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初恋強盗  作者: 御神大河
71/203

お嬢様はがさつ

 やばい、緊張で手が震える。

 オレは朝からスマホの一点を見つめ、自室で落ち着きなくウロウロしていた。


『もう、いい加減覚悟決めたら!?もう5分ぐらいそうしてるわよ!』

「いや、しかし……」

『うじうじしない!なんならアタシが押してあげようか!?』

「待て待て!自分でやるから」


 オレは深呼吸すると覚悟を決める。


 プルルルルプルルルル


「もしもーし!」

「詞か?」

「うん!」

「今大丈夫か?」

「大丈夫だよ。どうしたの?」

「その~今度天霊神社(てんりょうじんじゃ)で夏祭りがあるんだけど、よかったら一緒に行かないか?」

「行く!」

「そうか!」

「詞~。はーい。今行く!」


 電話越しに詞を呼ぶ声が聞こえる。


「すまん。なんか用事だったか?」

「ううん。これから部活の夏合宿なんだ」

「そうか。じゃ、じゃあ待ち合わせはまた今度決めよう。頑張ってな!」

「うん!行ってきまーす!」


 ツーツーツー


「……緊張したー!」

『たかが電話一本でなに言ってんのよ』

「バカヤロー。たかが電話一本、されど電話一本だろうが!そもそも家族以外に電話かけたの初めてなんだからな!

 断られなくてよかったー!!」

『と言うか、なんで夏祭りなんて言う重要なイベントを瑠璃花くんに使ってんのよ!ミッションに使いなさいよね!』

「いいだろ別に。詞とは遊びに誘う約束してたんだし!」

『もしかしてだけどさ、誘う理由がなかったから今まで誘えなくて、それで夏祭りって言う理由ができたから誘ったの?』

「そ……ソンナコトナイケド……ほ、ほら、詞は初めてできた友達だし特別って言うか……」

『呆れた……』

「ぐっ」


 しょうがないだろ!特に理由もない状態で、どう誘っていいのかわかんなかったんだから!

 これでも結構頑張ったんだから、憐れんだ目で見てくんなよな!

 トーカに図星を衝かれオレがむくれていると、先ほど大役を果たしたスマホが鳴く。


 ティロリン♪


「ビックリしたー」

『誰から?』

「えーっと、桜ノ宮真姫からだ」

『なんだって?』

「夏休みの宿題を持って部室に集合、だって」


 これは……宿題見せあいイベント!?

 ゲームで登場することはほとんどないが、マンガなどでよく見るイベントだ。

 確か最初は普通に宿題をやって後半は遊んでしまうというのがセオリーのイベントだったよな?

 どんな遊戯がいいのだろうか?

 部室集合と言うことは、思考情報部のメンツが来るということだよな?詞は合宿って言ってたし、4人か……。

 4人で遊べるもの……確かマンガだと……。

 トランプ、麻雀、王様ゲーム……!?ツイスター!!

 トランプは家にあるから、ツイスター買ってくるか!



 学校に来るの久しぶりだな。


『普段とあんまり変わんないわね』

「そうな」


 夏休みの学校はさまざまな方向からセミの声に負けない部活に励む学生の元気な声が響いている。

 オレはそんな声に包まれながら、部室のドアを開ける。


「遅い!!」


 入室一番、桜ノ宮の声がオレを撃つ。


「すまん──って他の奴は?」

「藍川さんと瑠璃花くんは部活、村雨さんは忙しくて来れないそうよ。みんなの返信見てないの?」


 買い物に行ってて気づかなかった。

 と言うか、みんな予定確認してから集合かけろよな。

 出席率めちゃくちゃ悪いじゃん!


「で、どうすんだ?」

「しょうがないから二人でやりましょ。宿題持って来てって言ったでしょ?どれくらいやっているのかしら?」

「全然だけど」

「もしかしてなに一つ手を付けてないの?」

「まぁ……」

「呆れた……夏休みの後半はみんなで海に行くんだから宿題終わらしときなさいよね」

「へいへい」


 これは遊ぶって雰囲気じゃないかな?

 オレと桜ノ宮は向かい合って宿題に取り組み始める。



 ……暑い。

 なんでこの部屋だけ空調効いてねーんだよ!

