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初恋強盗  作者: 御神大河
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屋台で勝負

 オレたちは桔梗も加わえて祭りを回る。


「桔梗さんはなにか気になる屋台はあるか?」

「射的でしょ、金魚すくいでしょ、あと型抜き……あっ、たこ焼きも食べてみたいかも、一人じゃ食べきれないからいつも手が出せないよのね」


 いつもって……わかってたけどやっぱり桔梗も友達いない族か……。


「じゃあ、とりあえず射的からやるか。目の前にあるし」

「ねえ、誰が一番多く景品を取れるか勝負しましょうよ!」

「いいよ」

「いいぜ。そうだ、もしオレに勝てたらなにか奢ってやるよ」

「ほんとに!」

「ダメよ!」


 桔梗の強烈な否定にオレと詞は一瞬怯む。


「金銭のやり取りはよくないわ!」

「別に大した金額じゃ──」

「たとえ少額であっても、トラブルになるかもしれないでしょ!」


 なるほど。話に聞く通りの生真面目さだな。

 これは友達の数が限定されそうだ。


「あっ、ごめんなさい……その~、二人がやりたいならやっぱり……」

「今のは桔梗さんが正しいだろ。変に折れるなよ。さっきのオレの発言は撤回で。詞も構わないか?」

「うん!いいよ!」


 オレと詞の発言に暗い表情になった桔梗の顔に安堵と明るさが戻る。


「それじゃあ、正々堂々勝負よ!」


 そう言うと桔梗は真っ先にコルク銃を手に取る。

 先手とは、相当自信があるんだろうか?お手並み拝見だな。

 しかし、桔梗の射的成績はまったくだった。

 できるだけ銃口を近づけようと身を乗り出し、つま先立ちをしているせいで重心がブレブレで狙いが定まってないし、トリガーを引く力が弱すぎてせっかく狙いを定めてもトリガーを引き切った時には銃口があらぬ方向を向いている。

 まぁ、背が低いから出来るだけ距離のアドバンテージを稼ぎたいんだろうが……。


「ダメだなこれは」

「な!?じゃあ、湾月くんやってみてよ!」

「待って待って。次はボクだよ!」


 詞はかなり上手い。重心がしっかりとしており、景品に的をきっちり絞れている。

 さすがは弓道部だ。

 しかし、これは競技ではない。屋台なのだ。

 景品を獲得するには、屋台の知識というものが必要なのだよ。


「見て見て!一個取ったよ!」

「さすがだな」

「やるわね」

「じゃあ、ラストはオレだな」

「頑張ってねー!」

「おう」


 さて、二人には悪いがこういった勝負事でオレが負けることはまずない。

 なぜなら、知識と器用さに差があるからだ。

 射的にはコツが存在する。

 まずは銃と弾選びだ。

 トリガーが弱いと威力が出ない。また、コルクが欠けたりしていても同様に威力が出ない。

 所詮は祭りの屋台だからな、そういった銃や弾も普通に存在している。銃選びと弾選びは勝敗を分ける。

 そして、コルクの詰め方。

 桔梗も詞も何となくで小さい方から詰めていたが、逆だ。コルクは大きい方から詰める方がいい。

 景品に当たる面積は小さければ小さいほど掛かる力が一点に集中して威力が上がるからな。

 さらに構え方。

 ブレを抑制するため、両肘を台に置き脇は閉める。そして、銃身を頬に押し当て固定する。

 片手撃ちとかイキリ散らしたかっこつけのやることだ。それならたくさん景品を取ってプレゼントしてやる方が好感度も上がるというものよ。

 最後に狙う景品。

 高額な景品は落ちづらい上に、釘を打つなどして落ちないよう細工をしている可能性も高い。お菓子や小さな人形などを狙うのがベター。

 狙う場所は景品の上端。ここが一番景品の重心を崩しやすい。

 まぁ、コルクにハンドクリームなどの粘性の高いものを塗りこむことで威力を上げる、よい子は真似しない方がいい裏ワザもあったりするのだが……今回は正々堂々と言われたしやめておこう。

 オレは次々と景品を打ち落とす。


「すごーい!」

「や、やるわね」

「そういつはどうも」


 ああー、屋台の店主が睨んでるよ。

 さっさと退散しよ。


「次は型抜きね!」

「はいはい」


 型抜きもオレの器用さにかかればお茶の子さいさいだ。

 オレが彩夜の誕生日にどんだけ凝ったケーキやお菓子を作ってると思ってんだ?


