海でのハプニング
海へ走り出した三人を見送ったオレはサマーベットに腰を下ろす。
「あなたは海へは行かないの?」
「ん?後で行くよ。桜ノ宮は行かないのか?」
「まだ、日焼け止め塗ってないもの。そうだ、湾月くん。日焼け止め塗ってちょうだいよ!後ついでにマッサージもお願いしていいかしら?
長時間の車移動は体が凝るのよ」
「え!?朝宿さんにやってもらった方がいいんじゃねーか?」
「朝宿は別に用があると言って行ってしまったもの。
それに、あなたさっき同性でも異性でも変わらないとか言っていなかったかしら?それともあの発言は単なる照れ隠し、いや強がりだったのかしら?」
カッチーン
「上等だよ!そこに寝っ転がりな!
その代わり、後からやっぱなしはなしだからな!!」
こちとら彩夜や母さんにお願いされて相当勉強したからな!
プロ顔負けのテクニック見せてやるよ!!
桜ノ宮は寝っ転がると背中が見えるように髪を掻き揚げる。
くっそ。潮風に載ってフワッといい香りが漂ってきやがる。
「えっと……フック外してもらってもいいか?」
「え!?そ、そうね」
ちょっとギクシャクしないでもらっていいか?
桜ノ宮は知らないだろうが、こっちは村雨の一件でゴミを見るような目になってるトーカが睨みを利かせてんだから!!針の筵なんだよ!!
そもそも、そっちが先に言ってきたんだろ!?
「じゃあ、塗るからな?」
「ええ……ひゃん!?」
「変な声出すなって!」
「だって──」
オレは振り向いて言い返そうとしてくる桜ノ宮の肩を押える。
桜ノ宮が体を起こした反動で、はらりと水着がサマーベットから落ちる。
見えてない見えてない見えてない!揺れた気がするのはオレの気のせい!
「ば、バカかお前は!頼むから今の自分の格好考えてくれ!」
「ご、ごめん」
!?
桜ノ宮が素直に謝るとか……相当テンパってんな。
「じゃ、じゃあ、気を取り直して──」
「待って!その……ポジションとか直したいから、ちょっと別の方向いててもらえるかしら……?」
「あ、おう」
この後どんな顔して桜ノ宮と目合わせたらいいんだよ!絶対変な空気になるだろ!
あーっ、日焼け止め塗るの降参したい。
さっきからめっちゃトーカに睨まれてるし。
「い、いいわよ」
「そ、そうか……」
「んっ……んっ……」
無視しろ無視!
オレが変に意識するからいけないんだ。マッサージとかで声が出るのは普通だ、普通!
しかし、改めて比べると詞とは質感が違うな。
両者とも白くてきめ細かいきれいな肌だが、詞はサラリとした感じだったのに対し、桜ノ宮はモチッとしていて吸い付く感じなんだよな。
あと、ちょっとだけぷにっとしてる。
これって背中と首筋、腰のあたりだけでいいよな?足とか尻はちょっと……。
「こんなもんでいいか?」
「かなり上手いわね。正直、朝宿よりも上だわ」
「そりゃどう──」
「こころん!!?」
桜ノ宮が起き上がろうとしたため、目を逸らした視線の先で突如村雨の身体が沈み、その後浮上しようともがき始める。
詞も藍川も若干パニックになっているのか、オロオロしているのが見て取れる。
オレは即座にシャツを脱ぎ捨てると、村雨に向かって走る。
深い場所で遊んでいたのか、村雨は徐々に沖へと流されていく。
『鏡夜、アタシが!?』
「ダメだ!そうするとますますパニックになる可能性がある!いざと言う時だけ頼む!」
トーカの姿はオレ以外には見えない。
見えないトーカに触れられてさらにパニックになり、下手に暴れられたら上手く浮上できなくなる上に、体力の消費も早くなる。
「村雨!!」
泳いで村雨に追いついたオレは肩を貸す形で村雨を浮上させ、体勢を安定させる。
しかし、村雨はいまだにパニック状態だ。
落ち着かせねーと!!
