母親からの電話
さて、そろそろ思考情報部の合宿の日である。
まぁ、合宿と言っても海でちょろっと遊ぶだけだが……。
ただ、泊まりになる以上それなりに準備はしなくてはいけない。
荷物の用意に攻略の予習、そして何よりもオレがいない間の彩夜と楓の食事の確保。
あー、この家に彩夜と楓だけとか不安過ぎる。
この数日でわかったが、楓の生活力も彩夜とほぼ同程度だ。
夜更かしばかりで朝は起きれず、料理はからっきし。掃除や洗濯物もダメダメ。
健康を意識した食生活が出来ることと洗い物を手伝ってくれることが彩夜よりもマシと言える程度だ。
そんな二人を残して二日も家を空けるとか……この家は原形を保てるのだろうか?
オレが不安に頭を抱えているとリビングの電話が鳴る。
「はい。もしもし?」
「あ、鏡夜!母さんよー!久しぶりねー!元気にしてた?」
本当に久しぶりだが、母さんは相変わらず元気そうだ。
歳不相応のハイテンションだが、親だからかな?なぜか声を聴くと落ち着く。
「彩夜もオレも元気にしてるよ。で、どうしたの?」
「今夏休みでしょ?母さんね、ちょっとだけ帰れることになりましたー!!パチパチパチ!!」
「へー、いつ?」
「もう!ちょっとくらい喜んでくれてもよくない?久しぶりに一緒に過ごせるのよ?」
「はいはい。それで、いつ帰ってくんの?オレも準備とかしとくから」
「えー、本当!?嬉しー!じゃあ、久しぶりに鏡夜の和食が食べたいな!
やっぱり日本人だからかな?和食が恋しくてたまらなかったんだー!いや、一応海外にも和食はあるんだけど、やっぱり本場じゃないと満足できないしー。
そうだ!聞いてよ!この前ね──」
「で!いつ帰ってくるんだ!?」
ったく、相変わらず話が長い上に、すぐ別の話題へと逸れようとする。
「えーっとね、二日後に二日間帰れるわよ!」
「二日後?あー、すまん。その日オレ家にいないわ」
ラッキー!
オレが家にいない間、母さんが二人のこと見ていてくれるじゃん!!
これで心配なく合宿に行ける!
「え!?なんで!?」
「部活の合宿で家開けるわ」
「えー!せっかく鏡夜に会えると思ったのに!!」
「しょうがないだろ、母さんが帰ってくるなんて知らなかったんだから」
「えー、合宿休んで!!母さんと合宿どっちが大事なの!?」
あー、面倒くさい。
なんで親が未成年の子どもに甘えてんだよ。普通逆だろ。
「ちゃんと和食作っといてやるからわがまま言わない。それに彩夜は家にいるし」
「ちぇえ」
「じゃあ、彩夜に替わるな?」
「うん。お願ーい」
「彩夜ーーー!母さんから電話だぞーーー!」
オレが彩夜に知らせるとものすごい勢いで彩夜が降りてくる。
「お母さん!」
「そ。はい」
オレは彩夜に電話を替わる。
彩夜は母親からの電話に嬉しそうだ。
これはまた深夜までコースかな?
『お母さまが帰ってくるタイミング合宿と被っちゃたの?』
「まぁな」
『みんなに合宿に期間ずらしてもらうように頼んでみたら?滅多に会えないでしょ?』
「二日後だぞ。そんなことできるわけねーだろ。
今回はタイミングが悪かった、ただそれだけだよ」
別に残念じゃない訳じゃない。
オレだってできれば久しぶり母さんと過ごしたいとは思う。
でも、今回の合宿は人生一度しかないかもしれないからな。それに対して母さんと過ごす時間は、他の家庭よりは少ないかもしれないけど、それでも今後も何回もあるんだ。
どちらを優先すべきかは明白だ。
オレが階段を上がると楓が立っていた。
「電話、鏡夜のお母さんからか?」
「ああ」
「なんだって?」
「二日後に二日ほど帰ってくるって」
「そうなの!?よかったな!
