ヲタ仲間
オレは今まさにとんでもない誤解を生みだそうとしている元凶の下着を商品棚へ叩き返し、超特急で店を飛び出す。
「よ、よお」
村雨と陰浦は完全にオレと目を合わせないようにしている。
しかも、村雨と陰浦の他に二人もいるし……。
一人はうちのクラスの藍川や姫路と一緒にいる根小屋優立とかいう名前だったか?
もう一人は……知らん。
ってまさか、アレか?陰浦に友達を紹介して欲しいとオレが頼んだその友達と今まさに遊んでいる最中だったか?
だとすると、とんでもないタイミングで見つかり、とんでもないタイミングで声をかけてしまった……。
変態趣向のやばい奴が知り合いにいるとなると、陰浦に友達紹介計画がご破産する可能性が……オレがオレの計画の邪魔してどうすんだよ……。
「よう、あんな場面見られて平然と声かけてこれるな。
別に人様の趣味にケチつけたないねんけど、高校生でアレはどうかと思うで?」
「いや、あれは違くて……」
「わ、私は気にしないです……よ」
そう言ってますけど陰浦さん、オレの方全然見てくれてませんよね?
これは陰浦に引かれたか……。
今まで積み上げた好感度が……好感度が……。
オレは床に崩れ落ちる。
「違うんだーーー!!」
「っちょ!わかったからオーバーリアクションやめーや。
恥ずかしいやろ!」
「あはははは。湾月くんって面白いね!」
「あー、もう!とりあえず適当に店入ろ!!」
オレは女子四人に連れられて近くのカフェに入る。
【根小屋優立】
・初恋マーカーなし
・同じ一年三組のクラスメイト
・櫟井や姫路を中心に形成されている一軍のメンバー
・勉強はそこそこできる 運動はそこそこダメ
・一軍連中とは若干毛色が違うと思っており、なぜ同じグループにいるのかと疑問だったが、どうやら姫路透と幼なじみだそうだ
【長春乃愛】
・初恋マーカーなし
・翁草高校一年一組つまり日菜と同じクラス
・根小屋とは中学の頃からの趣味友達
・全然知らなかった
根小屋も村雨も趣味が近いと思って目をつけていたそうだが、互いに話すきっかけもタイミングもなく、ここまでズルズル来てしまったそうだ。
そんな折、ちょうど村雨が陰浦とコミケと言うイベントに参加した時、偶然根小屋も長春を連れてコミケに参加しており、会場でばったり会ったことをきっかけに意気投合したそうだ。
「ほえー、結構みんなで遊んでんのか?」
「今日で三回目かな?」
「うん」
「最初は陰浦さん全然しゃべってくれなくて村雨さんが通訳みたいになってたんだよ!」
「あー、筆談始まった時はびっくりしちゃったー」
「すす、すみません……」
「いいよいいよ!かわいかったし!」
あー、筆談まだ生きてたんだ……。
「で、湾月はなしてあないえぐいパンツ買おうとしとったん?」
「いや、買おうとはしてないんだって!
普通に服買おうと思って店内見てたらすごいのがあったからつい」
「ほんまかー?ほんまは誰かと使おうと思ってたんやないの?」
「思ってないから!」
「でもさ!手に取ったってことは興味があったってことでしょ?」
「いや、興味があったって言うか好奇心で……もう勘弁してください……」
「「あはははは」」
「悪い悪い、冗談や。いつもスカしとる湾月がパニくっとるのがおもろくてついな」
くっそ。この性悪め。
おもちゃにしやがって。こっちは本気で焦ったんだぞ!
「意外。湾月くんって学校一の不良って話だしすごい怖い人かと思ってたけど、そうでもないんだね」
「あー、他クラスやとそういう印象なんか」
「いや、私たちのクラスでもいまだに湾月くん怖がってる人いるわよ?」
「え!?そうなん!?根小屋さんも?」
「私は最初からあんまり怖くなかったかな?
湾月くんって見た目はあれだけど、優しい感じが出てるし。私これでも人を見る目には自信あるのよ」
え!?根小屋って最初からオレを怖がってなかったの!?
一軍だからって遠慮してたけど話しかければよかったかもー。
「それとさー、気になってたんだけど。
陰浦さんって湾月くんと仲いいの?」
!?