オレは村雨を抱き寄せ、背中を軽く叩く。
「村雨、落ち着いて。大丈夫だから」
「はー……はー……はあー……」
よし!大分落ち着いたな。
「ちゃんと掴まってろよ?砂浜まで行くから」
オレは村雨を連れてゆっくりと浜まで泳ぐ。
オレと村雨が浜までくると全員一斉に駆け寄ってきた。
「平気?」
「大丈夫?」
「すまん。心配かけて……でも、心配せんでええよ。足攣ってもうただけやし」
「そうなんだ……」
「よかったー」
いや、よくないだろ。
これが彩夜だったらお説教だったぞ。
やっぱ準備運動って大切だな!彩夜にも徹底させよう!
「湾月もありが──」
「ん?」
「湾月くん、それって……」
「あっ、いや、これは……」
しまったーーー!!
今更隠してももう遅いよな?
「なるほど。確かにそれがあったらプールは無理ね」
「私初めて入れ墨見たかも……」
「うちもや」
「かっこいいねー!」
こういう時、詞の反応は救われるなー。
でも、絶対やばい奴だって引かれたよな……せっかく結構打ち解けてきたのに……。
「なんやかんや湾月の不良要素これが一番ガチなんちゃう?」
「入学式の登場の方がすごいと思うけど……一応入れ墨は隠してたんだし」
「全教科赤点もらしいんじゃないかしら?」
あれ?思ったより反応軽い?
「な、なぁ、引いたりとかしないのか?」
「しないよ!かっこいいもん!」
いや、詞はな!
けど、ありがと。
「かっこいいとは思わへんけど、別に引かへんよ。そもそも湾月は不良やし」
不良じゃねーよ。
「私も。ちょっとびっくりしたけど、大きくないしハートマークでかわいいし、そんなに気にならないかな
背中いっぱいにとかだったらちょっと怖かったかも……」
それはオレも。
「ちょっとよく見せてもらってもいいかしら?」
「え!?ボクも!」
「ほな、うちも」
「じゃ、じゃあ、私も」
「あ、おう、いいけど」
マークを見ているのはわかってるけど、素肌に刻まれてるわけだしちょっと、と言うか結構恥ずかしいな。
オレが羞恥に耐えていると誰かの指がオレの斜腹筋をなぞる。
「うおっ!?」
「あら、ごめんなさい。つい。
それにしても、ハートマークだから元カノの名前でも彫ってあるんじゃないかと思ったけどそんなことなかったわね」
「そんな痛いことするわけねーだろ!」
よかったー。攻略した奴の名前が刻まれるシステムじゃなくて!
「湾月って運動部やないよな?」
「ああ。運動部と言うか部活に入ってないし」
「あら、あなたは思考情報部の部員じゃないのかしら?」
「あっそっか。えーと部活はこの部だけだな」
「にしてはムキムキやな」
村雨のその言葉に全員の視線がオレの身体を舐める。
男ってこういう場合どうすればいいの?
隠すのはなんか違うよな?かと言って見せつけるのも違うような……。
「あっ、えっと、そんなことより遊ぼうぜ!
せっかく海に来たんだし!な!?」
「そうだね!」
「うちはもう海入らへん」
その後、村雨の一件もありオレたちは浜辺と浅瀬で砂の城を作ったりビーチバレーをしたりして遊んだ。
「お帰りなさいませ。
ご入浴はいかがいたしましょうか?申し訳ございませんが、この別荘には浴場は一つしかなく、二人用のため同時に二人が限界なのですが……」
なぜ二人用なのかは聞かないでおこう。藪蛇になりそうだし。
「どうする?」
「この辺に銭湯があるみたいよ」
「えっでも……」
すみません。オレのマークのせいで。
「朝宿、銭湯貸し切れるかしら?」
「お任せください」
「え!?いや、いいて!
オレはこの別荘のお風呂使わせてもらうから、みんなで銭湯行って来いよ!」
「では、湾月様はわたくしと入浴いたしますか?」
「え!?」
「朝宿!!」
「冗談です」
ですよねー。
いや、期待してないよ?美人のメイドさんに背中流してもらえるかもとか思ってないよ?
オレたちは海水でべとべとする体を洗い流すために銭湯へと向かった。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の86話です!!
今回は海でのハプニング回!!
水中で足を攣るのもお約束!
人工呼吸はなし!この作品において口づけは安くないので。
次回はトーカとお散歩回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




