冗談大好きメイドさん
トーカとの肝試しを終えたオレは桜ノ宮家の別荘へと戻る。
すでに全員就寝しているのか、別荘の灯りは完全に消えている。
昼間はどこか寂しそうにしていたトーカであったが、散歩したことによりリフレッシュできたのか、今は機嫌がよさそうだ。
『そう言えば鏡夜、ここにきて全然攻略進んでないでしょ?
桜ノ宮さんはターゲットだってわかってるの?』
「わかってるよ。ただ、朝宿さんがいる以上積極的には動きにくいんだよ。みんなの目もあるし……」
『ふーん。じゃあ、村雨さんと藍川さんはいつターゲット設定する気?
海で村雨さんを助ける時もターゲット設定しないように気を付けながら助けてたでしょ?』
「藍川はタイミング次第かな?村雨は今んとこする気ない」
『そうなの!?村雨さんたぶん好きな人いないでしょ?と言うか、いたとしたら鏡夜なんじゃないの?』
「あいつとオレがくっつく可能性はないだろ。
お互いを意識するには仲良くなり過ぎた。可能性はあっただろうに、距離感をミスったオレの失敗だな」
『村雨の水着姿に興奮してたくせに』
「いや、あれは生物としての反射だから!その証拠にオレだけじゃなく詞も女子も見てただろ!?
てか、トーカも見たんじゃねーの!?」
『見てないもん!』
「ウソつけ!」
トーカと楽しく会話しながら帰ってきたオレであったが、別荘に入るときは当然静かにする。
みんなぐっすりと寝ているだろうからな。起こさないように抜き足差し足だ。
『なんかコソ泥みたいね』
確かに。
朝宿さんももう寝てるみたいだし、鍵を返すのは明日にするか。
普段と違うベットでオレは眠りについた。
翌朝、朝日が昇ると同時にオレは目覚めた。
別に眠れなかったというわけでもなく、いつも通りだ。
一階に降りるとオレが深夜に帰ってきたままの状態だ。
どうやらオレが一番早く起きたらしい。
これは昨日鍵を借りといてよかったな!
オレは外に出ると普段通り早朝の運動をする。
『海辺の朝ってきれいね!』
「そうだな」
辺り一面黒一色だった世界に日が昇ることで青や白、緑など一気に景色に色が付く。
海鳥が優雅に空を飛び、水面はキラキラと光って眩しい。
「来てよかったな……」
汗をかいたオレは別荘のシャワーを借りる。
誰も起きてきてないし、勝手に借りちゃってるんだけど……。
まぁ、野郎の汗の臭いとか嬉しくないだろうし、許してくれ。
オレがシャワーで汗を流し終わり、脱衣所で体を拭いていると、脱衣所の扉がガチャリと開く。
「へ!?」
「まあ!?」
そこには寝起きかつスッポンポンの朝宿さんが立っていた。
「おわぁ!?すみません!」
「いえいえ、わたくしの方こそ。今上がられたのですか?」
「ええ、はい」
「それは残念。今から入るのでしたらわたくしがお背中お流しいたしましたのに」
朝宿さんは余裕の表情でオレをからかってくる。
ガキに裸体を見られたくらいじゃ動揺しませんてか?ちょっと腹立つな。
てか、朝宿さん裸族かよ!にしても、自宅じゃないんだから気を付けようぜ。
じゃなくて──
「出てってください!」
「あら、これは失礼いたしました」
オレが風呂から上がり、リビングでくつろいでいると桜ノ宮たちが降りてきた。
「おはよー鏡夜!」
「おはよ」
「早いのね?あまり寝れなかった?」
「いや、よく寝れたよ。朝早いのはいつも通りだ」
「なんか髪しっとりしてへん?海に入ってきたん?」
「んなわけねーだろ?シャワー浴びたんだよ」
「藍川さんは?」
「まだ寝てるわ。藍川さんが一番遅くまで起きてたみたいだから」
あー、イメージあるわ。
遅くまで友達とやり取りしてそうだもんな。
「そう言えば昨日の夜どこ行ってったの?部屋にいなかったでしょ、鏡夜?」
もしかしてオレが散歩に出る時、詞のこと起こしちまったか?
