓の下へ即座に駆け寄り、オレのことを睨み付ける。


「もしかして楓になにかしたの?」

「いやいや、そんなわけないだろ?な、楓!」


 こんなタイミングで新たな誤解が生まれるとか冗談じゃないぞ!


「うん。大丈夫だよ。

 鏡夜がリビングで裸の女の人といたからビックリしちゃっただけ」

「は!?」

「おい、楓!裸じゃないって言っただろ!」

「アニキ、どういうこと?」

「いや、違くて……とにかくリビングに来てくれ!」


 ここでその説明はダメだろ、楓!

 事態があらぬ方向に行きそうな予感のしたオレはとにもかくにもリビングへ行くように打診する。

 リビングに着くまでは地獄だった。

 まるで性犯罪者に向ける凍え死にそうなほど冷ややか視線を彩夜に向けられ、針の筵だった。

 これなら鬼の形相の方が数万倍はマシだ。

 リビングに戻ると日菜は普通の服に着替えていた。

 また、家に帰ったのか?ご苦労なこった。


「あ、日菜ちゃん久しぶり」

「久しぶり。彩夜ちゃん」


 二人が挨拶を交わしている間にオレは楓に「ウソ言ってないだろ?」とジェスチャーする。


「えっと、さっきは大きな声を出してごめんなさい。

 鏡夜と彩夜ちゃんの幼なじみの英日菜です」

「い、いえ、こちらこそすみません。東江楓って言います」


 二人は互いに気まずそうに挨拶する。

 初対面なのにファーストコンタクトがアレだったからな、無理もない。

 直接言葉を交わすのは厳しかったらしく、日菜はオレに話しかけてくる。


「いつから一緒に暮らしてるの?」

「楓か?夏休み始まってすぐだったかな?」

「そうなんだ。

 それにしても、彩夜ちゃんが彼氏と同棲なんてよく許したわね!

 鏡夜のせいで彩夜ちゃんの結婚は苦労すると思ってたのに」

「え?」


 その場にいた全員がキョトンとした顔をする。

 あっ!もしかして日菜の奴、楓のこと男だと思ってる?

 それで、マッサージを見られた時、あんなに取り乱してたのか。


「あの、あたし女なんだけど?」

「へ?」


 今度は日菜がキョトンとした顔をする。

 リビングは一瞬静寂に包まれる。

 そして、日菜が一気に爆発した。


「ちょっと鏡夜!どういうこと!?」

「え、オレ!?」

「当たり前でしょ!説明して!」


 日菜はオレの胸ぐらに掴みかかってくる。

 それを許さないのは、楓だ。


「あんた鏡夜に何やってんの!?」

「この家に女が住み着いてんのはどういうことか説明しろって言ってんでしょ!?」

「あんたこの家の人間でもなければ彼女でもないんでしょ!別にあたしがこの家で寝泊まりしようが関係ないじゃん!!」

「わたしは鏡夜のお母さんから鏡夜をよろしくって言われてんの!!」


 え!?

 その言葉初耳なんですけど!?

 じゃなくて!この二人を落ち着かせないと!!


「ちょっと待てって二人とも!」

「大体、泳ぐ予定もないのに水着になるとか頭おかしんじゃないの!?」

「水着ごときでピーピー言ってるお子様には理解できないだけよ!」


 楓がオレの腕を引っ張る。


「あたしは鏡夜とプール行ったし!」

「どうせ保護者役として付き添ってもらっただけでしょ!?」


 負けじと日菜もオレの腕を引っ張る。

 おおー。これが両手に花ってやつか。

 思ってたよりも腕が痛いな。


「うるさい!!」


 彩夜の一喝で空気にキーンッと停止し、全員が動きを止め口を噤む。

 やばい。彩夜がキレた。


「全員そこに正座」


 オレたちは命令通り一列に並んで即座に正座する。

 彩夜は台所からオタマを持ってくる。


「まず最初に、楓と日菜ちゃん。次、くだらない喧嘩したら即刻叩き出して出禁にするから」

「「はい」」

「で?家で水着って何?説明して」

「えっとな、彩夜」

「アニキは黙ってて」

「すみません……」


 これは結構マジだな……。

 彩夜の圧に中てられて日菜は素直にしゃべりだす。


「部活動で疲れていたので鏡夜にマッサージを頼みました」

「それ水着関係ないよね?」

「肌に直に触れてもらえる方が効きそうなのと、せっかく買ったから見て欲しくて……」


 彩夜は楓の方を見る。

 完全に畏縮している楓は沈黙を守ったままコクコクと頷く。


「そう。日菜ちゃん今日は帰って!楓も部屋に戻ってて!

 アニキはそのまま正座ね?この後説教だから」


 日菜と楓は文句一つ言わずテキパキと行動する。

 オレはただ一点を見つめて彩夜からの説教を待つ。

 リビングから二人がいなくなると彩夜が口を開く。


「アニキ、日菜ちゃんと付き合ってんの?」

「付き合ってないです」

「だろうね。アニキも日菜ちゃんもそんなこと一言も言ってないもんね。

 て言うか、仮に彼女だとしても妹どころか他所の人もいるのに素肌さらけ出してイチャイチャするとか常識ないでしょ?

 なんのために自分の部屋があると思ってんの?脳みそ入ってないの?」

「すみません」


 その後も足がしびれ感覚がおかしくなるまで彩夜の説教は続いた。

 謝罪し倒しようやく許しをもらえたオレは足を崩す。

 足がしびれて立てん。

 リビングを出る彩夜は振り返ると床に這いつくばっているオレを見下ろして最後に言い放つ。


「あっそうだ。彼女を作るのはいいけど、リビングではイチャつかないでね?

 もし見つけたらハサミで切り落とすから」

「はい。絶対しません」

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の90話です!!

今回は彩夜お怒り回!!

これは考えなしの鏡夜が悪い!

怒った彩夜には日菜も楓も逆らえません!!

次回は陰浦栞攻略回!!お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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