「ふぇ!?ななな、なんでですか?」
「だって、乃愛は湾月くんにあった時怖がってたけど、陰浦さんは平気そうって言うかむしろ安心してるというか嬉しそうというかそんな感じがしたから。私的には陰浦さんが一番怖がるかなー?と思ってたからさ」
根小屋の奴、あの状況で陰浦の動向にも目を配っていたとか……人間観察能力半端なさすぎる。
こいつはミッションにおいてかなり危険だ。仲良くならなくてよかったー。
「あ、えっと……い、以前図書室の模様替えを手伝っていただいて……その後も私が気絶しちゃったところを助けてもらったりもしてたから……だから、その……」
「あー、噂になってたやつ、アレ陰浦ちゃんだったんだ!一組でも話題になってたよ!
あん時は英さんが怖かった……」
「え!?英さんって湾月くんのこと好きなの?」
「いや、ちげーだろ。あん時はほら、オレと日菜が付き合ってるって噂も同時に発生したから」
やっぱあん時、日菜の奴切れてたかー。
「日菜?なんで湾月くんって英さんのこと名前呼びなの?」
「え、あ!?その~、オレと英は幼なじみで昔から名前で、その癖が抜けず……。
このこと英には黙っててくんね?絶対怒られる」
「あー……オッケーオッケー。
しかし、そうなるとうちの学校の噂全然信憑性ないね。
陰浦さんのやつも全然違ったし、今の感じだと湾月くんも英さんもお互い好きじゃないみたいだし、それに湾月くんもいい人だしね」
「湾月関係の噂多ない?」
確かに。
慎重に行動してるつもりが、もしかしてかなり目立ってる?
「あー、それで思い出した!天霊神社瑠璃花くんと行ったんでしょ?
一組の連絡グループですごい話題になってたよ!」
「瑠璃花って瑠璃花詞!?」
「そうそう。これ誰かが撮った写真だって!」
な!?そんなもん撮られてたのか!?
オレらは全員で写真を覗き込む。
一枚じゃないけど……まぁ、どれもオレと詞の二人が映ってる写真で、桔梗を巻き込んだみたいじゃないしそこはよしか。
いや、盗撮だしよくはないんだが……。
「はえー、カップルにしか見えんな」
「二人って付き合ってるの?」
「付き合ってねーよ!」
「これやばいでしょ……強面の浴衣と美少年の甚平……犯罪でしょ……身長差も最高……りんご飴とか二人で舐め合ったり……あー、ここに櫟井くんを混ぜるのも……」
「おーい。優立妄想から戻って来てー」
このグループやばいんじゃ?
陰浦は大丈夫なんだろうか?
オレが陰浦を横目でチラリと見ると、陰浦も写真に見惚れていた。
……そう言えば、陰浦もあっち側だったか……。
しばらく話に花を咲かせ、オレたちは店を出た。
お会計?
口止め料として女子陣が一斉に化粧室に向かったタイミングで、当然お出しさせていただきました。くっそ、予想外の出費だ。
別れ際、陰浦が一人でコッソリとこちらに駆け寄ってきた。
手には新品だろうか?きれいなスマホを握りしめている。
「友達増えてきたな、栞」
「は、はい。鏡夜さんのおかげです」
「いやいや、栞が頑張ったからだよ」
「そ、そうでしょうか……それでですね!」
「うん」
「友達ができたということで、お父さんにスマホを買ってもらったんです。ですから、その~……」
「……」
「……うー……」
オレから言ってもらおうとしてるだろ?
いじわるに感じるかもしれないけど、オレからは言わないからな?
じゃないと陰浦のためにならないし。
「れ、連絡先を教えてしゃい!」
陰浦はスマホをこちらに掲げながら頭下げる。
ふふ。噛んだ。
頑張ったからなのか恥ずかしかったからなのかはわからないが陰浦の耳が真っ赤だ。
「もちろん」
オレが返答すると陰浦の顔は嬉しそうな表情で顔を上げる。
すげーわかる。連絡先が増えるって嬉しいよな。
「た、たまに連絡してもいいですか?」
「構わないぞ」
「雑談とかでもいいですか?」
「いいよ」
「い、一個わがまま言ってもいいでしょうか?」
「なに?」
「き、嫌いにならないでくださいね?」
「ならないよ」
「わ、私もきょ、鏡夜さんと花火……」
「ふ。約束な」
オレは陰浦の前に小指を出す。
陰浦はオレの小指にそっと自身の小指を絡めた。
「陰浦さーん!行くよー!」
「は、はい!」
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の83話です!!
今回はさらに知り合いが増える回!!
増殖する腐女子!
陰浦と花火の約束。果たして守られるのか!?
次回は桜ノ宮家の別荘回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