『鏡夜ってほんと器用ね』

「湾月くんがここまで器用だとは……意外……」

「ボクは全然ダメだったよ~」

「あと金魚すくいだったか?」

「そう!今度こそ勝つからね!」

「ボクも!」


 金魚すくいか……。

 金魚すくいにも金魚の寄せ方とかポイの向きとか尻尾をポイから出すとかコツはあるんだが……。

 そろそろ負けとくか。



「やったー!ついに湾月くんに勝ったわ!」

「ボクも!」

「めちゃくちゃ金魚に逃げられたなー」


 詞と桔梗はオレに勝てて上機嫌ではしゃいでいる。

 楽しそうでなによりだ。


「そうだ!そろそろ、花火が始まるわよ!」

「見に行くか」

「どこで見る?」

「実は私穴場を知ってるんだけど!」


 穴場ね~。

 そういう穴場ってすでに広まってて逆に人が多かったり、人が少ないことをいいことに盛り上がったカップルが絡み合っていて気まずかったりしない?

 大丈夫?


「じゃあ、その穴場とやらに行ってみるか」

「どの辺なの?」

「本殿からちょっと外れたところに階段があるんだけどわかる」

「あー。でも、あそこって立ち入り禁止になってるよな?」

「そうそう。実はあそこ私は入れるのです!」

「は?」

「どうして?」

「私がここの子だから」

「「!?」」


 まじか!?桔梗って実家神社なの!?

 全然知らなかった。

 はぁ~、そりゃ誰も来ない穴場だわ。


「今回は特別だからね。後、誰にも口外しないで欲しいの」

「どうして?」

「許可を出したって知られると、俺も私もと強請ってくる奴が出てきちまうからだろ?」

「あー、なるほど!じゃあ、入る時も見つからない方がいいね!」

「そうだな」


 オレたちは再び屋台ゾーンを抜けて本殿の方へと向かう。

 花火まであと30分くらいだろうか?

 祭りの客の多くは花火を見ようと移動し始めており、背の高い木で空が遮られてしまっている本殿の方はさらに人気が少なくなっている。


「あれ、詞じゃん!来てたんだ!

 おーい、詞!オレらと花火見に行こうぜ!!」


 不意に詞が声をかけられる。

 声をかけたのはオレのクラスの詞と仲のいいメンバーだった。

 どうやら角度的にオレの顔はお面によって見えず、桔梗はそもそも背が低く一緒にいることに気付かなかったようだ。


「あっ、みんなも来てたんだ!」


 詞は嬉しそうに返答するが、オレの存在に気付いた向こうサイドの表情は面倒なのに声をかけてしまったという感じで歪んでいる。


「あ、えっと、湾月くんも一緒だったんだね……」

「うん!」


 おいおい。そんなに嫌そうにしてくれるなよ。

 普通に傷付くからね。

 しかも、桔梗も学校では面倒な存在扱いなんだよな?そう考えるととんでもないメンバーで祭りを楽しんでるんだな。

 まぁ、オレに視線が行き過ぎて桔梗の存在に気付いてないっぽいけど。


「詞、行って来いよ」

「え!?なんで?」

「なんで?って。いつものメンバーでイベントごとを一緒するってのは大切だろ?

 オレと違ってお前は人気者なんだ。ちゃんと輪に入ってこい」

「今日は鏡夜と遊ぶって約束したんだからそんなの別にいいよ!

 それに鏡夜が周りからどう思われてるとかボク気にしないし!」

「ありがと。

 ただな、そう言ってくれる詞だからオレも気兼ねなく送り出せるんだぜ。

 詞ならまたオレと遊んでくれるだろ?それに、思考情報部で遊びに行く予定もあるしな!」


 詞はいい奴だ。オレが今までに出会った人の中で一番と言っていい。

 だから、オレの存在が詞の足枷になるようなことは絶対にごめんだ。

 普段の学校内でも、詞にはオレよりも周りの連中を優先してもらうようにしてもらってる。

 最初に詞にそう伝えた時は、それはもう猛反発にあった。それでも、最終的にはオレの頼みということもあって飲み込んでくれた。

 今回もそれと同じだ。なにも変わらない。

 ただ、詞としては今日はちょっと違うのだろう。

 不満そうな泣きそうなそれでいながら少し嬉しそうな複雑な表情をしている。


「待っててくれてるぞ。行って来い」


 オレにもう一押しされた悩んでいた様子の詞は、オレの脛をつま先で軽く小突く。


「鏡夜のバカ。また、誘ってね!約束だからね!!」


 そう言うと詞は小走りでいつものメンバーに合流していった。

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の80話です!!

今回は夏祭りの屋台回!!

屋台で使えるテクニック(ガチ)の解説がついててお得!

最後は友情の切なさを一つまみ。

次回は祭りのフィナーレ打ち上げ花火回!!お楽しみに!


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