水着
桜ノ宮家の別荘に着いたオレたちは、遊べる時間は多い方がいいということで部屋に荷物を置いたら、さっそく着替えてすぐ浜辺に集合ということになった。
『じゃあ、アタシ部屋出てるから!』
「おう」
トーカの奴どうしたんだ?
いつもは着替えの時でも部屋から出たりしないのに。
「どうしたの鏡夜?部屋に何かいたの?」
「え!?あ、いや、なんでもない」
そうか。詞も部屋で着替えるんだもんな。
一応、その辺は気遣ってんのか……ん?なんでオレに対してはその気遣いがないんだ、あいつ?
まぁ、いいか。
オレと詞は水着に着替えると浜辺へと向かう。
「よかったー。やっぱり、上は着ておくよね?」
「え?まぁ、そうだな」
「えへへ。ちょっと恥ずかしいもんね」
オレがシャツを着てる理由は別なんだけどな……。
本当は海にもウェットスーツを持って行こうと思ったんだが、楓に「そんなもん着てたら逆に不審がるに決まってんじゃん!海なんだからシャツ着てても変じゃないでしょ?は、はい、これあげる……」そう言われて、謎の柄の入った白のTシャツをもらったからそれを着ることにした。
オレと詞はパラソルの陰で女子陣を待つ。
「あっ!?」
「どうした?」
「日焼け止め持ってくるの忘れちゃった!せっかく買っといたのに……」
「部屋にか?」
「ううん。家。でも、日焼けして浅黒くなった方が男らしいからいっか!」
「いやいや、日焼けはシミやしわ、たるみの原因になるんだぞ。あと酷い時には皮膚がんとか。そういうのは、若いうちはいいかもしれないけど、年を取ってから響いてくるんだから、対策しとけ。
オレの貸してやるから」
「そうなんだ。じゃあ、ちゃんと塗った方がいいね。……ねえ、鏡夜?日焼け止め塗ってよ!」
そう言うと、詞はシャツを脱いでサマーベットにうつ伏せになる。
「ああ、いいぞ」
オレは詞に日焼け止めを塗るためサマーベットへ腰を下ろし、手に日焼け止めを溜める。
詞の背中ってきれいだな……本当に男のものなのか?
白くて肌がきめ細かい。運動部なだけあって背中から足にかけて全体的に細く引き締まっている。ただ、ちょっと痩せすぎじゃないか?肩甲骨がくっきりと浮き出てるぞ。
「鏡夜?」
「あ、おう」
って、なにまじまじ観察してんだ、オレ!
オレは詞の背中に触れる。
「んっ!」
「ど、どした!?」
「ご、ごめん。日焼け止めがちょっとひんやりしてたから……」
「そ、そうか……」
「え!?」
「「!?」」
突然の大声にオレと詞は同時に顔を上げる。
「ななな、なにやってん、あ、あんたら!?」
「なんだ、村雨さんか~。びっくりした~」
「いきなり大きい声出すなよな」
「だ、だって……」
村雨は顔を覆いながらこちらの様子をチラチラと確認している。
ん?
あ!?そう言うことか!?
村雨の奴、オレと詞が変なことしてると勘違いしたろ?
でも今までもオレと詞はよく一緒にいたけど、そんなことなかったよな?
これはあれか?陰浦、もしくは根小屋か長春さんと仲良くなった影響か?
陰浦の家でそういう話が出た後、オレも気になってそっちのジャンルを調べちゃったけど、ああいうのってリアルな存在ではNGなんじゃないの!?
「村雨、なにか勘違いしてるみたいだけどな、日焼け止め塗ってただけだからな?」
「いや、普通男同士で塗らんやろ!」
「いやいやいや、村雨は知らないかもしれないけど野郎は体が硬くて背中に手が届かねーんだよ」
「え!?ボク届くよ?ほら!」
いや、オレも届くけどね?
じゃなくて、今は無邪気さ発揮しなくていいから!!面倒くさいことになるから!!
「でも、ちゃんと塗れたかわかんないだろ?」
「んー、確かに」
「ほら、見ろ!詞もこう言ってる。大体、男同士だろうが女同士だろうが異性だろうが、日焼け止め塗るだけなんだから大した違いはないだろ?
騒ぐなよな……」
いまだに油断すると詞を美少女と見紛うことがあるから、変に意識させるようなこと言うのはやめてほしい。
「へー、湾月くんにとっては同性でも異性でも変わらないのね?
