陰浦家大暴走
今のオレと陰浦の体勢は向こうからはどう見えているんだろうか?
想像したくないな……。
陰浦が振り返ったことでオレからも陰浦の両親の顔が見える。
父親の方は怒りからだろうか?フルフルと体を震わせている。
母親の方は最初にあった時と変わらず、ニコニコとしている。……それはそれで怖いな。
「ママ!?パパ!?なんでいるの!?」
「急に栞がお風呂に入りだしたから変だなとは思ったんだ!でも、栞に限ってまさかそんなことと思っていたのに、まさか……まさかとは……」
「……!?ち、違う!違うもん!!」
父親に指摘されてようやく自身の現在の状況を把握したのだろう?
向こうを向いてるから陰浦の顔は見えないが、顔を見なくてもテンパっているのが手に取るようにわかる。
「なにが違うんだ!ベットの上で体を寄せ合ってるし!湾月くんに至っては鼻血まで出してるし!
それに、栞が襲われているならパパが助けてやらなきゃと思ってたのに、栞の方が覆いかぶさってるし!」
おわー。お父さんだいぶ混乱してんな。
まぁ、愛娘がよりによって自分がいる自宅でおっぱじめようとしていると勘違いしてるんだから、無理もないか。
オレに殴りかかってこないだけ冷静と言えるだろう。
「もう。ちょっと落ち着きなさい、あなた。
栞だって年頃なんだから、こういうことに興味があって当然じゃない。むしろない方が不安でしょ?」
「ちがっ──」
「栞はまだ高校生一年生だぞ!さすがに早すぎるだろ!!」
「あら、私たちだって初めては高校生の時だったじゃない」
待て待て待て!
知り合いの親の性事情聞くとかしんどいって!!
もしかしてオレがいること忘れてます?
陰浦も親のとんでもない暴露が恥ずかしすぎて、頭抱えちまってるし!
これから陰浦とどんな顔して接すればいいのよ!?
そんなオレたちの心境を他所に陰浦の母親はオレたちを諭し始める。
「パパにはああ言ったけど、私も賛成ってわけじゃないのよ?
エッチに興味を持つのはちゃんと成長してるってことだし、悪いことじゃないと思うの。
でもね、あなたたちはまだ責任能力のない子どもなんだから我慢も覚えなさい。
どうしても我慢できない時はちゃんと妊娠のリスクを学んだ上で避妊すること!いいわね?」
「だから!違うの!!湾月くんとその……そういうことしてないから!!」
よく言ってくれた陰浦!
まったく、思い込みの激しい両親だな。
「あら?違うの?ティッシュも転がってるし、てっきり……」
「湾月くんが鼻血出しちゃったから拭いてあげてたの!鼻血も私がぶつけちゃったからだからね!」
お騒がせしてすんません。
「じゃあなんでお友達が来ているのにお風呂になんか入ったんだ?」
「それは……」
「あ゛あ゛あ゛ーーー」
「あらあら」
「違うからーーー!!」
父親は発狂してるし、母親はニマニマしてるし、陰浦も想像だにしない大声出してるし……もうめちゃくちゃだ。
その後も長い長い陰浦の弁明は続き、ようやく納得してもらえた。
オレ?
