おんぶが嫌なわけ
「……おーい」
オレが桜ノ宮を保健室に負担なく連れて行ってやるために、おんぶしてやろうと言うのに、一向に桜ノ宮が被さってこない。
「なにしてんだ?」
「別にこれくらいなら歩いて行けるわ」
「わがまま言ってねーでオレの言うこと聞けって。
悪化して、みんなで行く予定の海までに治らなくなったらどうすんだ?」
「それは……」
「それともなんだ?本当は海行きたくねーのか?」
「そんなことないわ!」
「じゃあ、素直に従え」
「わ……わかったわよ」
桜ノ宮って変なとこ頑固だよな。
料理を作ってもらうのはよくて、おんぶはダメとか……。
おんぶを受け入れた桜ノ宮がオレの肩に手をかける。
オレは桜ノ宮を支えるため腕を後ろに回す。と同時に桜ノ宮に突き飛ばされ、顔面を床にぶつけそうになる。
「あっぶねーな!何すんだよ!?」
「こっちのセリフよ!!どさくさに紛れてお尻摩ったでしょ!?」
「体を支えようとしただけだろ!?」
「それなら脚でいいはずよね?あなたは確実におしりを触ったわ!いいえ、撫でたわ!」
「スカートで他所から見えないようにしようとしただけだって!!中見られたらまずいだろ!?」
オレの発言に桜ノ宮がバッとスカートを押さえ、オレを睨みつける。
「見たの?」
「見てねーよ!見えないようにしようとしただけだって!」
「本当でしょうね?」
「ほんとだって!」
「わかったわ。ギリギリまでわたしがスカートを押さえておくから、あなたはスカートの端だけ押さえて。いい?」
「オーケー、オーケー。それで行こ」
オレは再び桜ノ宮の前に屈む。
「ちょっと!指撫でるのやめてくれる?」
「しょうがねーだろ。手元見えねんだから」
「押さえるだけだからね?引っ張らないでよね?」
「へいへい」
支えるポジションが決まり、オレはゆっくりと体勢を上げ桜ノ宮を持ち上げる。
やばい。
桜ノ宮に指摘されたせいで変に手の感覚に意識がいってる。
ちょうど指がスカートのある方とない方に分かれているせいで、直に桜ノ宮の太ももに指が吸い付いている感覚が……。
考えるな、湾月鏡夜!!お前は紳士だろ!?
「桜ノ宮?悪いんだけど、歩きにくいからオレにもたれかかってもらってもいいか?」
「え!?なんで!?」
「だから、体を逸らされてると、アンバランスで歩きにくいんだって!」
「でも……」
「遠慮すんなって、言ってんだろ!」
「キャッ!?」
オレは体を揺すって、桜ノ宮の体を背中に密着させる。
ん?
なんか、背中に当たる感触が滑らかすぎないか?
オレはこれでも毎日洗濯をしている。その中には彩夜の下着も含まれる。
つまり、当然オレはブラジャーというものがいかにしっかりしているかも、どういった感触のものなのかも把握しているのだ。
そして今、オレの背中が感じ取っている感覚。これは明らかに……。
考えるな、湾月鏡夜!お前は紳士だ!紳士なんだ!!
「じゃ、じゃあ行くか──イデデデデデデ!?」
オレの右頬が思いっ切り引っ張られる。
「早く行ってちょうだい!保健室までこのままだから!」
「わーった!わーりました!」
オレは桜ノ宮に頬をつねられた状態で保健室へと急ぐ。
保健室のベットに桜ノ宮を下ろしたオレは赤くなった頬を摩る。
「いってー。なにすんだよ」
「あ、あんたが鼻の下伸ばしてたからでしょ!この変態!!」
「だからってつねることはねーだろ!」
「感覚ってのはより刺激の強い方へ鋭敏に働くのよ!
つねられてれば、わ、わたしの……を意識しないようにできるでしょ!変態!!」
「変態、変態言うなよ。しょうがねーだろ、お前が下着付けてないと思わな──バフォ!?」
オレの発言を飛んできた枕が遮る。
「ハッキリ言わないでちょうだい!」
「す……すまん……」
ひと悶着の後、オレは桜ノ宮の応急手当てをする。
手当て中もいつ蹴りが飛んでくるかひやひやだったぜ。
なにしろ桜ノ宮は下を履いてない状態でピリピリしてるからな。少しでも視線が誘導されようもんなら半殺しで済むかどうか……。
「どうだ?多少は楽になったか?」
「ええ」
「そうか。ただの応急処置だからあとでちゃんと病院行くんだぞ?」
「わかってるわ」
「そんじゃ、家まで送っていくよ」
「その必要はないわ。タクシーで帰るから。それに、あなたが家までついて来て欲望のまま襲い掛かってきたら、今のわたしじゃ抵抗できそうにないもの」
「んなことしねーよ!てか、オレの評価そんななの!?」
「冗談よ。それにしても料理といい、テニスといい、手当といい、湾月くんって器用よね」
「小さい頃からいろいろやってきたからな」
「いいご両親なのね……」
ボソッと呟いた桜ノ宮の表情はどこか淋しそうだ。
ここでオレも桜ノ宮と同じくほぼ放任状態であることを伝えたら、共感から仲良くなれるんだろうか?
