夏祭り
ファミレスを出たオレたちはいい時間だし、祭りが開催される天霊神社へとのんびり歩きながら向かう。
「楽しみだね!」
「そうだな」
友達と祭りに行くのは初めてだ!
昔は彩夜と一緒に毎年行っていたんだが、最近は彩夜に拒否されてしまうようになり祭り自体ご無沙汰だ。
「詞は祭りで何かしたいことあるか?」
「うーん、そうだなぁ……。
綿あめとりんご飴とかき氷と……あとフランクフルト!」
ついさっき食べたばっかなのに、食べ物ばっかだな。
「鏡夜は?」
「食べ物なら焼きトウモロコシとかプレスせんべいとかあるといいな。滅多に食べないし」
「おおー、なんか渋いね!そう答えた方が男らしいかな……?」
「いやいや、思ったものを素直に答えなさいよ」
「でも、鏡夜の答えに比べるとボクのはなんか男らしくない気がするし……」
ちょっとした質問でこれか。
どうしたものか?
……!?
「詞、男らしくなりたいならアレとかどうだ?」
「着物屋さん?」
「そ!浴衣のレンタルやってるみたいだし、浴衣姿になってみないか?
男物の浴衣を着れば男らしくなるってもんだろ!」
「おおー」
まぁ、詞の浴衣姿を見たいだけなんだけど。
だって絶対似合うだろ!
店に入りオレと詞ははそれぞれ着替える。
「じゃーん!見て見て!甚平にしてみたんだ!どう?」
「おお!似合ってるじゃんか!
スゲーかわ──ゲフンゲフン、かっこいいぞ!」
まじか!?
詞の甚平姿……強すぎる……。
詞の甚平姿に感動していると、詞が姿見越しにオレと自分を見比べ始める。
「どうした?」
「うーん。やっぱり鏡夜かっこいいな」
「そうか?」
「うん。背高いし浴衣すごい似合ってる」
何度もストレートに褒められるとその気になってしまいそうだ。
詞はわざとらしさが一切なくサラッと褒めてくるからな!勘違いしないように気を引き締めねば!
「ありがとな。そんじゃあ、着替えも終わったし、祭りに行くか!」
「うん!」
『へー。すごい賑やかじゃない!』
天霊神社は思ったよりも賑わっていた。
全国から人が!みたいな大きな祭りではない地元の祭りだが、それでも花火が打ち上がる規模ではあるため、地元民以外にもちらほら参加するしな。
「虫よけ持ってくればよかったね」
「その辺で買ってくるわ」
確かに虫が多くて若干鬱陶しいな。
ただそれ以上に周囲の視線が鬱陶しい。特に女性の纏わりつくような視線が。
詞の格好に変なところはないし、オレも着替えた際に細部までチェックしたから変なところはないはずだ。
となると、やはり詞の隣をオレが歩いていることで詞が際立つんだろうな。
詞は美少女顔であると同時に美少年だからな。男とわかる格好をしていれば女子としては気になる相手となるのだろう。
「鏡夜、ボクが虫よけスプレーかけてあげるよ!」
「え、そうか?」
「うん。貸して!」
虫よけってかけ合ったりするものじゃないと思うのだが……まぁいっか。
滅多にかけることないし、祭りの雰囲気も相まってテンション上がっているんだろう。
オレは詞と祭りを楽しむ。
綿あめにりんご飴、焼きそば……食ってばかりだな……。
一応、定番のお面も買った。
トーカは終始羨ましがっているが、さすがにどうしようもない。
まぁ、機会があったら二人で行ってやるか。
「本殿の方なら座れるんじゃない?」
「そうだな」
オレたちは焼きそばを腹に収めるため座れる場所があるであろう本殿の方へと向かう。
本殿の近くは屋台がないということもあり、人は疎らである。
光源の数も少ないため祭り中心地より薄暗く、心なしか涼しい気もする。
「やめてください!!」
本殿の前で人が揉み合っている。
ナンパ……にしては強引だな。
男三人が女の子を取り囲み、本殿の奥に連れて行こうと腕を引っ張っている。
つーか、女の子の頭に初恋マーカー付いてんじゃん。
手には触れないように気を付けておかないと。
「そういう抵抗とか別にいらないから!君だってそのつもりでついてきたんでしょ!?」
「そうだよ!男引っ掛けようと思って女一人で祭りに来たんだろ!?」
「違います!放してください!!」
どう見ても本気で嫌がっているが、野郎連中も引く気はないって感じだな。
周囲で一休みしていた連中は面倒事に巻き込まれないようにと、そそくさとその場を離れていく。
「鏡夜」
「わかってる。詞、これ持っててくれ。ちょっと行ってくるから」
「ボクも!」
「待ってろ」
見て見ぬふりして後からモヤモヤする選択肢はごめんだ。
オレは詞に焼きそばを手渡すと揉め事へと首を突っ込む。
「おい。なにやってんだ?」
「あ゛?」
男たちが威圧しながらこちらを見ると同時に、女の子もこちらに振り向きながら助けを求めてくる。
「すみません!助けてくだ──湾月くん!?」
「桔梗律!?」
相手が桔梗とわかれば話が早い。手に触れても問題ないからな!