それは申し訳ないな。
ただ、夜ほっつき歩いてたとか言わない方がいいのかな?桜ノ宮の奴も寝れなかったんじゃないかって気にしてたし……。
オレが言葉に困っていると、朝宿さんが風呂から上がってきた。
「湾月様、スマホ忘れていかれてましたよ。あら、みなさまおはようございます」
「朝宿、お風呂入ってたの?」
「ええ。そうだ湾月様、お渡しした鍵なんですが──」
「鍵!?」
桜ノ宮たちがざわつく。
ん?なんか変な空気になったか?
「ちょっと湾月くん、どういうことかしら!?昨日の夜朝宿と何してたの!?」
これって煙草のことか?
バレたらやばいんだよな?なんとか誤魔化さないと。
「い、いや、別に……オレはなにも知らないけど……」
「なにも知らないなんて……昨晩はわたくしの下に湾月様がいらっしゃってくださり、互いに裸も見合いましたのに」
「うわー……」
「鏡夜……」
ん?流れおかしくね?
詞と村雨は引いてるし、桜ノ宮は過去一でキレてるんだけど。
「湾月くん、わたしの使用人とわたしたちがいるにもかかわらず、一晩を共にするとはどういう了見ですか?」
「え?いや、違う違う違う!!」
「なにが違うっていうの!?」
「なにがって、全部だけど……」
「朝宿!ちゃんと説明して!!ウソなくね!!」
「申し訳ございません、お嬢様。冗談です」
「「「へ?」」」
朝宿さんの言葉に全員が固まる。
「みなさまの反応があまりにも面白いものですから、つい悪ふざけしてしまいました」
「じゃあ、鍵ってのは?」
「昨晩、湾月様が外の空気が吸いたいと外出されましたのでその時にお渡ししました」
「朝のお風呂は?」
「当然、ご一緒はしておりません」
「……そう」
「ビックリしたー」
「うちもや」
「オレが一番ビックリしたよ!心臓飛び出るかと思ったわ!まったく迷惑な冗談だな!」
「あら?でも、わたくしウソはついておりませんよ。
みなさまが勝手に勘違いしてだけですし」
朝宿さんはにこにこといたずらな笑みを浮かべる。
メイドさんって無表情で淡々と仕事をこなす職人さんだと思っていたけど、意外とそうでもないんだな。
まぁ、こっちの方が親しみやすくていいけど。
「ちょっと待って」
ん?
「今ウソは付いてないっていたわよね、朝宿?」
「はい」
「ってことは、お互いの裸を見たってのは?」
「あ──!」
しまった。つい声が漏れ──
「この変態!」
なんでオレーーー!!?
桜ノ宮がフルスイングしたクッションがオレの顔面を完璧に捉え、オレは吹っ飛ぶ。
その後、オレは「一つ屋根の下に女性がいる意識が低い」だ「普段の行いがうんぬんかんぬん」だと桜ノ宮に正座で説教を受けることとなった。
桜ノ宮は今まで通り頑固だ。詞と村雨は裸を見てしまった経緯を説明したら理解を示してくれたのに……。
つか、こんだけうるさくしてるのに藍川さんはまだ寝てるのか……。
今日中に帰らねばならないため、遊べるのは今日の夕方前までである。
海に入るのはべたついて体を洗うのに時間がかかるということと、昨日のトラウマから村雨が海で泳ぎたくないとごねたため備え付けのプールで遊ぶこととなった。
お昼には焼きそばとスイカが振舞われた。
すげー夏って感じだ。
オレたちは思う存分夏を満喫し、桜ノ宮家のプライベートビーチを後にした。
相当楽しかったのだろう。体力がなくなるまで遊び、帰りの車内でもみんなぐっすりだ。
「みなさまお疲れのようですね」
「そうっすね。みんなスヤスヤです」
「湾月様、今後ともお嬢様をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ん?どういう?」
「体育祭の日、お嬢様にお声をかけて下さったのは湾月様ですよね?」
「はあ」
「お嬢様のご両親はほとんどお帰りになられません。
そのため、お嬢様はコミュニケーションを取る機会が少なく、どうご学友を作ったらよいかわからず半分諦めておいででした。
それがあの日以来ご学友が増えたようで、本日も大変楽しそうにしていらっしゃいました。
お嬢様のあんな笑顔を見たのは初めてです」
オレは怒られただけだけどな。
「わたくしは使用人ですからお嬢様と対等な関係にはなれません。
ですのでどうか、お嬢様をよろしくお願いします」
「……善処します」
今回もオレははっきりと応えることができなかった。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の88話です!!
今回が合宿最終回!!
親しみやすい冗談大好きメイドさん!
主人公だけがお説教されるのはお約束!!
次回は母親登場!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