……なれないだろうな。
桜ノ宮はオレが自分とは違う境遇だと思っているから、オレにわがままを言えているんだろう。
それが似た境遇だと知ったら遠慮しちまうんじゃなかろうか?
オレはそんな気がして打ち明けるのを止めた。
「じゃあ、荷物取ってくるから大人しくしとけよ?」
「鞄、勝手に開けたりしないでね?」
だから、そう無駄に意識させるような不用意な発言やめなさい。
そう言えば桜ノ宮の鞄には下着やらストッキングやら入ってるんだったってなるでしょうが!
「オレは見た目通りの常識人だよ」
「ふふ、そうね。
ねえ、湾月くん。今日のアレ、藍川さんだから助けたの?それとも誰でも助けてあげてた?」
テニス部のことか?
うーん。
「どうだろうな?」
「わたしが困ってたら助けてくれるのかしら?」
「それって──」
「やっぱりいいわ!今のなし!忘れてちょうだい!」
桜ノ宮はなにか困りごとを抱えているんだろうか?
気にはなるが……ただ、桜ノ宮が言うのを止めたってことはまだオレに信用がないってことだ。
オレのやることは無理に聞き出すことじゃなくて、打ち明けてもらえるだけの好感度を獲得することだな。
「お前が困ってる姿は想像できねーな」
「そうよね」
「でも、散々わがまま言ってきてんだから、オレには遠慮すんなよ。絶対手ー貸してやっから」
そう言い放つとオレは荷物を取りに保健室を出る。
うおおお!小っ恥ずかしいセリフ吐いちまった。
『へー。かっこいいじゃない』
「うるせー」
テニス部の時といい、なんか今日は変なテンションだ!夏の暑さにやられたかな?
「ただいまー」
桜ノ宮との宿題会を終えたオレは無事帰宅した。
「「おかえりー」」
帰宅したオレを彩夜と楓が明るく迎えてくれる。
楓が泊まるようになってから、彩夜がよくオレの相手をしてくれるようになった気がする。
と言うのも楓が結構な頻度でオレに絡んでくれるから、それに引っ張られているんだろう。
「あれ、学校行ってたのアニキ?」
「ああ」
「なに、鏡夜の成績が悪くて補習とか?」
「いや、ちょっと用があっただけだよ」
「ふーん」
「ねえ、なんかアニキの鞄濡れてない?」
「え、まじ!?」
彩夜に指摘され鞄を見ると確かに鞄の底の方の色が若干変わっている。
オレは慌てて鞄の中身を取り出す。
せっかく進めた宿題が、濡れてダメになりましたとかなったら堪ったもんじゃない!
「なにこれ?ツイスター?」
「なんでこんなものが鞄に入ってんの?」
「あー、それは……」
そういや、宿題の見せ合いっこの定番としてせっかく買っていったのに、結局全く出番なかったな。
金の無駄アンド荷物になっただけだ。
「もしかして学校で遊んできたの?」
「誰と?」
彩夜も楓も目が怖いんだけど。
こ、これは日菜への告げ口ルートか!?
「い、いや、違うって!
ほら!最近彩夜も楓もずっと家にいて運動不足だろ?これなら楽しく運動できるかなーと思って買ってきたんだ!
その証拠にまだ開封されてないだろ?」
「あ!ほんとだ!」
あっぶねー。使ってなくてよかったー。
「ほんとかなー?」
「な、なんだよ楓?」
「ツイスターってマンガのエロいやつの定番だろ?
実は鏡夜、あたしたちにエロいことさせようとしてんじゃねーの?」
『鏡夜?』
「アニキ?」
「違うって!違うからな!!」
なんでこうなるんだよー!!
もうマンガは信じねーからな!!
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の75話です!!
今回は桜ノ宮真姫をおんぶ回!!
桜ノ宮真姫のナイスバディの本領発揮!!
そして、最初の方に出てきたツイスターが落ち!
次回は陰浦栞とのお出かけ回!!お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