それって異性に日焼け止めを塗るのも慣れてるってことかしら?」
「げっ、桜ノ宮……」
「げっってなによ?失礼ね。で、わたしの質問どうなのかしら?」
「ま、まぁ、同年代比なら慣れてる方なんじゃないか?」
同年代がどんなもんか知らねーけど。
「へー──」
「えーーー!!なんで瑠璃花くん意外みんな上着てるの!?」
うお!びっくりした!藍川か……。
なんで女子陣はこう心臓に悪い登場をするかな?
しかし、確かに全員見事に上に羽織ってきたな……もしかして、全員オレと似たように体にマークが入ってるとか?なんつって。
「わ、私も上持ってこようかな……」
あーあ。アウェー状態の藍川が完全に意気消沈だよ。
ここは藍川の味方してやるか。
「藍川さんその水着似合ってるな!な、詞!」
「うん!かわいいと思う」
「そ、そう?」
水着イベントでは真っ先に水着を褒める。
鉄則だな!
「た、確かに素敵ね」
「うん……」
「まっきーもこころんも水着になってよー!私だけだと恥ずかしいし!」
「そ、そうね」
藍川にせがまれて村雨も桜ノ宮も上に羽織っていた物を脱ぐ。
これは直視してていいんだろうか?下に水着を着ているのはわかっているけど、女子が脱ぐのを見ているのはその~……なんとなくダメなような……。
そんなことを考えているうちに村雨と桜ノ宮は上着を脱ぎ去る。
その瞬間オレの視線は村雨の胸部へと吸い込まれた。
いや、恐らくオレだけではない。その場にいた全員の視線がそこへ導かれたのではなかろうか?
デッッッッカ!!?
「え!?」
「あら!?」
あぶねー。声が盛れなくてよかったーーー。
しかし、驚愕の声が漏れるのも頷ける。
桜ノ宮は間違いなく大きい部類と言えるだろう。少なくとも平均かそれよりも少し薄いくらいの藍川と並べばその大きさは明らかだ。
しかし、しかしそれでもだ!
村雨のそれとでは勝負にすらなっていない。
普段の制服はダボダボのオーバーサイズを着ていて中身についてはシークレット状態だったし、なんならちょっとぽっちゃりしてるから体型を隠してるのかな~とか思っていた。
だけど、なんだその体型!?
腹部普通に細くね?くびれできてるし。しかも、水着が小さいのか微妙に水着のラインに沿って食い込みが発生しており、肉感が……。
この体型はつるペタ趣味でもない限り悩殺間違いなしだろ。
「あ、あの、あんまり見んといてほしいねんけど……」
村雨は恥ずかしそうに手で体を隠す。
オレは本能的に村雨から視線を切った。
そして、その先で詞と目が合う。然しもの詞でも村雨からは目を切ったか。
藍川の水着姿も褒めたわけだし、二人の水着姿も褒めないとと思っていたのだが……この空気感は褒めづらい……。
いやしかし!ここで褒めないのは二人に対し失礼だろ。
オレは冷静さを取り戻そうとしているのがバレないように静かに深く息を吐く。
「ふ、二人とも水着すげー似合ってるぞ。まじで」
あ゛あ゛あ゛ーーー!冷静になり切れずにめっちゃ声震えてしまったー!!
「うせや。桜ノ宮さんはきれいやけど、う……うちは似合ってへんやろ……デブやし……」
「んなことないって!今の村雨見たら世界中の人が求婚してくるって!いや、まじで!」
「ねえ、なんか私の時と反応違くない?」
「え?い、いや……そんなことは……ないけど……」
「ふーーーん」
うわーお。すごい冷めた目。
いつもにこにこしてる藍川もそういう表情できるんだな。
「こころん、海行こ!」
「え!?あ、おう!」
「ボ、ボクも」
「あっ、おい!準備運動くらい──ったく」
詞、村雨、藍川の三人は海へと走り出してしまった。
まぁいいか。あいつらだって高校生なわけだし、そもそもオレはあいつらのお守りじゃねーしな。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の85話です!!
今回はクラスメイトの水着披露回!!
大きさは男女関係なく気になるもの!!
海ではなんとなくシャツやらパーカーやら羽織ってしまうよね。
次回は鏡夜がシャツを脱ぐ回!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