じゃあ、あたしはその日一旦家に帰るよ」
「なんで?」
「だって、せっかくの家族水入らずだろ?」
オレは無理に作り笑顔をする楓の頭をチョップする。
「アホ。なに一丁前に気遣ってんだよ。楓はもう家族みたいなもんだろ」
「でも……」
「なぁ、楓、お願いごとしていいか?」
「なに?」
「母さんが帰ってくる日オレ部活の合宿でいないんだけど」
「あっ、そうじゃん!」
「んで、ぶっちゃけ母さんが宣言通りに帰ってこれる確率って五分五分なんだ。あの人忙しいから。
もし、帰ってこれなかったら彩夜めっちゃ悲しむと思うんだ。彩夜は母さんのこと大好きだから。
だから、もしもの時は彩夜のこと頼んでいいか?」
「わかった、任せて!」
これでもしもの時も彩夜は大丈夫だろう。
楓がいてくれてよかったな。
さて、オレは母さんが言ってた和食と万が一の時に彩夜の機嫌を取れるようにケーキでも作っといてやるか。
明日は合宿の準備に母さんを迎える準備と忙しくなるな!
翌日、オレは普段よりも早めに起きる。
今日はやることが多いのだ。
まずは普段通り、運動をしたり、掃除をしたり、料理をしたりして体の状態を整える。
次に、食料品の買い出しだ。
母さんが帰ってきて、さらに和食をご所望だ。
ただでさえ予想外の食材消費予定が出現した上に、彩夜に偏食傾向があるため材料に偏りができてしまっている。現在の材料では母さんを満足させられないだろう。
それに、母さんと食事をすることで普段好んで和食を食べない彩夜に和食を食べさせるチャンスだ!和食はヘルシーで健康にいいからな、ぜひ好きになってもらいたい。
食材の調達が終わったら、合宿の必要品を買いに行かねばならない。
なぜ、前日に準備をしているのかって?
宿題のせいに決まってるだろ!!やたら難しい宿題を大量に出しやがって!学校のバカ野郎!!
というわけで、ショッピングモールにやってきた。
いろんな店が一カ所に集中してるから、移動時間を短縮できて便利だよなー。
日用品と雨具はいるよな?薬類も一応見とくか。後は海だし日焼け止めと虫よけスプレーとサンダル、サングラスとかも買っとくか!
『いろいろ買うのね』
「まぁ、なにがあるかわからんしな。ないよりあるに越したことはないだろ」
『勝負下着は買わなくていいの?
男女で行くならそう言うことがあるかもしれないじゃない?』
「はぁ?いらな──いや、一応買っとくか」
『え!?』
「なんで言い出しっぺのトーカが驚いてんだよ?」
『だって……冗談で言ったつもりだったから……。
もしかして鏡夜、この合宿で誰かと一線超えるつもりなの!?』
「なに言ってんだお前は。そんなわけないだろ!
ただ、攻略のこともあるからな細部まで気を使った方がいいだろ?あの下着ないわ~で可能性が潰れたら目も当てられないからな」
『そ、そう言うことね!』
トーカの提案を受け、オレは男性服屋に向かう。
「しかし、勝負下着ってどんなんだ?
地味なのだと普通の下着だよな?」
『赤とか紫とか派手なやつなんじゃない?』
「となると、こういう派手な下着か?」
……普通にトーカついて来てるな……。
一応トーカも女の子なわけだし、女の子の前で下着選ぶの微妙に恥ずかしいんだが……。
『ねえ、これ見て!』
「なに?」
なんだこのえぐい角度の下着は!?
こんなんで大事な部分がちゃんと隠れるのか?こぼれるだろ?よしんば格納できたとしても、窮屈すぎて痛いだろ?
『これって女性で言うところのセクシーランジェリーとかそういう系なのかしら?』
ん?なんだこれ?
はぁ!?大事なところにガッツリ穴が開いてんじゃん!どうなってんだこれ!?
『うっわ!それ、さらにすごいわね!
もはや下着と呼べるかも怪しいじゃない!?』
「ほんとにな。てか、こういう系の下着を下着コーナーと一緒に普通に並べてていいの……か……?」
オレはこの下着を持つべきではなかった。
いや、それ以前に店の構造を失念してはいけなかった。
このショッピングモール内にある店はウインドーショッピングを楽しめるようにガラス張りになっており、外から店内の様子が見える。
結果、オレがえぐい下着を持っているところを見知った顔に見られてしまった。
「村雨……陰浦……」
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の82話です!!
今回は合宿前の準備回!!
準備回じゃし話はテンポよく!!
そして、お約束のハプニング!
次回は目論見通り陰浦栞に友達ができたよ回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