オレはなにもせず、ただ行く末を見守っていたよ。
他所の家の親の説得とか緊張するし、オレが参戦することによって話がこじれても面倒くさいし。
「湾月くんごめんなさいね?」
「いえ、誤解を招く状況を作ったオレも悪いので」
「栞、本当に湾月くんと付き合ってるわけじゃないんだな!?」
「そうだって言ってるじゃん!パパしつこい!」
「残念ねー。ようやく栞も現実で好きな人ができたと思ったのに」
「え!?それってどういう……」
「だって栞、物語りの登場人物ばっかり好きになってニヤニヤしてるでしょ?親としては心配よ。
後これもこの機会に言っておくわね。栞が好きなものを否定はしないけど、男の人同士のやつ、アレほどほどにしておきなさいよ?」
「な、なななんで知ってるの、ママ!?」
「そりゃ親だもの。部屋の掃除だってしてるし」
「男の人同士ってなんだ?」
「パパは知らなくていい!!」
「え?」
「そうね、あなたは知らなくていいわよ」
「え!?」
あーあ。
父親は終始置いてけぼりで話についていけてないし、母親はそんな父親を見て楽しそうに笑っている。
『いい家族ね』
「そうだな」
お互いに遠慮がなく、賑やかな笑い声が絶えない。
普段学校では一言も口を開かない陰浦がすごく楽しそうだ。
……本当にいい家族だな。
「湾月くんは栞の趣味知ってるの?」
「まぁある程度は」
「あら、そうなの!理解のある彼でいいじゃない!ねえ、あなた?」
「パパは認めないからな!」
「だからそういう関係じゃないの!」
陰浦の両親の乱入もあり、その後いい雰囲気になることもなかった。
「じゃあ栞、オレはそろそろ」
「え!?」
「あら早いのね。よかったらお夕食一緒にどう?」
「お誘いはありがたいのですが、オレも家で夕食を作らないといけないので……すみません」
勝手に外で食べてきたとなったら、彩夜と楓の手が付けられなくなってしまう。
「へー湾月くんってお料理できるのね!いつも作ってるの?」
「まぁ」
「栞、あなたも食べるばっかりじゃなくてお料理お勉強したら?やっぱり多少作れた方が将来的にいいわよ?パートナーも喜ぶし。ね、あなた!」
「ま、まあ……」
「……考えとく。それよりあんまり足止めしないで!」
「あら、そうね。ごめんね、湾月くん。またいつでも来てね?」
「はい。お邪魔しました」
「私、湾月くんを駅まで送ってくるね?」
「はーい。いってらっしゃい。あなた、追いかけようとしないで!」
オレは陰浦の両親に挨拶をして陰浦家を後にする。
「湾月くん、今日はせっかく来てくれたのにママとパパがすみません」
「いや、全然。オレはすごく楽しかったよ。……いいご両親だな」
「そうかな?湾月くんのご両親はどんな人なんですか?」
「母親はほとんど帰ってこない。父親は……早めに逝っちまった」
「す、すみません……」
「気にしないで、オレももう慣れたし。それより、陰浦。次の土曜日会えないかな?」
「次の土曜日ですか!?次の土曜日……」
「お願い」
オレは陰浦の目を見つめる。
目が合った陰浦は照れた様子でサッと目を逸らした。
「わ、わかりました」
「ありがと!じゃあ、朝の9時にこの駅で待ち合わせね?迎えに行くから」
「はい」
次の合う約束をしてオレと陰浦は別れる。
オレが手を振ると陰浦は長いこと小さく手を振り返してくれた。
『なんで次の土曜日なの?明日でもよかったんじゃない?あんたも陰浦さんもどうせ予定ないんだし暇でしょ?』
「土曜日にとある店でイベントをやってんだ。陰浦をそこに連れてく」
『なるほどね。だとしても、明日や明後日も約束して会えばいいじゃない!いつも短期決戦短期決戦言ってるんだし……もしかして、もう道筋見えてるの?』
「ああ。陰浦栞は典型的な人見知りの激しい図書委員だからな。この類は学園ものの恋愛ゲームには50%強の確率で登場している。だから、対して特別な対策は必要なかった。
そして、この手のキャラは親密度を上げるまでの難易度が異常に高い反面、仲良くなってしまえば好感度は上げやすいという特徴がある。
自宅にまで呼ばれる程度の親密度を獲得した今、大ポカをしない限りこのまますんなり攻略できるはずだ」
『じゃあ、なおさら明日にでも会えばいいじゃない?なにか問題があるの?』
「ある。陰浦栞は友達が極端に少ない。
親に把握されているくらい友達が少ない奴が遊びに出た時点で、親も誰と遊んでいるのか察せてしまうだろう。
じゃあ、それを前提に。夏休みに毎日毎日会っていたのに、ある日パタリと合わなくなったとしたらどう思う?」
『確実に不審に思うわね』
「そんなわけで陰浦栞に関しては少ない接触回数で堕とし切る。それと攻略が終わった後不審に思われづらくするために、もう一つ策を講じる」
『策?どういうの?』
「それは土曜になればわかるから楽しみにしておけ」
オレは確かな手ごたえを感じながら帰宅した。
また読んでいただきありがとうございます!
『初恋強盗』の70話です!!
今回は仲良し陰浦家回!!
鏡夜は蚊帳の外状態で大混乱の陰浦家!
過去一順調な攻略の行方は!?
次回は桜ノ宮からの呼び出し回!?お楽しみに!
忌憚ない批評・感想いただけると嬉しいです。