 職員室に空調を利かせられないか相談しに行ったところ、どうやらこの部室は最近まで使われていなかったこともあり空調が壊れているらしい。


「なぁ、移動しない?」

「藍川さんたちが来てくれるかもしれないでしょ?」

「えー」

「湾月くん、飲み物買ってきてちょうだい。お金は出すから。あと、氷入りの水バケツ持ってきて。氷は家庭科室に用意してあるから。これ家庭科室の鍵ね!」

「なんで家庭科室の鍵持ってんの?」

「なんでもいいでしょ?とにかく行ってきてちょうだい」

「へーへー」


 なんでオレが……。

 あー飲み物なにがいいとか聞いてなかったな……適当に買うか。

 オレは桜ノ宮に言われた通り、飲み物と氷バケツを持って部室へ戻る。

 飲み物は温くならないように氷バケツに突っ込んだ。


「持ってきたぞー」

「ご苦労様。ここに置いてくれる?」


 桜ノ宮は足でちょんちょんと自身の足元にバケツを置けと指示してくる。

 靴もストッキングも脱ぎ散らかしてるし……。

 桜ノ宮ってお嬢様の割にだらしないよな……お嬢様だからだらしないのか?

 オレは指示通り桜ノ宮が使っている机の下に氷バケツを置くと、机が水滴で濡れないように桜ノ宮の前にハンカチを敷き、飲み物を並べる。


「あなたが遅いから体調不良を起こすところ──ひゃん!」


 水バケツに足を入れた桜ノ宮が急に足を上げる。

 足を上げたせいで桜ノ宮の膝が机を蹴り、濡れたペットボトルが桜ノ宮の太ももへ落下する。


「うひゃん!」

「変な声だすなよ」

「し、仕方ないじゃない。思ったより冷たかったのだから。もう、スカートが濡れてしまったわ」


 オレが床へ転がったペットボトルを拾い上げようと屈んだタイミングで、桜ノ宮が濡れたスカートを乾かすようにパタパタとはためかせる。

 目の前でそんなことをされてみろ!

 オレだって立派な男だ。反射的に目線が誘導されてしまう。

 ほどよく肉付きのいい白い太ももの奥にレースをあしらった高級そうなパン──


「──ぶへぇ」

「なに見てるのよ!」

「いや、お前があんなタイミングでスカートを持ち上げるから!」

「言い訳は結構よ!鼻血流すほど欲情して、この変態!!」

「鼻血はお前が顔面を蹴ったからだろうが!!」


 くっそ。夏休みに入ってからオレの鼻呪われてないか?

 オレはトイレへ鼻を洗いに行く。



「ご、ごめんなさい……」


 オレがトイレから戻ってくると桜ノ宮は冷静になったのだろう。謝罪してきた。


「別に気にしなくていいぞ」

「ですけど……」


 ただでさえ蒸し暑いんだ。さらに重たい空気を追加するのは勘弁してくれ。

 しょうがない、道化になるのも大切だな。


「大丈夫だって、美人に足蹴にされるのは紳士にとってはむしろご褒美だから」

「そうなの!?」


 ん?本気にした?

 桜ノ宮は小さい声でなにやらブツブツと呟いている。

 もしかして、桜ノ宮に余計な知識を刷り込んだんじゃ……。

 まぁいっか!


「それより、水とお茶とスポーツ飲料水どれがいい?せっかく買ってきたんだし、冷えてるうちに飲もうぜ?」

「わたしこのスポーツ飲料水ってやつ飲んだことないのよね」

「なら、飲んでみたらどうだ?口に合わなかったらオレが飲むし」

「そ、そうね」


 桜ノ宮はペットボトルに手を伸ばし、キャップと格闘し始める。

 頑張っているがこれは開けるの無理そうだな。


「やっぱりこれを飲むのはやめるわ!」


 キャップに敗北して拗ねるなよ。


「ったく、開けてやるから貸しな」

「任せるわ」


 オレは桜ノ宮からペットボトルを受け取るとキャップを回す。

 かなり固いのかと思ったが、キャップはすんなりと外れた。

 桜ノ宮ってどんだけ非力なんだよ。


「はい」

「ありがと」


 桜ノ宮はそーっとペットボトルに口をつけ飲み始める。


「どうだ?」

「ちょっとべたついてて喉に引っ掛かるわね。これ逆に喉乾かない?」

「あー、確かに」

「お茶と水にしようかしら」

「そうか。じゃあこれはオレがもらうな」

「待って!」


 オレがスポーツ飲料水を飲もうとすると桜ノ宮が止めてきた。

 桜ノ宮は水とお茶を見比べた後、お茶をオレに差し出してくる。


「やっぱりこっちにしてちょうだい」

「いいけど。スポーツ飲料水はどうすんの?」

「これはっ……わたしが飲むから……」


 そう言うと桜ノ宮は一気にごくごくと飲み始める。

 実は気に入ってたのか?

また読んでいただきありがとうございます!

『初恋強盗』の71話です!!

今回は桜ノ宮真姫との宿題回!!

お嬢様は結構がさつ。

そして、夏がくれるラッキースケベ!!

次回は桜ノ宮真姫との宿題後編回!?お楽しみに!


忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。

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