オレは男たちの手から桔梗を引き寄せると胸元に抱き込む。
「おい!俺たちが先に──!」
「あ゛あ?」
オレは眼力を込めて威圧する。
さすがに三対一は無理だ。十中八九負ける。オレは喧嘩自慢とかじゃないからな。
オレの目つきよ、いつも怖がられて足枷になってんだ!こういう時くらいは役に立ってくれよ。
「て、てめぇ何なんだ?」
おっ!引け腰になってくれてるな?
「オレはこいつの彼氏だ。で?お前らはなに?」
「チッ!なんだよ、彼氏持ちかよ」
「行こうぜ」
桔梗に絡んでいた男たちは不貞腐れながら人混みの中に戻っていく。
「ふーーー。なんとか穏便に済んだな」
「ちょ!」
男たちが完全に見えなくなると桔梗がオレの腕の中から脱出する。
「ちょっと、いつまで抱いてるつもり!」
「ああ、わりぃわりぃ」
「それで、なんで湾月くんがここにいるわけ?」
「そりゃ祭りだからに決まってんだろ」
「鏡夜ー!」
安全になったことにより詞もオレと桔梗に合流する。
今桔梗の奴オレが女と来てると思っただろ。
詞がオレを呼んだ瞬間、肩を跳ねさせて即座に詞の格好を確認したもんな。
「あ、えーっと、一組の……」
「そ。一組の学級委員長である桔梗律さんだ。で、こっちはオレと同じクラスの瑠璃花詞」
「よ、よろしく」
「こちらこそよろしくね?桔梗さん、浴衣綺麗だね」
「そ、そう。ありがとう……えへへへ」
な!?いきなりサラッと褒めるだと!?
しかも、桔梗嬉しそうだし。
詞のこういうとこやっぱすごいよな。
オレは相手を褒める時、事前に心構えしておかないと身構えちゃうというのに……。
「で、桔梗さんはこんなとこでなにしてたわけ?」
「湾月くんと同じで祭りに決まってるでしょ!」
「いや、そうじゃなくてなんで本殿の方にいるんだよって話」
「さっきの人たちに本殿の場所がわからないから案内して欲しいって頼まれたのよ」
「本殿の場所がわからないとか明らかなウソだろ。騙されるか普通?」
「だって、浴衣をかわいいって褒めてくれたし、いい人だと思ったんだもん!」
いい人の根拠それだけ!?
もしかして桔梗ってお堅いわりにチョロいのか?
手早く攻略できるならとっとと終わらせたいのだが……。
「まぁいいや。で、桔梗さんの連れは?」
「……一人よ」
「え?」
「一人なの!!いいでしょ別に一人でお祭りを楽しみに来ても!!」
これは藪蛇だったか。
桔梗に連れがいるなら「桔梗を放置してなにやってたんだ」と説教してやろうと思ったのに。
オレと詞はアイコンタクトをする。
「なぁ、桔梗さん。もしよかったらオレたちと一緒に祭りを回らないか?」
「え?でも、私がいたら迷惑じゃ……」
「そんなことないよ。大勢の方が楽しいし」
「そうだぞ。遠慮すんな」
「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えようかな」
平静を保とうとしているんだろうが、そわそわしすぎて嬉しさを隠せてないぞー。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の79話です!!
今回は夏祭り回!!
鏡夜と詞はなーんで周囲の視線を浴びているんでしょうねー?
そして、偶然にもトラブルに巻き込まれていた桔梗律と合流!
次回は出店での勝負回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




